スタッフの商品日記 085 棕櫚たわし

汚れ落としに欠かせない「棕櫚たわし」

100年以上の歴史を持つ株式会社亀の子束子西尾商店の亀の子たわし。たわしの主な素材はパーム(ココナッツ繊維)ですが、亀の子たわしが生まれるきっかけとなったたわしは、棕櫚(しゅろ)素材でつくられています。棕櫚とはヤシ科の樹木のことで、樹皮の繊維層が厚く丈夫であることから、古くから魚網、つるべ井戸の縄、竹垣を縛る縄、運搬・荷造り用・建築用の縄やロープとしと利用されていました。茶室やお寺などに使用される棕櫚皮を裏床にあてがった畳は湿気に強く、20年たっても棕櫚皮部分の傷みはほとんどなく、畳床としては最高級とも言われているほど。そんな棕櫚素材のたわしは、強度と柔軟性を併せ持ち、繊維の先も細いため細かいところまで汚れを落としてくれるのが特徴です。

誕生
1899年、初代社長西尾正左衛門の父が倒れたことをきっかけに、正左衛門は家業であった棕櫚縄業を引き継ぎ、棕櫚の繊維を針金で巻いて棒状にしたものを針金で編み上げた靴ふきマットを開発し販売していました。最初は生活習慣の洋風化に伴い庶民の履物が「わらじや下駄」から「靴」の生活に移行していたこともあり、驚くほど繁盛していました。しかし、棕櫚の繊維が柔らかいため、使ううちに繊維がつぶれて使い物にならなく、倉庫は返品の山に。

そんな中、1907年、正左衛門の妻が、マットの部材である棕櫚製の長い棒を折り曲げ、障子の桟を洗っている姿をみて、正左衛門が新たに洗浄用の道具として棕櫚製のたわしを思いつきました。昔から藁や縄を束ねた「たわし」は洗う道具として使われていましたが、明治時代の西洋料理が流行り出した頃、バターなど動物性の脂の付いた皿を洗っているうちに藁の束は脂にまみれ、また、束は解けて使い物にならなくなっていました。しかし、正左衛門が生み出した棒状の棕櫚は、針金でねじっているので繊維が解ける事もなく、手で持つため、繊維がつぶれることもありません。そのため、その時代に使われていた洗浄用の道具に変わるのではないかとひらめいたそうです。扱うのは女性が多い事も考えて、妻の手を参考に使いやすい形や大きさ、重さなどの試行錯誤を続け、現在の亀の子束子の原型が出来上がりました。また、息子がたらいの中で泳ぐ亀を見ていたところから、「亀とたわしが似ている」と思いつき、長寿で縁起が良く、水にも縁があるということで「亀の子束子」という名前に決まったというエピソードがあります。その後、供給の安定度に目をつけ、パーム素材を「亀の子束子」の原材料として採用。しかし、第二次世界大戦に入るとパームの輸入が不可能となり、代用として、発売するきっかけとなった棕櫚素材のたわしを作るようになりました。そして、1907年に発売してから現在まで形がほとんど変わることなく、2013年には亀の子束子1号が2013年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。亀の子束子西尾商店は、たわしを中心に「より快適な生活を提供する」という想いから洗浄用の道具や生活雑貨を生み出しています。

棕櫚たわしの製造工程
棕櫚たわしは、和歌山の工場で職人が厳選された棕櫚の木の皮の繊維を使用し、一つ一つ手作りで製作しています。
まず、棕櫚繊維の束を等間隔でゴムで束ね、断裁機で所定のサイズに断裁し、たわしの芯になる針金を折り曲げ棒巻き機にセットします。この針金の間に棕櫚の繊維を均等に隙間なく詰めます。均等に密度高く詰めることが、一番難しい工程であり、この技術が高い品質の鍵となります。微妙な手先の感覚が必要なため、機械化はできず、手作業でしかできません。
この作業のために、職人たちは親指の爪は長めに整えているそう。

次に、棕櫚繊維を隙間なく棒状にぎっちり巻き込み、棒状に仕上がったものを刈込機にかけて繊維を刈り揃え、棒たわしが出来上がります。

出来た棒たわしを真ん中で二つに折り、側面に縄をかけ、針金で固定して仕上げます。出来上がったら、寸法・重量をはじめとした20項目以上の検査基準を満たしているかどうか、一つ一つチェックされ、ようやく棕櫚たわしが完成されます。

つづく暮らし
棕櫚たわしは創業当初からほとんど変わらない、手にフィットする持ちやすい形のため、使いやすく、ひとつひとつ手作業で作りながらも、自社の検査基準を設けているため品質性が高い点が、多くの人に使われつづけている理由のひとつです。昔は祖母から母、母から娘へと、たわしの良さや便利な使い方を伝承されていたというほど。食器洗いはもちろんのこと、靴洗いや服の汚れ落としなど、ひとつでも持っていればさまざまな場面で活躍します。台所では汚れた調理器具の予洗いに使用することで、スポンジへの負担や洗剤使用量を抑えることもできるため、環境にやさしい洗浄方法として、今あらためて注目されています。

お手入れ方法
使用後は少しの中性洗剤を付けてたわしを洗い、流水でよくすすいで、風通しの良い所で乾燥させます。週に1度位お天気の良い日に天日干しをするのもおすすめです。ご飯粒や野菜くずがたわしの間に入り込んだ場合は、もう一つたわしを用意して、水の中でこすり合わせると取り除くことができます。

お気に入りのポイント
私は手に収まるサイズの「棕櫚たわし極〆NO.1」の小サイズを愛用しています。長い間、食器洗いにはこれ、こびりついた鍋にはこれ、靴洗いにはこれ、と用途ごとに道具を分けていました。それが今ではこのたわし一つで様々な用途に対応できます。特に気に入っているところは、粘り気のある食べ物の後処理が楽なところです。私は納豆ご飯をよく食べるのですが、その後の洗う場面が苦手でした。(洗った後にねばねばがスポンジについてしまう…と。)しかし、たわしで洗うと棕櫚の細い繊維がすっきりと汚れをかき出してくれるので億劫なく洗うことができます。他にも、鍋にこびりついた焦げを洗ったり、ざるに挟まった野菜を取り除いたり、野菜の泥落とし、洋服の襟や袖の予洗いなど、さまざまな場面で重宝しています。今ではなくてはならない道具となっています。

棕櫚たわし・大の商品ページはこちら

棕櫚たわし・小の商品ページはこちら

【参考】
亀の子束子西尾商店WEBサイト