ランドスケープデザイナー矢部佳宏さんと一緒に西会津の街をめぐる2日間の旅

d47 MUSEUM第30回企画展「ものにはまわりがある展」では、「もののまわり」をテーマに、地域のものづくりや、場所、食文化、活動を紹介しています。本展では、その土地らしいプロダクト、場所、食文化、活動を「もの」として捉え、その「まわり」を会場内で紹介する他、各地のキーマンとのツアーや勉強会など、現地へ実際に旅をして学ぶプログラムを実施しています。

 

2022年8月27日、28日は福島県西会津エリアへ。

今回の案内人は、西会津で活動する一般社団法人BOOTの矢部佳宏さんと山口佳織さん。

矢部さんは、ランドスケープデザイナーであり、約360年続く山奥の集落にあるご自身の家を19代目として継承しながら、持続可能な地域づくりに取り組んでいます。今回は西会津に残る「アート」を通して、西会津の街をめぐるツアーを実施しました。

 

【1日目スケジュール】
◯道の駅にしあいづ 集合
◯工事中の古民家見学
◯Restaurant&Caf? KUAR見学
◯西会津商店見学
◯出ヶ原和紙職人アトリエ見学
◯NIPPONIA楢山集落へ一泊

【2日目スケジュール】
◯NIPPONIA集落周り散策
◯お香作り・藁縄作り体験
◯西会津芸術村見学・お昼
◯道の駅にしあいづ 解散

→プログラムの詳細はこちら

 

街を歩いて、西会津の今を知る

 

「道の駅にしあいづ」に集合し、最初に向かった先は工事中の古民家。

西会津には、多くの空き家があり、ただ空き家があっても物件として出さなかったり、そのまま放置されることが多いといいます。その使用されていない空き家を利用したレストランの成功例が、実はこの工事中の古民家の隣にありました。成功例を知った持ち主の方が、レストランのオーナーへ声がかかったことがきっかけとなり、工事に着手したそうです。元々雑貨屋であった古民家は宿になるとのこと。全て新しくするのではなく、元々あった古民家の良さを残した宿にしようという想いを教わりながら、案内してもらいました。

 

次に、成功例となった隣のレストランへ。

お昼頃にちらっとこのレストランを覗き込むと、老若男女の方達で賑わっていたレストラン。天井や梁、垂れ壁部分などは元のまま残してあり、落ち着く雰囲気です。

 

そのまま近くの「西会津商店」へ移動します。

外からこの空間の中に入っていくと、映画のセットのような少し夢見心地になるような不思議な空間にドキドキ…と思っていると、山口さんから「この空間を使って、演劇をしたんです。」とお話しいただきました。

話を聞いてみると、有志で演劇する人が集まり、この西会津商店だけでなく、まち全体を使っての演劇をしたそう!西会津商店は、演劇だけでなくワークショップなどにも使われているそうです。

 

 

過去の西会津と今をつなぐNIPPONIA楢山集落

西会津中心街から、車で30分移動しNIPPONIA楢山集落へ。山をぐんぐんと登っていきます。到着すると景色は一面、山と田んぼと空。都会では決して味わえない光景と、風が運んでくる土や緑の匂いに圧倒。

この日は曇り空でしたが、もっと綺麗に雲海が見えるときもあり、満月の夜は月の明かりだけで一面明るくなるそうです。

 

 

 

最初に敷地内にある「山の神様」へ挨拶をしに行きました。木々に囲まれた場所は、神聖な空気感で、気持ちもぐっと引き締められます。

 

そして、宿の部屋もひとつひとつ案内していただきました。

NIPPONIA楢山集落は、矢部さんのお祖父さんが持っていた建物と倉庫を使ってつくられています。元々の建物を存分に生かした工夫がされていたり、和紙が使われていたりなど、元々あった材料や西会津にあるものをできるだけ使用することを心がけていたそうです。宿内だけでしっかりと、西会津を堪能できていることを感じます。

各部屋には、道中で見学させてもらった出ヶ原和紙作家である滝澤徹也さんが作った和紙も使用されています。とても大きなサイズを必要としたため、和紙は宿の敷地内にある池を使ってつくられたのだとか。(しかも、真冬に作られたそうです…!)
漉いた和紙の材料には、矢部さんのおじいさんが書籍や教科書を使用しており、よく見ると小さな文字が。この場所でつくることの意味を感じます。

 

和紙作家の滝澤さんのアトリエでは、今まで制作された和紙や実際に使う道具を見せていただきました。

 

そして、夜は外で隣の集落のお母さんがつくる郷土料理をいただきます。
馬刺しやニシンの山椒漬けなどを堪能しながら、矢部さんと山口さんより、楢山集落や矢部家のお話を伺っていきます。

 

ゆっくりと夕食をいただき、1日目が終了。
外は真っ暗で、虫の声だけが聞こえる空間で一夜を過ごしました。

 

 

2日目のスタート

朝ごはんは部屋でいただきます。
朝ごはんも、隣の集落のお母さんが作ってくれたもので、炊きたてのお米に食事がすすみます。

 

朝食の後は、宿の周りを散策。
この日は、雨が降っていて1日目よりも土や緑の匂いを感じます。

 

山口さんが木瓜の花を手に摘んで見せてくれました。木瓜の花は香りが甘いんですね、初めて知りました。こういう些細なところから自然と一緒に暮らしていることを実感します。

 

 

矢部家に伝わる伝統をわたしたちが知る

西会津に伝わる、お香作りと藁縄作りを体験。

まず、矢部さんが矢部さんのお祖母さんに教えてもらったという、お香作りを体験させてもらいました。ちなみに、矢部さんのご両親はこのお香の作り方を知らなかったそうで、たまたま、お祖母さんから教えてもらったそうです。自分だけで止まらせるのではなく、いろんな人に知ってもらいたい、と私たちにも教えてもらいました。

2週間ほど乾燥させた桂の葉(敷地内に桂の木があり、その葉を使用しています。)を使い、葉っぱをみんなで何度も手をすり合わせていくと、葉の形は無くなっていき、粉状になります。

矢部家に伝わるお香は粉状のもの。そして、竹の中をそぎ取った矢部さん自作の棒状のものに作った粉を入れ、香炉の上に綺麗に線の形を作っていき、完成させます。

作ったお香に火をつけると、今まで嗅いだことのない自然なほんのり甘さがある桂の葉の匂いが香ってきました。

 

続いて、藁縄作りを体験。

昨年、矢部さんの田んぼで取れたお米の藁を使い、藁を両手に3本程ずつ持ち足に引っ掛けて、手のひらをうまく使いながら藁を回し、よっていきます。これを繰り返すと、縦縄状になっていきます。

言葉にすると簡単に思うのですが、コツを掴むまでが少し大変。


みなさん、かわいらしい藁縄ができました。

お米を作るだけでなく、残った藁をまた利用する昔からの知恵は、無駄がなく、ものを大事にする意思が見えます。しかも、今回わたしたちが体験した縦縄作りの技を駆使しながら、また異なる技を増やして、履物や羽織ものを作っていたと考えると、より感服しますね…。

 

 

西会津のアートを体験

蔵を改修して2022年7月に完成したばかりの「古川利意美術館 農とくらし」へ。

館内では、会津の行事の絵やくらしに纏わることなどを中心に、古川利意さんが描いた版画や絵手紙が展示されています。

古川さんが描く絵と文字は、お茶目さを感じ、ほっ、と心を安らがせてくれる存在で、今でもまちの人にも愛されていることがわかります。

 

そして旅の最終目的地「西会津国際芸術村」へ。

西会津国際芸術村は、中学校だった木造校舎を使ってできたクリエイティブセンターです。校舎に入ると、展示物が様々なところで見られます。

 

芸術村の展示は、西会津の様々な人が作った赤べこの展示がされていたり、西会津で活躍する職人の展示であったり、今まで考えていた「展示」という概念が少し崩れたように思います。そして、誰もがアーティストになれると感じさせる場所でした。

 

そして、あっという間に2日間のツアーが終了。最後は、ツアーのはじまりに集合した赤べこが迎えてくれる道の駅で解散しました!

 

今回の2日間、楽しそうと思ったことを実際にやってみる!という姿勢がどこへ行っても会う人、会う人から感じました。そして、自然雄大な西会津で生活することは、側から見ると大変かもしれないことを逆手に捉えて楽しむ姿勢。「このまちだったら、自分も何かできるんじゃないか、やってみたい」そう思えるようなまちでした。

 

矢部さんが先祖代々の歴史を他の人に伝えることで、みんなでまちの伝統を築いていくことに繋がり面白がる人が集まって、新しいクリエイションが生まれていく。その連鎖の一部を自分も体験した2日間でした。