『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』発刊  日本の未来を作る 食の生産者を紹介

スーパーやコンビニにいくと、国産・国外産を問わず、多種多様な食品に溢れているのを感じます。また最近では、各地域の農家が生産した農産物をまとめたコーナーや、自然栽培や有機農業で育てられた野菜を中心に取り扱う店もあり、私たちの食の選択肢は、輸送や農業の技術的な進歩によって、ますます選択肢が増えているように感じます。私たちが、何を選び、どんなものを口にするか。食を選ぶことが、私たちの未来とどう繋がっているのか、考えてみたことはあるでしょうか?


2021年度、D&DEPARTMENTでは、「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT」プロジェクトの一環として、「その土地らしさ」をテーマに活動するD&DEPARTMENTの拠点がある北海道、埼玉、東京、富山、三重、京都、鹿児島、沖縄から、日本の食の未来をつくる8つの活動を紹介しました。(2021年度に発行した『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』はこちら)

そして2022年11月、第二弾として、日本最南端の県である沖縄の食に着目し、沖縄で日本の未来を考えながら、食と向き合う5組の生産者、そして、サトウキビの「もののまわり」を特集する『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』を発刊しました。

コーディネイターを務める私は、2000年から21年間、沖縄へ住んでいた経験があります。移住当時、うりずんや、赤モーイ、ハンダマやカンダバーなど、聞き慣れず、味わいに特徴のある野菜の数々に、驚きを感じつつ「これは一体どうやって食べれば良いのだろう」と思いながら、沖縄の地域性あふれる食の豊かな個性を、身近に経験していました。
また野菜以外にも“鳴き声以外は全て食べる”という豚肉を余すことなく食す文化や、神行事や、琉球王朝時代のもてなしの文化によって続いてきた「医療同源」をベースにした料理など、沖縄に根づく食の豊かさを知り、土地の持つ、風土や歴史、そして人の営みが食文化を育み、そして生活者である私たちの暮らしにも、少なからず影響を与えていることを実感していました。


そんな個性豊かな食文化を持つ沖縄で、日本の未来を考えながら生産活動を行なう方々を取材し、記事としてまとめたのが、『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』です。
今回、制作にともに加わったのは、東京と沖縄の20~22歳の学生たち。もはや、自分の子どもと同じくらいのZ世代と呼ばれる若者たちと、沖縄の食について、8月19日から28日の、約10日間、さまざまな分野で食に携わる方々を訪ね、取材してきました。


タブロイドの4~8ページまでは、農業、珈琲、畜産、活動、小麦というカテゴリに分け、2名1組になって、沖縄の学生たちが取材してまとめています。
取材に入る事前準備として、豊富に感じられている食材が、実はかなり輸入に頼ったものであることから、食料自給率の低さ、また第一次産業に携わる人が減少するなか食を確かなものとするために、技術の向上や機械化によって生産性を高めている現状を学びました。


また、沖縄本島の土壌も、地域によりそれぞれ個性があります。北部は主に強酸性の「国頭マージ」、中部から南部は酸性~アルカリ性で、水はけの良い「島尻マージ」、そして主に南部はアルカリ性で粘りが強く、水はけの悪い「ジャーガル」と呼ばれる土壌に分類されており、その土壌の個性に合った農産物が育てられています。

そんな沖縄の第一次産業に関する、一般的な知識を頭に入れた中で、実際に食の生産に携わる方々の話を聞き、学生たちがどんな思いを受け止め、自分たちの中でその思いを消化し、どのようにその思いを言語化して発信し、意識がどう変化するのか……が、今回のタブロイド号を制作する中で一番大切なことでした。


「農業」カテゴリでは兵庫県から沖縄へ移住し、子どもたちに自分たちが作ったものを食べさせたいと農業を始めた「山パ農園」の福井慎吾さんを取材。なるべく自然の力に任せた農法で、福井さんが好きだという南国フルーツを中心に、多種多品目で生産し、地域や食材を用いて料理を提供する人や、加工する人たちとの繋がりを大切に、生産活動に携わっている姿からは、農業を単なる産業として捉えるのでなく、自然と共生し、作る人そして使う人の相互の理解によって育まれていくことの大切さを学びました。


「珈琲」のカテゴリでは、コーヒーベルトと呼ばれるエリアの最北端に位置する沖縄で、豆の栽培からお客様へ届ける最後の1杯までを届けている「沖縄セラードコーヒー」の末吉業久さんと業充さんを取材。取材をとおして「適正価格」とは何かについて考えさせられました。私たちがより身近に手に取れるようになった食の背景には、生産者の苦労や技術の革新による生産性の向上のほかにも、必ず理由があります。また、その反対も然り。食を選ぶ際に、価格だけを基準に選ぶことが、必ずしも日本の農業を支えるために、正解とはいえないのかもしれません。


「畜産」では、今帰仁村で在来種の黒豚(今帰仁アグー)を育てている高田勝さんと、牛の繁殖農家として活動する、高田さんの息子、茂展さんと明典さんの「高田農場」を訪れました。高田勝さんの農業は“文化を育む”もので、沖縄の風土に合った食の伝統・昔ながらの暮らしに根づいた食のあり方を伺い、在来種を守る活動の意義について学びました。


一方で息子さんたちは、食を確かなものにするために、受胎のタイミングや掛け合わせなど、科学的な根拠に基づいた生産活動を行なっています。文化として畜産に携わる高田勝さんと、生産性や経済性に加え、良質な肉をつくるための、科学的根拠とデータに基づいた畜産。このバランスがとても興味深い取材となりました。


「活動」では、沖縄県北部のやんばると呼ばれるエリアで、地域の生産者たちを繋ぎ、さらには農家たちが育てた農産物を調理販売する飲食店、そして消費者を繋ぐ「やんばる畑人プロジェクト」の芳野幸雄さんと、小泉伸弥さんを取材。新規就農者の受け入れや、生産者と消費者が直に繋がるイベント企画など、個の農業の範疇を越え、食を通して繋ぐ活動の裏には、農家をサポートする体制づくりにあることも学びました。


また県外から、「やんばる畑人プロジェクト」の支援を受けながら、やんばるで新規就農した林昌平さんの畑にもお伺いしました。健やかな作り手を増やしていくには、受け入れ側のサポートに加え、皆でこの地を盛り上げていこうという思い。農家・サポートする側ともに共通していたのは、“やんばる”を愛する思いでした。


「小麦」では、戦前、沖縄県内でも育てられていた小麦を復活させ、沖縄の食文化として再び根づかせていこうと奮闘する「沖縄県麦生産組合」の副会長であり、沖縄そばを提供する「金月そば」の店主でもある金城太生郎さんを取材。「沖縄そば」といっても、麺には外国産小麦が主流に使用されているなか、県産小麦の県内需要を高めることで、小麦を生産する農家や、県産小麦を使った食を提供する活動が活発化します。持続的な活動として安定化させるために、固定概念の枠を超え、県産小麦を復活させる活動から、新たな食文化の可能性を感じました。


そして、タブロイドの10、11ページは、東京の学生3名が、沖縄を訪問し「サトウキビ」のもののまわりを取材し、国内の砂糖を確保するために、「サトウキビ」産業に関わるさまざまな人を取材しました。


学生たちにとっては、修学旅行や観光で、数度しか訪れたことがないという沖縄訪問。しかもサトウキビの収穫は、通常1月~3月で、夏の時期に収穫を体験することはなかなか難しい時期でもありましたが、年間を通してサトウキビから黒糖になるまでの過程を見学できる「沖縄黒糖」や、沖縄県宜野座で、昔ながらの製法でサトウキビから黒糖をつくる渡久地克さんの畑での収穫体験、またサトウキビを活用して、私たちの暮らしにより身近に感じられる商品をつくる「タイムレスチョコレート」や「ヘリオス酒造」を訪れました。
砂糖を国内生産で支えるため、サトウキビ産業が今後どのようになっていけば、より私たちの暮らしにもっと根づき、産業が活性していくのか、取材を通して感じた彼らの視点をまとめています。

一連の取材を通して、Z世代と呼ばれる若者たちの食への関心や意識が変わったことは、いうまでもなく、これまで自炊さえしたことがなかった彼らが、週に数度自炊するようになったり、食材を購入する際に、何を基準に食を選ぶかなど、学びが暮らしのレベルで変化をもたらしています。また自分たちが何気なく手にしてきた食の裏側には、たくさんの生産者の思いがあることも実感しています。

若い彼らの視点で綴った、日本の食を未来に繋げるために大切なことが、多くの方々の目に留まり、日本の未来をつくる食の活動として、私たちができることは何かを考えるきっかけになればと願っています。

 

タブロイドは全国のD&DEPARTMENTで無料配布中。また、本誌で取り上げた生産者や、取材した学生たちによるトークイベントが、11月26日(土)、27日(日)に、沖縄県のプラザハウスショッピングセンターにて開催されます。ぜひ、日本の食を考えるきっかけとして、タブロイドを手に取るとともに、イベントにも足をお運びください。