「麩嘉定食ができるまで」

150年余り、京都で生麩だけをつくり続ける、生麩専門店「麩嘉」に行ってきました。

生麩とは、もちもちとした食感と淡白な味が特徴の日本伝統食材の一つ。「焼く、揚げる、煮る」など様々な方法で調理することができ、淡白な味を生かし、味噌や出汁などの調味料の引き立て役としても使われます。懐石料理には必ず登場する高価な食材であることから、普段ではあまり馴染みがない方も多いのではないでしょうか。

d食堂京都店では、これまで麩嘉の生麩を使ったあんみつやぜんざいなどのメニューを提供してきましたが、今回は11月から始まる「麩嘉定食」に向けて、生麩の製造現場やそのこだわりを伺いました。


場所は、地下鉄丸太町駅から徒歩10分。閑静な住宅街にある町家づくりの歴史ある店構え。こちらで生麩の製造が行われています。おたふくの暖簾がなんとも風情があり、表情からはとてもやさしい気持ちにさせてくれます。七代目社長の小堀周一郎さんにお出迎えしていただき、さっそく工場の中を案内していただきました。

工場の中へ入ると、各場所で様々なお麩が作られていました。

工芸品のような麩。

昭和の台所を思わせるような趣のある場所で、三人の女性が一つ一つ丁寧に手毬麩を作られていました。手毬麩とは、その名の通り手毬に似せた麩で、料理に華やかさを添えるハレの日には欠かせない麩です。すまし汁に浮かべたり、野菜の炊き合せなどに使われます。

白の麩に糸状に伸ばした赤の麩を細く伸ばし、放射状に巻いて模様を作っていきます。「赤い麩も全て生麩なんですよ」と女性がおっしゃり、手毬麩をつくる時にも柔らかさを変えて生地が作られます。全て手作業のため、1日にできる量は100個程度で、注文に応じてその日に作ります。少しづつ柄も違っていて、まさに食べる工芸品のようです。

奥の部屋へ案内していただき、生地の製造工程を見学しました。撹拌器から練り上げた生地を取り出し、切り分けて、計量していきます。

作業する上で大切にしていることは、空気を含ませながら、テンポ良く、手際よく。弾力のある生地を手の力だけでのばしていき、職人の息のあった手捌きは迫力があり、圧巻です。

台の上にあったはずの生地があっという間に切り分けられ、その後丸めて棒状に成形します。

棒状にした生地を、一度釜で茹で、木枠に入れて蒸していきます。生麩を蒸している間に、生麩の起源について詳しくお伺いしました。

生麩は、元々小麦から抽出したグルテンを丸めて揚げた「麩」が始まりで、肉を禁じている僧侶のタンパク源として食べられていました。後に仏教伝来と共に中国から日本に持ち込まれ、グルテンに餅粉を合わせた生麩が日本独自に作られるようになりました。

日本では、古くから小麦粉を練ったもの全般を「麩」と呼んだため、いつどのようにして今の生麩が生まれたのか曖昧だそう。

「実は、生麩はミステリアスな麩なんです。」と小堀さん。


乳酸発酵された生麩の生地。

グルテンと餅粉が混ざり合う前で、ピカッと光っているのがグルテン。生麩の種類によって、硬さを変える必要があるため、発酵具合を調節し柔らかくしたり、口当たりをよくします。

次に、麩嘉のこだわりについてお聞きしました。

完全受注生産、作りたてを届ける。

麩嘉では、つくり置きはせず、毎日つくりたてを届けます。生麩は、作り置きができないため、一日に作れる量は限られます。

「お客さんから冷凍して送ってほしいと言われることがありますが、受注生産にこだわっています。」と小堀さん。

作り手がおいしいと思うものを、一番おいしい状態で届けたい想いが、麩嘉の仕事につながっています。

材料に妥協しないこと

麩嘉の麩の特徴は、保水性が高く、ふわっとした食感で、滑らかな口当たり。その美味しさを作り出すのは、「材料に妥協しないこと。」

シンプルな材料で作られているため、食材選びはとても重要です。

出来るだけ天然の素材を使い、作れるものは手作りします。原料となる餅米も産地や品種を見極め毎年良い原料を選びます。

そして最も味を左右する原料は水で、60%以上は水でできているため、水は生麩作りには重要な原料なのです。

職人の手でつくる。

麩は機械でもつくることができるうえに、手間やコストを省くことはいくらでもありますが、麩嘉が大切にしていることは、「商売ではなくものづくり」。

手作業にこだわる理由は、「人が食材に合わせること」を大切にしているから。繊細な食材だからこそ機械的なつくり方はできません。生麩に向き合う姿勢が、まるで対話をしているかのようです。

生麩は安定しにくい食材であるため、マニュアルのようなものがありません。生地を攪拌させる以外は、全て人の手で行います。職人は、毎日わずかに変化する生地の状態を見極め、におい、見た目、手の感覚を研ぎ澄ませて作ります。職人の体調管理は、非常に大切なのです。

蒸し器から生麩を取り出しているところ。木枠にこだわるのは、木の繊維から余分な蒸気を逃すため。

木枠から外れる様子で、生麩の蒸しあがりや出来具合を確認します。

蒸しあがった生麩を地下水で冷やします。

京都の地下水でつくる生麩。

麩嘉では、京都の地下水にこだわり生麩を作っています。

京都の地下水は、千年以上一定の味と水温を保ち、山に囲まれた京都の地形が美味しい軟水を作り出しています。他の軟水に比べて硬度が低くく、季節限らず安定した水温であることから、温度変化に敏感な生麩の仕上がりに影響が出ず、まろやかで繊細な味を生み出します。京都の地下水にこだわる麩嘉の仕事は、京都ならではのものづくりと言えます。

井戸水が減ってしまった現在でも地下水を汲み上げて作り続けています。

 

取材を終えて、今の時代と逆行するような麩嘉の仕事に感動し、生麩は京都の水があってこその食材だということがわかりました。

「麩嘉の手仕事と京都の地下水」をテーマに定食を作りました。

 

 

「麩嘉定食」

価格:1650円(税込)
期間:~12月2日
場所:d食堂京都

*時計回りに

●粟麩の揚げ出し
粟を混ぜ込んだ「粟生麩」を大胆にまるっと揚げて、だし醤油をかけたました。
粟のプチプチとした食感と。生麩のとろけるような食感がくせになる一品。

●よもぎ麩の酢味噌和え
よもぎ生麩を九条ねぎと合わせた酢味噌和え。口に入れると、よもぎの香りがふわっと広がります。

●鯨麩のお吸い物
鯨麩は、白ごまと黒ごまの二層の生麩を合わせたもの。鯨のころを似せた生麩で、禅の文化を象徴する麩。
麩嘉で使用される地下水で出汁を引き、シンプルに塩だけで味付けしました。野菜は季節で変わる場合がございます。

●利休麩の炊き込みごはん
利休麩は、大徳寺にいた僧侶が考案したお麩で、ごま油で揚げて味付けしてあります。利休麩に合うようにごぼうや人参と炊き込み、最後に炊き込みました。

●麩饅頭
京都の銘菓にもなっている和菓子で、明治天皇が麩嘉に作らせたのが始まりです。青海苔を混ぜ込んだ生麩の生地に、たっぷりとこし餡を包み、丁寧に笹に巻いて蒸しあげます。

*数量限定ですので、売り切れる場合がございます。
*ご予約の際は、お電話にてお申し出いただければ、お取り置きさせていただくことも可能です。