株式会社TAPP 見学レポート

D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYで開催している「富山プロダクツ2021展」では、今年度新たに選定された「富山プロダクツ」をご紹介しています。「富山プロダクツ」とは、富山県内で企画・製造される製品の中から、機能性やデザイン性に優れたものを選定し、国内外に広く発信する取り組みです。今年度新たに「富山プロダクツ」に選定された商品のひとつ「SAKAKNIFE(サカナイフ)」を作る株式会社TAPPを見学してきました。

当日案内してくれたのは、代表取締役を務める丸山逹平さんです。

こちらが丸山さん。

株式会社TAPPは、仏像や銅像、ディスプレイなどの銅像を作る際の元になる原型を作るメーカーさんです。他にも釣具やアウトドア用品のデザインなど、幅広く手がけています。丸山さんご自身も造形師兼仏師でいらっしゃり、人気の漫画キャラクター像の原型も数多く手がけていらっしゃるそう。

「SAKAKNIFE」は、名前の通り、簡単に魚をさばけるようにデザインされた包丁です。今回使い方を教えていただいたのは、日常的に魚をさばいてほしい、という思いから作られた「SAKAKNIFE for Kitchen」。

こちらが「SAKAKNIFE for Kitchen」

魚をさばいた経験がほとんどない私は、この包丁で本当に魚がさばけるの?どうやって使うのか難しそう、というのが第一印象でした。

「包丁の形にそって、4つのステップを踏めば、誰でも簡単に魚をさばけますよ!」と丸山さん。4つのステップというのは、①うろこ取り、②J形状の刃を使い身を削ぐ為の切り口をつける、③骨を断ち切る、④身をそぎ切る。これさえ覚えれば大丈夫、ということですが、やっぱり難しそう・・・。

と、いうことで、実際に「SAKAKNIFE for Kitchen」を使って、魚をさばいてもらうことになりました。当日用意していただいたのは、立派なフクラギ!!これがさばけたら、確かに自信が付きそうです。

まず初めに、裏面のギザギザの部分で魚の鱗を落とします。刃の形状が鱗の隙間に入る形になっているので鱗がとりやすく飛び散りを軽減されます。鱗を落とした後は、J形状の先端の部分で魚のお腹に切り込みを入れていきます。

 

この切り込みは、魚を3枚に下ろすときに包丁で切る箇所ををわかりやすくする目印のラインになります。

切り込みを入れたら、ノコギリのような刃先で魚の頭を切り落とします。

フクラギの大きな頭を切り落とすのはとても力が入りそうだな、と思いましたが、まるで大根を切っているみたいに軽い力で切っていました。

最後にノコギリではない刃の部分で身を3枚におろしていきます。まっすぐではなく、曲線の刃になっており、細かな操作がしやすいようにデザインされています。

はい、これで完了!ここまでさばくのにかかった時間は5分ほど!!あっという間に出来上がり、こんなに短い時間でさばけるのかと驚きました。

切った断面もすっぱり切れていて、骨にほとんど身も残らず綺麗です。魚をさばいた事のない私でも、これならできそうな気がしてきました。

そもそもなぜ、丸山さんは魚をさばくのに特化した包丁を作ろうと思ったのか、その背景を伺いました。

もともとは、包丁ではなく、釣りで使うホタルイカ型のルアーを作ろうと考えていたという丸山さん。ホタルイカ型のルアーを作るにあたって、クオリティの高いルアーを作るには専門的な知識を身につけたいと思い、それなら漁師が一番!と、なんと2年間も漁師を経験されたそうです。実際に漁に出て、漁の様子や水揚げ直後の新鮮なホタルイカの様子を直接確かめ、ルアーの開発に生かしたそうです。

そんな漁師生活で、改めて実感したのが、富山湾でとれる魚の種類の豊富さ、そして美味しさ。その一方で、目に付くようになったのが、スーパーで売れ残り、捨てられていく鮮魚たちの光景でした。どうしてこんなに美味しいのに売れないのか。せっかくの命なのに捨てられてしまうのか。調べてみるとシンプルに「魚をさばけないから」というのが、鮮魚を避ける一番の理由だということがわかりました。

魚は美味しいのに、さばけないから買わない。買わなければだんだん食べなくなって魚を食べる文化が廃れていきます。漁師になってみて「魚離れ」の深刻化を痛感した丸山さんは、漁師を経験させてもらった恩返しに、自分にできるやり方で、この問題を解決する方法を考えよう!と決意。「魚がさばけないなら、簡単にさばける道具を作ろう!」と思い立ち、そうして完成したのが、初代の「SAKAKNIFE」でした。

 

造形師でもある丸山さんが作った「SAKAKNIFE for Kitchen」は、シンプルで無駄のない見た目のデザインも素敵ですが、使いやすさにも徹底的にこだわって作られています。例えば、この持ち手の部分。

一般的な包丁は、直線的な持ち手になっていることが多いですが、「SAKAKNIFE for Kitchen」の持ち手は、緩やかな曲線と握り込みに合わせてふっくらとした凹凸がデザインされています。「包丁は人によって握り方が違うのですが、“SAKAKNIFE for Kitchen”は、どんな握り方でもフィットするようにデザインしました」と丸山さん。

確かに、男性と女性では手の大きさも違いますし、グーで握り込む人、人差し指を伸ばして刃に添える人もいます。手の大きさや握り方が違っても、しっかりフィットするように何度も造形の研究を重ねた結果、この形状に辿り着きました。

私は、ぎゅっとグーで握って包丁を持つのですが、指のフィット感がとてもよく手に馴染みました。

試しに親指を伸ばして持ってみたり、いろんな持ち方を試してみました。どんな持ち方でも手にフィットします。魚を触った手で持つと滑りそう、と思いましたが、この形状だと握った手の形に持ち手がしっかりとフィットし、滑りません。握りやすさにとても感動しました。オールステンレスで刃と持ち手が一体になったデザインは、スッキリしていて衛生的でもあります。

丸山さんは、デザインを考える時、見た目だけのデザインだけではなく「機能美」を重視するそうです。どんなに素敵なデザインでも長く使い続けてもらうためには、余分な装飾を排し、誰でも簡単に使えることが大切。さらに使う人や場面を想像し、作り手自身が、知識と愛着を持たないと長く使い続けられるデザインは作れないと言います。私自身も、魚をさばくのにはハードルがありましたが、今回実際に使い方をみて、さらに丸山さんの思いに触れて、これなら私もさばいてみたい!と思えるようになりました。せっかく富山に住んでいて、美味しい魚に恵まれているのだから、道具の力を借りて、楽しく魚を味わえたらいいなと思います。