福島定食ができるまで(1)仁井田本家

d design travel誌の30県目となる、今回の目的地は「福島県」。日本で北海道、岩手についで3番目に広い面積を誇る福島県は、隣の栃木県が2つ分すっぽり入るほどの大きさ。

向かったのは12月の上旬。事前に連絡を取っていた生産者のみなさんから、しっかり防寒をしてきてくださいね!と念を押されていたので、全身厚着にカイロを仕込ませ、取材の出発点となる郡山駅に到着した。

この日、最初に伺ったのは「仁井田本家」さん。創業は1711年の江戸中期頃から300年以上続く酒蔵だ。駅から車を走らせること15分程、近づくにつれ「自然酒」と文字が刻まれた大きな木桶が見えてきた。

ちょうど伺った時間は作業の真っ只中で、ほのかに日本酒の香りが漂っている。「うちは、8時から10時まで事務も関係なくみんなで酒造りをするんですよ。」夏は田んぼで米作り、冬は酒造りをするそうだ。車で向かう途中に見かけた田んぼは、みなさんが自然栽培で育てているお米だ。お米と水がなければいい酒はできない。まずは日本の田んぼを守り、元気にすることを掲げて少しづつ農地を増やしている。

「今は6ヘクタールのみが自社田です。これが60ヘクタールになるとお米をすべて自社田米で賄えるようになるんです。」と、仁井田本家18代目の仁井田穏彦さん。ヘクタールというとピント来ないが、建物で例えると東京ドーム一つ分よりも広い面積だ。仁井田さんでは田んぼから出る藁や籾殻などを再び肥料として戻す無肥料自然栽培を行っている。ここで育ったお米から造られるのが「にいだしぜんしゅ」なのだ。

今でこそ「仁井田本家」さんを訪ねて来る人々は多いが、震災後は風評被害に遭い苦しんだと話してくださった。そして、今も変わらず苦しんでいるのはお米を提供してくれる農家さん。田んぼを守ること、その使命の要にもなる担い手を絶やさないために、仁井田さんでは農家さんから有機栽培や自然栽培のお米を仕入れ、米農家さんが次の世代へと繋いでいけるような取り組みも行っている。

「若い人に日本酒を飲んで支えてもらいたい、飲みながら田んぼも守っていきたい。」以前は地域名の金沢村の寳来屋から「金寳(きんぽう)」と名付け、昔からこの土地に馴染んだ酒造りをされてきたが、18代目は名前を「にいだしぜんしゅ」に一新。当時の顧客の方々にはあまり評価を得られなかったそうだが、目を引くような柔らかいロゴと日本酒のおいしさに若い人々からの支持が集まるようになった。

「将来は、自給自足ができるようになりたい。」そう語る眼差しは真っ直ぐで生き生きと輝いている。今だけを見つめず、自分の孫の世代からその先へと繋いでいくことを目指し、稲作から木桶に至るまで自ら育てて作っている。日本酒の製造過程で出る副産物も発酵食品に加工し、ぬかや酒粕などは田んぼに戻すなど廃棄するものはほとんどない。余すことなく循環させる取り組みは簡単なことではないが、仁井田さんの言葉にはそれが真っ当だと示す力強さがあった。

ここまでの話に圧倒されて、気づけば予定の時間が迫った状況に。作業も見せていただけることになり、急ぎ足で酒蔵へと向かった。最初に見せていただいたのは日本酒のもとを造る「もと場」。ここでは米を発酵させるために欠かせない酵母を育てている。

仁井田さんでは生もと造りと呼ばれる、蒸した米、水、米麹と蔵に住み付く乳酸菌によって酵母を育てる造り方をされている。この過程では一般的に酵母を添加する手法が取られているが、酵母菌も蔵にいる天然菌が頑張ってくれるのだ。
「酵母菌は酸っぱいのが好きだから、まずは乳酸菌に活躍してもらうんです。」桶の中を見せてもらうと、既にぷくぷくと泡が出始めて酵母が活躍している最中だ。

この部屋は柿渋が塗ってあり、タンニンによる除菌効果が保たれている。無菌にはしたくない、菌とも程よく共生していける関係を作りたいと話す姿に、タルマーリーの渡邊さんの姿が重なった(まだお会いしたことはないが、きっとそうに違いない)。
仁井田本家のみなさんには、きっと菌の声が聴こえているのだろう。

そしてついに日本酒が貯蔵される蔵へ。中に入ると、今までとは少し空気が変わったような気持ちになる。

清潔で神聖な空気、酒蔵が綺麗だと、ここに住む菌たちも綺麗だということが肌味で分かる。ここには木桶と琺瑯でできた仕込みタンクが並んでいるが、15年後には全て木桶で仕込めるようになりたいとおっしゃっていた。新酒があるので飲みますか、というお言葉に甘え、一口いただくとこの笑顔に。

日本酒のいろはを語るには乏しい自分の舌でも、すっと水のように喉を潤していく美味しさに驚いた。もっと飲んでもいいですか......と気づけば柄杓に入っていたお酒は空に。これほど美味しいと思う日本酒に出会えたのは初めてだ。

300年を越える歴史の中で途切れることなく続いてきた仁井田本家には、歴史が物語るのではなく今を生きる人々がこれからの300年を願い、次の世代に繋げようという思いがある。今、敷地内で育っている杉は16代目が植えたものだ。この杉でできた木桶は100年この土地を見守り自然へと戻っていく。親から子、そして孫からその先へ、今までの仁井田本家を支えてきた人々の思いが今を作り守っているのだろう。

仁井田本家という大きな希望に、どんと背中を押されて次の取材先へと向かった。

 
仁井田本家
福島県郡山市金沢高屋敷139番地 MAP
仁井田本家HP


「福島定食」ができるまで
D&DEPARTMENT PROJECTが、47都道府県それぞれにある、その土地に長く続く「個性」「らしさ」を、デザイン的観点から選びだして紹介するデザイントラベルガイド『d design travel』。30県目の節目となる、今回の目的地は「福島県」。d47食堂では、『d design travel』の発行毎にテーマとなる県の定食を提供しています。今回の旅は、「福島定食」を完成させるため、福島県でたくさんの場所や人を訪ねました。現地を訪ねたd47食堂スタッフによるレポートをお届けします。(全10回予定)


 
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