糸瓜の新しい可能性を提案する「YULA」ができるまで

D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYの恒例企画である「富山プロダクツ展」。2022年度も新たに「富山プロダクツ」に選定された商品をギャラリーでご紹介しています。「富山プロダクツ」とは、富山県内で企画・製造された製品の中で、機能性やデザイン性に優れたものを選定し、国内外に向けて広く発信していく取り組みです。2022年度は、8社11点のアイテムが新たに「富山プロダクツ」に選定されました。今年の選定品の中から、気になる商品をレポートします!

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今回のレポートでは、今年の選定品の中から「 YULA」をご紹介します。

こちらが「YULA」。涼やかな素材が印象的なオブジェです。

この素材、何かわかるでしょうか?きっと小学校の頃に育てたことがある!という方も多いはず。実はこれは糸瓜なんです。オブジェとしてだけでなく、糸瓜の通気性・速乾性を生かして、フレグランススタンドとしても使えます。

糸瓜というと、食器や体を洗うたわしに使われている、生活に密着した素朴な素材のイメージだったのですが、「YULA」をみて、こんなに素敵なアイテムになるとは!ととても驚きました。アート作品のようでもあり、部屋に飾りたくなります。こんなワクワクするアイテムがどうして生まれたのか?その背景を教えてもらうために、このアイテムを製造・販売する射水市の「へちま産業」を訪れました。

へちま産業の瀧田秀成さん

「へちま産業」は、射水で栽培された糸瓜を使って、たわしなどの生活用品や化粧水などのコスメアイテムなど様々な糸瓜商品を開発し販売しているメーカーです。ところで糸瓜というと沖縄など南国に育つイメージがありますが、どうして射水で栽培されているのでしょうか?

「始まりは、1980年代にはじまった一村一品運動です。糸瓜は栽培がしやすく、日用品として日本人の生活に密着した作物だったので作ってみよう、ということになりました」と瀧田さん。と、いうことは、40年以上も歴史がある産業なんですね!「へちま産業」は、糸瓜を加工して販売する組織を作ろうと、射水の町の人々が協力して立ち上げました。現在は、商品企画・販売はもちろん、栽培も手がけていらっしゃいます。

壮観な糸瓜畑

様々な糸瓜商品を作ってきた「へちま産業」ですが、「YULA」のようなインテリアとして楽しむアイテムは、今までありませんでした。一体、このアイデアはどうやって生まれたのでしょうか?

「YULA」が生まれるきっかけとなったのが、富山県が主催する「富山デザインコンペティション」です。このコンペは、商品化を前提に全国のデザイナーがアイデアを競い、優秀なアイデアには、富山の作り手がパートナーとして協力し、実際に商品化を試みる実践的な取り組みになっています。2019年度に開催されたコンペに参加されたインテリアデザイナーの進藤篤さんが富山をリサーチする中で出会ったの素材が、糸瓜でした。


インテリアデザイナーとして活躍する進藤篤さん

進藤さんは、インテリアデザイナーとしてホテルや大型の商業施設の空間デザインを手がける一方、ライフワークとしてアート作品の制作・発表を続けていらっしゃいます。ライフワークとして発表されている作品は、光や石、ガラスといった、素材や自然のありのままの美しさを引き出すような作品が印象的です。「ものを作るということは、一方でゴミを生み出すことでもある。だから、ものを作る以上、長く使えるもの・愛されるもの作りたいと思っています。そのために、自然の美しさは意識しています。自然の風景を見て、美しいと感じる気持ちは、どの時代でもきっと変わらないと思うんです。自然に秘められている美しさをデザインに取り入れることは、長く愛されるために必要なことだと考えています。」と進藤さん。

富山デザインコンペティションに応募する際も、何か自然なものを使いたい、とリサーチを続けたそうです。富山の素材といえば、金属やガラスなどがパッと思い浮かびますが、進藤さんは、見直すべき素材がまだまだ富山には隠れているのではないか、と思っていたそう。そうして出会ったのが射水の糸瓜だったのです。

糸瓜は、植物の繊維そのままなので土に埋めれば自然に還ります。それだけでなく、射水の糸瓜は無農薬で作られていること、そして他の産地と比べてみると肌触りや柔らかい、という特徴もありました。何より、荒めの繊維が美しく艶があるところも魅力的だったと、進藤さんは話します。

「YULA」は、そんな射水産の糸瓜の美しさをそのまま表現するために、作りも極めてシンプルになっています。実際に糸瓜を加工するところを見せていただきました。

工場には、高く積まれたへちまの山!!

畑で収穫された糸瓜は、一度水を張った桶に2~3日浸し、皮を柔らかくします。皮を剥いだら、あとは天日干しで乾燥させると、繊維だけが残り、よくみたことのある糸瓜の姿に。

このあとカットして開き

プレスして

型に合わせて裁断して

ミシンを使って縫い合わせれば完成です。

特別な難しい加工は一切なくシンプルなことに驚きました。実は、シンプルな作りにする、というところも、デザインの際に意識されていたポイントなんだそうです。「デザインをするときは、ものだけでなく、会社の未来も一緒に考えてたいと思っています。新しいものを作るために、新しい機械や技術入れるような無理をせずに、作り手にとっても自然なものにしたい。へちま産業さんは今までにいろんなものを作ってこられていますが、これまでに挑戦したことのなかったインテリアの領域に可能性を感じました。」と進藤さん。

ありのままの素材を使って、今ある技術で作る、というとシンプルなようですが、とても制限が多い、と言うことでもあります。限られた条件の中でも、今までになかった糸瓜の用途の提案し、その美しさに気付かされる「YULA」を見ると、改めてアイデアとデザインの力はすごい、と感じます。

「YULA」で糸瓜の新しい可能性を見せてくれた「へちま産業」と進藤さん。今後のことを伺うと、新しいアイテムを検討中とのこと。今からとても楽しみです!!