京都「宇治田原定食」ができるまで

輝かしい新緑の季節は、茶農家の一年をかけた茶摘みが始まります。ご提供している「宇治田原定食」は、宇治茶の産地、宇治田原町の「茶農家の暮らし」をテーマにした定食。(d食堂京都では、京都の郷土料理や生産者のものづくりをテーマに月替わりの定食を提供しています。)宇治田原町に生まれ育った私から見た、宇治田原の食文化を編集し、定食にしてきましたが、今年は地元の味をより料理で感じてもらいたいと思い、現地に向かいお話を伺いました。

京都市内から車で40分、京都府南部に位置する自然豊かな田舎町。緑茶が日本で初めて作られたことから、お茶の町として知られています。宇治茶の主要な産地であり、見渡せば一面に茶畑が広がります。

宇治田原の家庭の味知るために伺ったのは、86歳の静子おばあちゃんのご自宅。現在一人暮らしの静子さんですが、毎日畑仕事や料理は欠かさず続ける元気なおばあちゃんです。幼い頃に食べさせてもらった佃煮やおはぎが、私の料理が好きなったきっかけでもあります。そして町のお料理自慢のお母さん、松本雅代さん、永谷敦子さんと一緒にお料理を教わりました。

食卓に地元の食材がずらっと並び、料理の準備が始まります。「これはあの人がつくってるやつ」「これはあそこのスーパーで」と食材の説明をしながら、手を動かしていきます。(事前に定食に出てくる食材やお料理をお願いして作っていただきました。)

かしわのすき焼き
昔は家に鶏を飼っている家庭が多く、親戚やお客さんが来ると鶏を捌き、すき焼きにします。卵を産み終えた親鳥を使うことが多く、一般的な鶏肉に比べて、強い歯ごたえとうま味が特徴です。地元の人は、この親鳥のことを「硬いかしわ」や「田舎鶏」と呼び、鶏肉屋さんで頼むことが多いそう。野菜は、葱やしいたけ、こんにゃくなど地元の野菜をたっぷり使います。

茶汁
茶仕事や山仕事の休憩時に食べられる宇治田原の郷土料理。出汁になる魚(焼いたニシン、鰹節)を加え、薬味(ねぎ、三つ葉、セリ)などを混ぜ込んだ味噌だねをつくり、一人前づつ丸めます。地元の食べ方は、味噌玉を山や畑に持っていき、焚き火で沸かした番茶を注ぎ、溶いて食べます。言わば携帯味噌汁のようなもの。この日は、静子おばあちゃんの手作り味噌、焼いたニシン、鰹節、ねぎを加えた味噌玉に番茶をかけていただきました。番茶の香ばしい香りと味噌が溶け合い、即席とは思えないほど豊かな味。お茶と味噌さえあればこんな美味しいお味噌汁が作れるとは、普段の暮らしにも取り入れたいです。

茶殻の佃煮
茶農家では、玉露や煎茶など普段は売りに出してしまう高価なお茶は、茶殻も捨てることなく料理にして食べます。佃煮にしたり、天ぷら粉に混ぜたり、ポン酢をかけてお浸しにしたり。家庭によって様々ですが、佃煮にすると、不思議と海苔の様な磯の香りとお茶の持つフルーティーな風味が現れます。作って頂いたのは、茶殻にじゃこや鰹節をたっぷり混ぜ込んだ佃煮。さっと煮ているので、混ぜごはんやおにぎりにも良く合う一品です。

こんにゃく
始まりは、茶畑の隅で蒟蒻芋が栽培出来たことから広がりました。宇治田原のこんにゃくは、水分をたっぷり含んだふわふわした食感。こんにゃくを主役級に盛り付けて、そのまま食べるのが地元流。食べやすい大きさに切った蒟蒻を茹でて、酢味噌や醤油につけて刺身にしていただきました。食感だけでなく、芋の持つ深い味わいが楽しめます。

水菜
蒟蒻芋と同様、茶畑で栽培されていた作物。生命力が強く、良く育つ野菜として重宝されてきました。サラダにして食べるような水菜ではなく、株は白菜ほどの大きさにもなり、茎は太く葉は濃い緑色。揚げと炊いたり、辛子和えにします。うまみたっぷりで、炊くと柔らかい、たくさん食べたい水菜です。

2時間ほどで11品のお料理が出来上がり、これだけの家庭料理が机に並ぶのは年末のお正月くらいじゃないかと。お母さん達の昔のお話を聴きながら皆んなでいただきました。水菜の辛子和えにも手の温もりが残ったおいしさを感じます。

食事をしていると、静子おばあちゃんが手作りの蓬餅とさんきら団子を作ってくれていました。宇治田原で昔から作られている家庭のおやつです。さんきらは、セロファンのように餅がくっつきにくい植物で、この葉を使って餅を蒸しあげます。しかしこの日はさんきらが手に入らなかったようで、お茶の葉っぱや椿の葉っぱに変えてみたそう。「どれも失敗や!まぁ、食べてくれ!」と楽しそうにもてなしてくれました。

次に蒟蒻の生産者さんへ伺いました。中心地から10分ほど車を走らせ向かったのは、奥山田という地域。廃校になった小学校の跡地を使い「奥山田考房」(地域のお母さん達の食品加工グループ)が蒟蒻を手作りしています。こちらの蒟蒻は、宇治田原定食に使っています。

作り方は、芋を炊き、水を混ぜてミキサーにかけ、手で捏ね、蒸仕上げます。製品になるまでは、なんと3日間。冬に収穫した蒟蒻芋をカットし、冷凍保存するので、一年を通して蒟蒻作りが行えます。芋の皮の残し具合で、仕上がりの色が濃くなったり薄くなったり、個性豊かな蒟蒻が出来上がります。

宇治田原で採れた蒟蒻芋

炊いた芋をミキサーで撹拌していきます。

一番難しい作業は、捏ねる作業。手作業で10分以上捏ね続けます。捏ね具合を見極め、手の感覚で調整します。宇治田原の蒟蒻がまさか手作業で作られる驚きと、あのふわっとした食感は、手の力加減で生まれているのだと知りました。まさにお母さん達の真心から生まれた蒟蒻です。

最後に伺ったのは、椎茸農家の「小山製茶場」

茶農家の裏作として作られる原木栽培の椎茸は、宇治田原の特産品になっており、香りが高く、肉厚、ジューシーなお味。茶仕事が始まるこの時期は、椎茸栽培も終盤で、ハウスの一角だけを見学しました。

ご高齢のお二人で茶畑と椎茸栽培を行うのはかなりの重労働。跡継ぎなどの問題もあるそうですが、宇治田原の伝統食材の一つとして続いていって欲しいと感じました。その後は、山いっぱいに広がる小山さんの茶畑を見学。宇治田原を訪れる人たちに茶畑の風景を伝えています。

取材を経て、宇治田原の人達にとって、茶仕事は生活の一つであり、茶仕事を中心として生まれた食材や調理法があることを学びました。すき焼きや佃煮の様に食材の組み合わせを活かしたり、鰹節のような出汁素材をそのまま使うなど、食材の力(おいしさ)を借りた料理は無駄なく、手際よく作れる秘訣です。

今後も地元の食材を使い、宇治田原の風景を感じる定食にしていきたいです。

「京都・宇治田原定食」

提供期間:2023年4月7日(金)~6月1日(木)
場所:D&DEPARTMENT d食堂 京都
営業時間:11:00-18:00(l.016:30)

◯店舗情報
D&DEPARTMENT KYOTO / d食堂 京都 ( Instagram / Facebook )

住所  京都府京都市下京区高倉通仏光寺下ル新開町397 本山佛光寺内
SHOP  ??075-343-3217
食堂  ??075-343-3215
※水曜定休