書籍『わかりやすい民藝』より「まえがき」

「わかりやすい民藝」というタイトルを冠していながら、いきなりこう書くのも申し訳ないのですが、〈民藝〉を定義することはきっと誰にもできません。

ただ、〈民藝〉が生まれた歴史的状況をひも解き、多くの人が〈民藝〉に込めてきた想いを読み解くことで、柳宗悦と友人たちがこの言葉を用いて、当時のなにを、どう変えようとしたのか、そもそもなぜこの言葉を作らなければならなかったのかを理解することはできるでしょう。

本書では、彼らと同時代の美術・工藝運動のありよう、人のつながりといった歴史的状況、また時に同時代の思索についての検討を踏まえつつ、背景を読み解く試みを行います。これにより、明治以降の「近代」 という社会の中で、〈民藝〉が、なにを行い、どこへ行こうとするものであったのかを明らかにすることができるのではないか、そう考えています。


*画像は高木崇雄さん撮影。左:石川昌浩のグラス、右:日本民藝館正面

さらには〈民藝〉を、「無名の職人」や「用の美」といったお約束の言葉、呪縛から解き放ち、ものと一体となるよろこび、友と生きるよろこびに満ちた体験そのものとして、取り戻すことができないか。矛盾ではないか、と見なされがちな柳の思考のあり方が示す、〈民藝〉の逆説的な魅力そのものを語りえないものか。そんな野望も抱いているのです。

なにはともあれ、〈民藝〉を「今、ここ」から読み返すための副読本として、本書を楽しんでいただければ幸いです。

高木崇雄
(書籍『わかりやすい民藝』 「まえがき」より)


[著者プロフィール]
工芸店・工藝風向店主。1974年、高知生まれ、福岡育ち。京都大学経済学部卒業。会社員生活を経て、2004年、福岡市内に工芸店「工藝風向」開店。九州大学大学院芸術工学府にて、柳宗悦と民藝運動を対象に近代工芸史を研究、博士課程単位取得退学。日本民藝協会常任理事。新潮社「青花の会」編集委員。
「d design travel」シリーズで、「◯◯県の"民藝"」を連載中。
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