スタッフの商品日記 036    ニーチェアエックス

多くの人に愛される「カレーライスのような椅子づくり」を目指して作られたニーチェアエックス。

「ニーチェアエックス」はデザイナーの新居猛氏によって1970年に発売されました。当時の日本的な住環境を背景に、折りたたんで収納がしやすい椅子として生まれニーチェアエックス。発売されてから50年経った現在に至るまで多くの人に愛され続ける椅子になっています。

誕生と特徴
新居猛氏の家業は、戦前は武道具を扱っていましたが、GHQにより武道具の製造が禁止され家業が続けられない状態になりました。新居氏は生きていくため、徳島の職業補導所木工コースを経て、1952年より家具の製造販売を開始します。
木工は学んだものの、デザインに関しては独学で、模索がつづく中、出会ったのが日本での北欧デザイン研究の第一人者で武蔵野美術大学が所有する近代椅子コレクションの立ち上げに深く関わった島崎信氏(現 武蔵野美術大学名誉教授)。島崎氏に幾度となく相談を持ちかけ、デザインの精度も向上させた事で、1970年「ニーチェア」が生まれました。
開発時、まだ人間工学という考えが一般的ではなかった時代に、理にかなった構造を生み出したところにもニーチェアの凄さがあります。素材の特徴を認識し最良なものを得られる様にと試作時には、新居氏自身の足や身体を使いながら身体をすっぽりと包み快適な張りをつくり出すキャンパス地を開発。また、交差する脚は、座って体重をかける事で十分に開き、しっかりと安定するという様に、座るひとの身体と家具の実質的な関わりを考えた設計となっています。 

つづく仲間
「ニーチェアエックス」の製造元は、徳島の有限会社ニーファニチアで作り続けていましたが、2013年に椅子の製造が中止となりました。その突然の知らせに衝撃を受けたのは現製造・販売を行う株式会社 藤栄でした。藤栄は、1970年のニーチェア発売当初から、取扱製品の一つとして販売をしていました。1990年代には景気が後退し、経済環境が急激に変わりましたが、その中でも、大きく変遷を遂げる家具の業界に合わせながらニーチェアエックスの販売を途切れることなく続けてきました。しかし2013年にニーファニチアからの製造中止のお知らせが届きます。突然の出来事に衝撃を受ける一方で、『世界に誇る日本の椅子をここで途絶えさせてはいけない。いつの時代も変わらずに愛される椅子でなければならない』と40年以上をともに歩んできた企業として、そして何より一人の愛用者として、その使命感が、藤栄の挑戦を後押し現在の製造・販売元に繋がっています。

つづく産業
ニーチェアエックスは布、縫製、金属、木材と様々な素材と地域が集合してできあがっています。
シートは岡山県・倉敷市や滋賀県・高島市で分担して特別に生産されています。生地はデニム素材のように綾織(あやおり)という織り方をしています。綾織で織ることによって身体になじむよう適度に伸び、包みこまれるような座り心地を実現しています。新居猛氏がこだわった「一度洗ったかのような柔らかさと手触り」の生地を再現するために、しっかりと身体を支えられる厚手の生地を使いながらも、わざと細かな毛羽立ちを起こす起毛加工を施し、優しい肌触りにこだわっています。

肘掛は、人間の腕の構造を考慮し、最適な角度を計算してデザインされています。そのため、肘掛には正確な加工技術が求められ、わずかな穴の誤差でも座り心地に影響を与える事になります。継承した工場は、試行錯誤をし5,6年かけて加工精度の向上を実現させ、現在のニーチェアに使用されています。

新居猛氏は、生涯をかけて色々な形状の「折りたたみ椅子」の開発に取り組みました。『ニーチェアは自転車の様に気軽に使われ、カレーライスの様に多くの人々に愛されて座ってもらいたい。』という言葉は、見た目だけの造形美を求めるのではなく、使い心地や高い機能性、わずか6つのシンプルな構成要素で効率的につくりやすいことも新居氏の折りたたみ椅子への一貫した姿勢を感じることができます。
「ニーチェアエックス」は、生活に寄り添うことができる暮らしの道具であること。部品の交換などで修理することができ、親から子へ、子から孫へと世代を超えて長く使うことができます。

お気に入りのポイント
私のニーチェアエックスは祖父から受け継ぎ、40年以上使われています。茶色いシートは当時のまま、白いシートは最近交換しました。かなり古いものだったので、現行のシートが使えるか不安だったのですが、メーカーの「藤栄」の方に写真を見せたところ、すぐに確認してくれました。普段はたたんでコンパクトに収納し、来客時はソファーの向かいに、一人の時は窓際に向けてゆったりと、移動も簡単です。ネジ4本で簡単に組み上がり、壊れにくい。これからもずっと使えると感じられるシンプルな構造で、信頼できる椅子です。(黒江美穂 / d47 MUSEUM)

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