ものにはまわりがある展 現地ツアー 空気や水の生まれ故郷を訪ねる 木こりになる、山の参観日

d47 MUSEUM第30回企画展「ものにはまわりがある展」では、「もののまわり」をテーマに、地域のものづくりや、場所、食文化、活動を紹介しています。本展では、その土地らしいプロダクト、場所、食文化、活動を「もの」として捉え、その「まわり」を会場内で紹介する他、各地のキーマンとのツアーや勉強会など、現地へ実際に旅をして学ぶプログラムを実施しています。

2022年8月6日は、東京都檜原村へ。

東京の八王子市のさらに西にある西多摩郡檜原村で林業を営む、東京チェンソーズの吉田尚樹さんを案内人に迎え、私たちが生きていくために必要な空気や水の根源となっている檜原村を訪れ、それを支えている木こりの仕事を実際に体験しました。

当日は檜原村の払沢の滝(有名な観光地です!)の駐車場で、参加者の皆さんと待ち合わせ。車でいらっしゃる方、最寄りの駅のJR武蔵五日市駅からバスでいらっしゃる方、駅からレンタサイクル(!)でいらっしゃる方、様々でした。真夏日の開催でしたが、8月6日の天気はくもり。小雨がパラパラと降り出すこともありましたが、空気の澄んだ、山を歩くには丁度良い気候でした。

東京チェンソーズの活動を学ぶ

ツアーのはじまりは、座学から。払沢の滝から、東京チェンソーズの事務所まで移動してもらい、スライドを見ながら檜原村のこと、東京チェンソーズの活動のことについて、説明してもらいました。

檜原村の面積のなんと93%が森。そのうちの約6割ほどが、戦後、国の方針によって植えられたスギ、ヒノキ、サワラなどの人工林です。樹齢70年、直径30~40cm、長さ4mほどある木が平均1本3000円で取引され、国の補助金などによってなんとか林業が成り立っている現状を教えてもらいました。その森を日々整備しながら、東京チェンソーズでは市場で活用されていない木材を安く販売するのではなく、加工やデザイナーの力で付加価値をつけることで、その価値を最大化することに取り組んでいます。

東京の森を学ぶ

そして、いよいよ東京チェンソーズの社有林に移動。座学を受けていた事務所から車で10分もたたずして、ここまで違うのかと思うほどの空気の澄み具合。山頂へ近づく程、肌寒さは感じましたが、山々がぐっと近づき、晴れ晴れとした気持ちになりました。

早速、森の中へ進みます。

スギとヒノキの見分け方、周りの植物の種子から発芽した実生(みしょう)苗はどれか、ここに生えている美味しい山菜など、細かく教えてもらいます。

中へ進んでいくと、背の高い木が見えてきました。

長さは25mを超えるほど。間伐などの手入れが行われなかったため、光が届かず上へ上へと成長し、細くなってしまった場所だといいます。結果として、細い分、年輪が詰まって強度が増しますが、この細さでは通常の木造建築では使い道があまりありません。

逆に、上の写真のような成長過程で曲がってしまっている木は「曲がり材」と言います。現在の林業・木材業界では曲がり材は使いにくいため嫌われ、建築用材などには使われず、チップや薪などの燃料用として低価格でしか取引がされていません。一方、昔はいろいろなものに木材が利用されていて、木材の個性を活かした使い方ができる職人さんも多く、曲がり材も曲がったままの形で建物の梁に使うなどの使い方があったといいます。

更に上へ進みます。

社有林の中で、一番高いところから見た景色。この日は生憎の曇りで見れませんでしたが、晴れていれば、遠くに東京スカイツリーが見えるのだとか。(見てみたかった!)

1時間ほど歩き、ようやくお弁当タイム。なぜこのツアーに参加したのか、皆さんの熱い想いを知れた時間でした。

木こりの視点を学ぶ

ツアーの後半は、今回の目玉でもある、「木こりの視点で森を歩く」という体験。道のないところに道を作るにはどうしたら良いのかを、吉田さんに教えてもらいました。

配布されたのは社有林の地形図。緑に塗られた箇所は緩やかで、赤く塗られた箇所が特に急な傾斜の部分。この地形図を見ながら、図面で線をかき、ある程度目星をつけながら踏査をします。シャベルカーで荒道をつくり、この道順で正しいか確認をしていくそう。この地形図を持ちながら、実際に作られた道を歩きました。

道をつくるには斜面の壁を削る必要があります。既に育っている木々が倒れてこないよう、その場所の傾斜を考慮しながら削っていきます。

道幅の確保や路肩補強のために土の中に木組みを入れ、崩れないようにしている壁もありました。

そこに種が落ち新芽がでてくることにより、根が張って、より崩れにくくなるそう。

その削った土を移動させながら、道を平らにしていくことで、作業道ができあがるのです。

 

約3時間、社有林に滞在していましたが、社有林に入る前と後では、この景色の意味合いが変わりました。空気が澄んでいて綺麗だと感じるだけでなく、長い年月をかけ、この山を整備し続けている木こりたちがいるからだと、彼らの偉大さを強く感じました。

東京に住んでいると、どこか遠い存在に感じる山。しかし、私たちが日常的に木製品や豊かな水資源を使えたり、天災による土砂崩れを防いだり、空気を循環させたり、命や暮らしを支えている裏側には、“山のしごと”があるのです。今回は「道をつくる」という木こりの視点を体験する内容でしたが、山のしごとはまだまだ沢山あります。今後も、私たちの暮らしと森、街のつながりについて考えていくためにも、継続的に檜原村を訪れるツアーを計画していきたいと思います。