特別公開|香川県の“民藝”

毎年、夏が近づくと、僕の店には東京の工芸店「銀座たくみ」から団扇が届く。柄は埼玉県児玉の大木夏子、広島県福山の石北有美という二人の染色家が和紙に染め、香川県丸亀市で仕立てられた団扇だ。柳宗悦は『手仕事の日本』において、香川の団扇について次のように書いている。「産額で一番大きなものの一つは団扇であります。丸亀市がその産地で、特に塩屋はその中心であります。年額は300万円を超えこれに携わる工人は3,000人と称します。日本の国々で用いる団扇の8割までがこの町で出来るのであります。多くは骨を組んでそのまま各地へ送り出します。 *1 」記された数字はだいぶ変わっているだろうが、今でも多くの団扇が丸亀で作られていることには変わりない。あおいでもあおいでも風が起きない、ふにゃふにゃなプラスチック製の団扇はかえって暑苦しく腹立たしいけれど、適度な張りがあり、ふわりと手首を返すだけでしっかりと風を感じさせてくれるこの団扇は頼もしい。揺れる模様とあおぐ人の姿が一つの景色を作り、クーラーや扇風機などとは異なる「涼」を、そばで見ている人にまで与えてくれる。さらには季節を問わず、酢飯を冷ましたり、炭火をおこしたり、軽くかざして日除けとしたりと、身近な熱を細かにコントロールすることのできる、優れた道具だ。とはいえ、香川県の“民藝”は丸亀の団扇で決まり、ということにはならない。丸亀で作られる全ての団扇が優れている、ということではないからだ。腹立たしい団扇、心地よい団扇、どちらも丸亀で作られていることもまた、事実ではある。では、何が「丸亀団扇」の良し悪しを決めるのだろうか。

そう問いを立て、あらためて僕の手元にある団扇について考え、出た結論は、骨組みの良さ、だった。言い換えるならば、全体を支える構造の大切さ、だ。どんなに柄がきれいな団扇でも、あおぐ時にふにゃふにゃでは話にならない。張りの強い和紙を受け止めるだけの構造を竹が持っていないと、良い団扇にはならないのだ。「仕事を見ていますと、その手技の早いのには驚かされます。竹を縦に細かく裂く仕種、裂いた竹を拡げて糸で編む手捌き、すべては目にも止まらぬほどの早業で、手がどんな奇蹟を行うかが目前に見られます。 *2 」柳は、団扇の骨組みを生み出す手技の素晴らしさについて、このように褒めているけれど、もしかして、それは団扇作り、手仕事に限った話ではないのではないか。そう考えてみれば、香川には支える人、「骨組み」となる人が多くいることに気づかされる。そして、こういった骨組みとなる人々の存在こそが、香川県の“民藝”と言い得るのではないだろうか。例えば、メインの具とはならないけれど、味の骨格となる「出汁」を作り出すいりこ屋さんの「やまくに」。若くしてイサム・ノグチと出会い、彼を支え続けた彫刻家の和泉正敏や、ジョージ・ナカシマの家具デザインを支えた「桜製作所」の永見眞一などもそうだろう。

そんな人々の一人として、僕が特に取り上げたいのは、丹下健三の右腕として香川県庁舎の設計監理を行なった都市計画家、浅田孝だ。浅田は牟礼にルーツを持ち、第二次世界大戦後、広島に代表される戦災復興都市計画への関わりを手始めに、大阪万博や南極・昭和基地の設計、横浜市の都市計画、柳宗理とともに行なった高速道路の道路標識の計画などに携わった。まさにこの国の「骨組み」を作り出す仕事を行なった人、グランド・デザインを描いた人だ。そんな浅田が丹下をいかに支えたかについては、次のような文章も残されている。「丹下の作品を抱えて走り出すのは浅田の役割であったが、そのあと役所側と予算の折衝をしたり、材料の打ちあわせをすること一切をひき受けるのである。一例をあげると、都庁(旧東京都庁舎・1957年)の設計では、丹下案どおりに行なうと、都市ガスの使用量が3倍かかることになる。これをどう調整するかが参謀たちの役割なのだ。 *3 」彼らの名前は、彼らが支えた人々ほどには目立たない。けれども、どんな天才の仕事も、優れた工芸品であっても、一人で成り立つことなどありえない。かつて、小豆島をはじめとした瀬戸内の島々から切り出された巨石が、大阪城を支える石垣として用いられたように、優れた仕事には、優れた礎が求められる。そう、民藝も、そしてきっとロングライフデザインも、骨組みによってできているのだ。

*1 『手仕事の日本』柳宗悦全集11巻(筑摩書房)P.132 *2 前掲書 P.132 *3 草柳大蔵『実力者の条件』(文春文庫)P.288 ※ *1、*2の原文は全て、旧字・旧かな遣い

『d design travel KAGAWA』(2019年10月・D&DEPARTMENT PROJECT刊)より、転載

高木 崇雄|工藝風向 店主
高知生まれ、福岡育ち。京都大学経済学部卒業。2004年に「工藝風向」設立。柳宗悦と民藝運動を対象として近代工藝史を研究し、九州大学大学院芸術工学府博士課程修了。福岡民藝協会事務局。日本民藝協会常任理事。新潮社「青花の会」編集委員。 >> 工藝風向
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d design travel KAGAWA

旅が繋ぎ、アートする香川。
台風や雨雲は山々に遮られ、天災の少ない香川県。讃岐・瀬戸内という恵まれた暮らしは、一方で自らが生命線だった。アートやデザイン、うどんやお遍路 ── 今は、「路」が町と町、島と島を結び、「旅」が人と人を繋いでいる。それが自ずと香川という小さくても偉大で、美しさに溢れた県を形づくっていた。

d design travelシリーズとは
2ヶ月間暮らすように現地を旅して、本当に感動したものだけを「ロングライフデザイン」の視点で、本音で紹介しています。各都道府県に根付いた「長く続くもの」・「その土地の個性=らしさ」を選定し、[観光・飲食・買物・喫茶・宿泊・人物]の6つのカテゴリーに分けて「dマークレビュー」として掲載。情報満載の旅行雑誌ではなく、D&DEPARTMENTの感覚で確かめ、10年後も継続する生命力と、地場からのメッセージをしっかり持っている場所を紹介していく、デザイントラベルガイドシリーズです。

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