「祈りのデザイン」とは

d47 MUSEUMにて12月4日より「LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展 -47都道府県の民藝的な現代デザイン-」が始まりました。

この「LONG LIFE DESIGN」展は2年毎に企画する、これからのデザインを考えるシリーズです。第一回は「健やかなデザイン」をキーワードに2018年に開催。第二回となる今回は「祈りのデザイン」をキーワードに、本来の「民藝」がもつ「祈り」の要素をヒントに、プロダクトや食品、ランドスケープなどを47都道府県から1つずつ展示しています。

 
祈りのデザインとは

今回の展示品選定では『d design travel』の編集長・神藤をはじめ、D&DESIGNのデザイナーなどが集まり、候補アイテムを出しながらキュレーター・ナガオカによる選定が行われました。この選定会で30県ほどの展示候補は決定したのですが、ずらりと並ぶその候補を見て、私の第一印象は「分からない…!」でした。通常、選定がある程度進むと、キュレーター・ナガオカの意図や方向性、伝えたいことが理解でき、残りの候補を探すのもスムーズになります。企画意図を他のスタッフに聞かれてもスラスラと説明できるのですが、今回の「祈り」の要素が何を指しているのか、なかなか自分の言葉として理解することが難しい…

ここから、毎回恒例の候補出し100本ノックが始まります。ナガオカはこの選定作業を、柳宗悦氏がお弟子さんの「直観」を鍛える為に、テーブルに次々とモノを置いてはその良し悪しや、良さを言葉で表現させていたことに重ねて話します。
(このお話に関しては是非「ナガオカ日記 50 民藝夏合宿」の記事も合わせてご覧ください)

ミュージアム事務局は、まさにこのお弟子さんのように「このプロダクトは、このような理由で良いと思います」と提案していくのですが、今回はいつにも増して難航しながらの選定となりました。提案し続けるも…

このやり取りを見返すと汗が出ます…

このようにして47都道府県の候補が決まった後に、「祈りのデザイン」についてナガオカが出展者の方々に直接、電話やメールで質問をしていきました。 出展者さんから「ナガオカさんから難しいご質問いただいて、なんと答えて良いのかわかりません。もう少し時間をください」と事務局に連絡をいただきながらも、皆様にご協力いただき、私たちも、その送っていただいた文章から「祈りのデザイン」の考え方をを教えていただきました。

書籍や展示台キャプションに全ての文章をご紹介しきれないので、会期中に何回かに分けて、出展者の皆様からの直接の言葉を紹介させていただきます。


 
青森県 弘前こぎん研究所

1942年に創業し、弘前市内の70人程の刺し手により、全て手刺しの製品づくりをすることで、伝統の素材と技術そのものを守り続けている「弘前こぎん研究所」の木村さんから。

求めておられるようなエピソードにあてはまるかどうかわからないのですが、私木村がこぎん研究所でこぎん刺しの仕事に関わる上で、面白い、好きだなと感じることをお話したいと思います。

こぎん研究所の刺し手には土地柄りんごやお米の農家さんも多く、雨の日や冬場、農作業がない時のお仕事として関わってくださっています。またその時間がひそかな楽しみにもなっているようで、お盆やお正月等長い休みの間は手持ち無沙汰だからたくさんお仕事を頂戴、ということもあります。

畑や田んぼが忙しくなるとぱたりと来なくなったり、収穫の時期に採れたてのりんごをおすそわけしてくれたりして、刺し手さんの出入りで季節の移り変わりを感じたりします。

昔の農家は今以上に座るひまもないほど忙しく、こぎんを刺しているときだけは堂々と座っていられたという話も聞きます。そんな生活の中でこぎんを刺す時間はどれだけ心を落ち着かせられる、たのしい時間だっただろうと思います。

布の目を数えながら刺して、間違いに気付いたらほどいて…
もどかしい時間を繰り返しながら一段ずつ着実に積み重なって模様が現れて来る。
そうして刺し上がった布は可愛くて、いつまでも眺めていたくなります。

そんなふうにこぎん刺しを慈しむ、たのしむ気持ちは今も昔も変わらないのではないかと思います。
当時は嫁入り道具として身頃を刺した布を用意して、結婚相手が決まってから着物を仕立てたこともあったようですが、まだ見ぬ旦那さまを思いながら、大柄な人だったら丈はもう少し要るかしら、一体どんな人だろう、なんて考えながら刺している娘達の姿は可愛らしく、微笑ましく思えます。

家族や大切な人に思いを馳せながら着物を刺し綴った、名もなき農家の娘達の素朴な愛情、かわいらしさ。商品としてこぎん刺しの品物を作る時にも、できるだけそういう気配や息づかいを無くさないようにこころがけています。具体的には昔からの技法、素材、模様を変えないということです。

そうして守ってきたものを、後の世代の人々に伝えることが私達のつとめなのかなと思っています。


 
静岡県 日本スエーデン/ENVELOPE

靴や鞄の素材の型抜きに使われている「スエーデン鋼」の型メーカー「日本スエーデン」代表の山本さんから。

ご質問にうまく回答できてるかわかりませんが、うちとしての想いのようなものを書かせていただきます。

このENVELOPEは、13年ほど前に、まだ、うちが靴や鞄のスエーデン鋼の抜型をメインでやっている頃、靴のデザイナーであった父が創業し40年ほど抜型だけで食べさせていただいていた静岡の靴メーカーやサンダルメーカーが、倒産、廃業、生産拠点を中国やベトナムに移し、型の仕事が減ったときに、何か自社でものづくりをして、こちらから売り込める商品を作らないとと参加したプロジェクトで、デザイナー真喜志奈美さんと開発したものです。正直、型の受注が減る中、何かを生み出さないといけないと必死だったのかもしれません。(中略)

今のうちの理念は、「皮革業界において、ものづくりとデザインの更なる価値の創造をとおして、人々の暮らしに豊かさを提供する」です。
革製品のものづくりをとおして、人がその製品に愛着を感じ、かっこよさ、普遍的で飽きない、シンプルで長く愛される、そんなことが伝わる商品を生み出していくことです。

それは、職人的というより、単なるものづくり、通常の技術的な概念にとらわれずに、でも、ものづくりに真摯に向かい合って考えだされるもの。うちが、誇れるのは、そのものづくりに対する姿勢かもしれません。それは、私が27歳でこの会社に来て、3年に亡くなった先代の父、靴工場の職人からデザイン事務所を開いて独立した父から脈々と受け継がれているものであるのかも。

皮革業界、特に靴業界には、本当にお世話になってきました。
靴の抜型でだいぶ食べてきました。

しかし、現在、静岡の靴組合加盟の会社数は、30年前の100件程度から5~6件に減り、組合自体がほぼ解散のような形になってます。浅草の顧客も廃業、倒産が相次ぎ、まだまだ、メーカーは減少し、たぶん、皮革業界において、ものづくりができる場は、更に減っていき、抜くとか縫うなど、どこでやれば良い?という時代になるでしょう。

業界に恩返しなんて、かっこいいものでは、ないと思ってます。でも皮革のものづくりとデザインの力で世界に通用する日本の皮革商品を生み出していく、これは、可能だと感じています。(中略)
ここまで、書いてナガオカさんへのご回答になにもなっていないような感じがしてなりません。すみません。

ものづくりは、人と人なのかな~最低限の技術は必要ですが、人と人から生まれる何かが
モノに、力を吹き込むのかもしれません。

 


このようなやり取りを重ね、展示台にはナガオカが執筆した「祈りのデザイン」の要素が展示されています。公式書籍には、展示されている文章にプラスして、さらに内容を深めた文章も掲載しています。

公式書籍は現在、d47 MUSEUM館内にて先行予約受付中です。館内でお申し込みの方には送料無料でお届けします。 *印刷の裏移りが見つかり、現在刷り直しをしております。通常販売は1月中旬を予定しています。すでにご購入された方の交換も受け付けます。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いいたします。


 
関連トークイベントを開催します

4組みのゲストをお招きし、ナガオカケンメイが聞き手となってトークイベントを開催します。公式書籍に掲載されているテーマをさらに深掘りし、本展覧会のテーマである「民藝的デザイン」や「祈りのデザイン」を様々な視点から紐解きます。会場参加とオンライン参加、4回通し券などの販売もございますので、お申し込み・詳細はこちらのページをご確認ください。

2020/12/18(金)18:30-20:00(18:00開場) 「民藝の誤解を解く」 ゲスト:松井健 (東京大学名誉教授・民藝研究者) /聞き手:ナガオカケンメイ

トークの第一弾は松井健さん (東京大学名誉教授・民藝研究者)をお招きし、「民藝の誤解を解く」をテーマにお話いただきます。『民藝の擁護』『民藝の機微』の著者である松井さんとのトークで、誤解され続けている「民藝」の本質を紐解きます。『民藝の擁護 基点としての<柳宗悦>』でも書かれているように、一般に拡散する「民藝」のイメージをもう一度、柳宗悦の考えに戻しながら、『民藝の機微 美の生まれるところ』で触れている、「柳宗悦が考える民藝とクリエイティヴィティの関係」 などをお話いただきます。お申し込み・詳細はこちらからご覧ください。

展覧会の概要文にも書かれている、『(民藝運動は)本来は心の美しさをモノと紐づけて宗教的に感じる運動であったはずが、いつの間にか「機能性の高いものは、美しい」というプロダクトデザイン論にすり替わり、大切な「健やかさ」の部分がいつの間にか、埋もれて見えなくなっていきました。民藝運動とはデザイン論である前に、宗教的な美学。作り手の心が清く澄んでいることで、信じられないような美しいものが、美だけを意識して作為的に作られたものを超えて、素朴で美しく、思いやりに満ちて温かく丈夫。つまり「作為的ではなく」「祈るような澄んだ心」で一点ものの芸術作品ではなく「適度に量産された」ものに宿る「美しさ」。』このように「民藝」の本来の意味は何かを探り、これからのデザインやものづくりへの考えを深めるトークとなります。

ご参加をお待ちしております(お問い合わせ:03-6427-2301 d47 MUSEUM事務局)