沖縄の漆器 -木漆工とけし-

琉球の技巧を継ぐ漆工と暮らしを慈しむ漆工

琉球古来から受け継がれる漆器と、暮らしに寄り添う漆器のこれから。

沖縄の器といえば、「やちむん(焼き物)」を思い浮かべる人も多いでしょう。沖縄旅行のお土産に読谷村のやちむんの里を訪れる人も増える中、沖縄の器として「琉球漆器」がやちむん同様、沖縄に古くから根付き、この土地に合った器だというのをご存知でしょうか。十四世紀、琉球王朝時代に中国から漆工の技術が伝えられた後、漆の乾燥に適した高温多湿な気候の沖縄では近隣国への献上品として、また祭祀に用いる神聖な器として沖縄の漆工は繁栄しました。特に漆に顔料を混ぜて薄く伸ばし、紋様の型で抜いて器に張りつける堆錦(ついきん)という技法は琉球漆器の特徴です。D&DEPARTMENT OKINAWAでは、沖縄独特の漆工の技を創業から百二十年以上守り、そして現在に伝えている「角萬漆器」と、沖縄の木を用いて今の暮らしに寄り添った漆器づくりを行う「木漆工とけし」を迎え、企画展「沖縄の漆器-角萬漆器と木漆工とけし-」を開催します。続く記事では、沖縄の漆器に関わる二組の取り組みに注目します。

〈角萬漆器〉はこちら

家族の暮らしから生み出される沖縄の漆器

沖縄の木に寄り添うものづくり

沖縄自動車道許田インターを降り、ヤンバルと呼ばれる山間に工房を構える「木漆工とけし」は、渡慶次弘幸さんと奥様の愛さんのユニット。二人ともに漆器で有名な輪島での修行を経て2010年に帰沖し、弘幸さんが木地を作り、愛さんが漆塗りを担当している。「木漆工とけし」の漆器は、いわゆるつるんとした上塗りが施された器に、華美な加飾が施されているイメージとは少し違う。どこか素朴で、素材の木に寄り添って作られている印象だ。

使っているのは、センダンやイタジイ、デイゴ、ガジュマル、フクギ、サクラなど沖繩に自生している木。輪島の修行を経て、沖繩に戻ったばかりの頃は、木材を仕入れる伝手もあまりなく、県外から木材を仕入れて製作していた。製作活動を続けるにつれ、材木屋さんの知り合いができ、沖繩の木材に触れる機会が増えたり、台風で倒れた木があるから使わないかと声を掛けられるようになり沖繩の木を使った器へと傾向するようになる。沖繩の木と言っても、その特徴は様々。「イタジイだったら木材がしっかりしているので、そんなに塗り重ねず、木の良さが残るように仕上げようとか、一方、センダンだと軽くて少し弱いので漆を塗り重ねて補強してあげるとか。それからデイゴって特徴のある木で、例えて言うと木目がスポンジのようになっているから、とても軽いんです。軽い、柔らかい、叩いただけでも凹むからその軽さを生かして、厚みのある器にしてみたり、叩いて凹ますことで繊維を締め固め、叩いた跡を表情として出してみようとか。全てにそれぞれの特徴があって、木地の作り方や漆の塗り方を変えることで、その木の特徴をプラスに持っていくようにしています。そうすると最初は器には向いてないと思った木でも、この木じゃないと……というものが仕上がる」と弘幸さん。話を聞いていると、木材との付き合い方が、初対面から徐々に親しくなっていく人間関係のようにも思えてくる。頑固な爺さんのような木があったかと思えば、女性らしさを感じさせる木があったり。そんな木のひとつひとつの性格を見極めて、その良さを引き出してあげるのが、「木漆工とけし」の器だ。「そうすると否が応でも仕上がる器には素材らしさが出てくるし、素材が育まれた土地らしさ、〝沖繩らしさ〟に繋がっていくんじゃないかな」と笑顔を見せる。

山間の緑が生い茂る土に根を張り、整然とした工房で素材に実直に向き合い生み出される器からは、日々を大切に慈しみながら、自分らしく生きる二人の美しい暮らしが見えた。

 

沖縄の気候にも適した漆器のお弁当箱

経年変化やサイズの組み合わせ成長を楽しむお弁当箱

今回の漆器展では、「木漆工とけし」定番のお椀や皿のほかに、新作のお弁当箱や御重が出展される。お弁当箱は長方形と、正方形の二段弁当のそれぞれがサイズ違いで三種ずつ。幼稚園生くらいの子どもなら二段弁当の一段だけに詰めて、成長するにつれ二段にしたりと、長く愛用できる工夫がある。使われている木材はセンダン。狂いが少ないので、 板を差し合わせて作る指物に向いているほか、軽いので持ち運びにも適していて、木目も美しい。また、漆には殺菌効果もあるため、高温多湿でお弁当が痛みやすい沖繩の気候にも適している。

「夏の時期は特に、持ち帰ったお弁当箱の蓋を開けると、嫌な匂いがするじゃないですか。漆のお弁当箱は漆の殺菌効果で嫌な匂いが抑えられるんです」と愛さん。使い勝手が良いように、箱の四隅には漆が盛られ、洗う時に汚れが四隅に溜まらない細やかな気配りに仕事の美しさを感じる。漆器は使い重ねることで、色合いに経年変化が生まれる。その表情の変化を楽しみたい。

「木漆工とけし」が考える、新しい〝琉球漆器〟のカタチ。

〝琉球漆器〟の定義は、実ははっきりと決められているわけではない。とはいえ、沖繩で漆工活動を行う木漆工とけしも「ここ最近、沖繩の民藝や民具というカテゴリで扱ってもらうことが増え、自分たちの作る漆器が〝琉球漆器〟に近づいて、且つ、たくさんの人に使ってもらえる漆器になるために、どう道筋を立てたらいいか考えながら製作している」と話す。

そんな渡慶次夫妻が考える自分たちらしい〝琉球漆器〟として、初の試みである「加飾」を施した器が、今回の漆器展で初登場する。加飾を施すのは、琉球張子作家「玩具ロードワークス」の豊永盛人(とよながもりと)さん。絵柄の原案は昔の琉球漆器に使われていたものを使用する。

「昔の琉球漆器には、緻密な絵柄ももちろんあるけれど、よく見ると自然や動物たちを描いた、どこか抜けているような、愛嬌のある絵柄が施されたものも多いんです。こんな雰囲気なら、うちの漆器とも相性が良いのではと前々から考えていた」と愛さん。昔ながらの絵柄を豊永さんが模写し、漆器の上に、漆を接着剤にして金箔を貼り、乾燥させた後に先のとがった竹で引っ掻いて図柄を表現する「箔絵(はくえ)」を施した小皿や豆皿、小さめの御重が新作として登場する。ハレの日の器とはいえ、かしこまり過ぎず、愛らしく、親しみを感じさせる器だ。

「沖繩の木材を使って、漆を塗るための下地材にも沖繩のニービ(砂岩)やクチャ(粘土)を使い、昔ながらの製法で漆器を作った後に、琉球漆器に描かれていた図柄を豊永さんのタッチで描いてもらうことで、僕らの思う〝琉球漆器〟に少し近づけるんじゃないかなって思っています」とふたり。「木漆工とけし」が提案する、今の暮らしにあった〝琉球漆器〟のカタチが今から楽しみだ。

 

【profile】


渡慶次 弘幸
木漆工とけし/木地師

1980年浦添市出身。沖縄県工芸指導所木工課研修終了後、2003年 石川県輪島市の桐本木工所に弟子入り。2010年 挽物師の寒長茂氏に挽物を習った後2010年帰沖。「木漆工とけし」として、名護市に工房を構え、県産の様々な樹種に合わせた器作りに取り組む。

渡慶次 愛
木漆工とけし/塗師

1979年 浦添市出身。2002年に沖縄県工芸指導所漆課研修終了後、2003年、石川県輪島市にて福田俊雄氏に師事。2007年、年季明け後、福田氏、赤木明登氏の両工房にて勤め、2010年帰沖。「木漆工とけし」として製作に勤しむ。

 

【商品紹介】

美しく整理整頓された工房。道具に対する丁寧な扱いが、作品にも表れる。
古い琉球漆器に用いられた図案を豊永さんが模写し、金箔で図柄を表現した新作が登場予定

 

木漆工とけしの新作お弁当箱

軽くて持ち運びやすいセンダンを使用した「木漆工とけし」の新作お弁当箱。使いやすさを追求したサイズは正方形の二段弁当箱3種、長方形弁当箱3種の合計6種類。使う人に合わせてサイズを選ぶだけでなく、組み合わせで使い方が広がる。