福島定食ができるまで(7)リオリコ農園

湯たんぽを入れた布団でゆっくりと眠った次の日は福島定食取材の最終日。「やすらぎの宿 とまり木」の皆川さんに朝から盛りだくさんの朝食をいただき、満腹のまま次の目的地へと出発した。

この日最初に伺うのは、「リオリコ農園さん」。会津伝統野菜や薬草を中心にご夫婦二人で切り盛りしている農家さんだ。待ち合わせの「道の駅 あいづ 湯川・会津坂下」で、リオリコ農園のご主人である豊川庸平さんが私たちを出迎えて下さった。「畑に行く前に、道の駅も見ていきますか?」というお言葉に甘え、中を案内していただいた。

野菜売り場には昨日も出会った会津人参が。こうやって陳列されている姿を見るのは初めてだ。他にも、あまり都内のスーパーなどでは見かけない馬刺しや、ブス(野葡萄)の実、乾物の多さに驚いた。「こっちはなんでも乾燥させるからね。」とおっしゃっていたが、特に西会津はキクラゲをはじめとする乾物の産地だという。

おすすめいただいた食材を買って、いよいよリオリコ農園さんの畑へ向かう。畑は阿賀川沿いにいくつかあるそうで、最初に伺ったのは舘岩赤蕪(たていわあかかぶ)のある畑。

畑に着くや否や、豊川さんが舘岩赤蕪を一本抜いて見せてくれた。実際に見てみると、形はまるで赤大根のよう。

「これは蒲生氏郷が滋賀から日野菜かぶを持ってきたことが由来とされているんです。」蒲生氏郷と言えば、織田信長の家臣であり、日野商人の往来に大きく関わる人物。調べてみると、鶴ヶ城は蒲生氏郷の幼名「鶴千代」から名付けられていたり、城下町の整備をして町の繁栄に努めたりと、この会津の歴史を語るには欠かせない人物だった。しかし、驚くことにDNA鑑定の結果でみると、日野菜蕪とは全く違う西洋カブの「ルタバガ」などと同じに分類されたのだとか。これは未だに解明できない歴史ミステリー!「舘岩赤蕪は漬物にしたり、昔は雑穀を炊いた『かぶ飯』として冬のかて飯(かぶと一緒に炊きこんで増やしたご飯)として食されていました。」去年は発育があまりよくなかったそうだが、今年は雪が積もったおかげでよく育ったそうだ。

↑こちらは赤筋大根。名前の通り赤い筋が綺麗に入っている。こちらは小さい方が美味しいのだそう。味噌漬けにしたり、大根おろしや漬物にするのがおすすめの食べ方。

↑続いて「ちりめん茎立菜」。こちらはひらひらとした葉の形が特徴的な野菜。雪の中で養分をたっぷりと蓄えるので、旬の4月ごろには茎も柔らかく、甘味もあっておいしい。これに似たもので荒久田茎立菜(あらくたくきたちな)という野菜も育てられている。荒久田地区が発祥の地とされ、名前にも土地の名が付けられており、会津で一番食べられている伝承野菜だ。

リオリコ農園さんは、ほとんどの野菜を自家採種で育てている。そのため、種を残すために置いていた植物がいつの間にか交配して、見たこともない植物が生まれていることもしばしば。これはF1種と呼ばれる一代限りの交配された種を育てる畑では自家採種がほとんど行われないためなかなか起こりえないこと。畑にはその他にも多くの野菜が育てられているが、必ずしも思い通りに野菜が育つ訳ではない。「それでも、ちょっと育ててみたくなるんですよ。」と、楽しそうに豊川さんは笑った。

後から一台の車が到着し、奥様の智美さんも来て下さった。聞けばこの会津坂下町は智美さんの出身地。旦那さんの庸平さんは宮城県からJターンしてきたそうだ。

ふと畑を眺めていると、一角の畑のあちこちにころころと可愛らしい南瓜が転がっている。

これも会津伝統野菜「会津小菊南瓜」。この南瓜だけは事前に知っていた。よくスーパーで見かける西洋南瓜と違い、こちらは日本南瓜。実はこの南瓜、会津を語る上では外すことのできない戊辰戦争と深く関わりがある。当時、新政府軍の侵攻により鶴ヶ城にて籠城をせざる負えない危機に瀕していた当時の会津藩は、1868年の旧暦9月22日に降伏するまで、蓄えておいた小菊南瓜と乾燥大豆を味噌煮にしたり、玄米の握り飯を食べていたという記録が残っている。今でも学校給食で年に1回籠城飯として子どもたちにも振る舞われているのだ。今でこそ食べやすいように調理されているが、当時は小菊南瓜の皮や種ごと煮込んで食べられていたという。

降り続いていた雨もいつの間にか止み、そろそろ次の場所へと移動する時間に。帰り際、畑で採れたばかりの野菜たちをお二人が持たせて下さった。

一を聞けば十、百と野菜のことをこの地の歴史に触れながら教えてくださる豊川ご夫妻。お二人が育てる多くの野菜は固定種、在来種という何代も種をとり、育てられ、風土や気候により土地に適した姿になった野菜たち。それらが今でも残り続けているということは、その種を守り続けた人々がいるということだ。幾多の冬を越え、土の中に根を下ろし、芽吹きの季節を迎え次の世代へと命をつなぐ種とそれを見守る人々。きっとどの世でもその先の人々の暮らしを願いながら種は繋がれてきたのだろう。豊川さんが注ぐ愛情は、この先も繋がれ続ける種の記憶にしっかりと刻まれている。

リオリコ堂/リオリコ農園
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「福島定食」ができるまで
D&DEPARTMENT PROJECTが、47都道府県それぞれにある、その土地に長く続く「個性」「らしさ」を、デザイン的観点から選びだして紹介するデザイントラベルガイド『d design travel』。30県目の節目となる、今回の目的地は「福島県」。d47食堂では、『d design travel』の発行毎にテーマとなる県の定食を提供しています。今回の旅は、「福島定食」を完成させるため、福島県でたくさんの場所や人を訪ねました。現地を訪ねたd47食堂スタッフによるレポートをお届けします。(全10回予定)


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