宇和島の食卓に欠かせない「麦味噌」

東予から始まった愛媛定食取材も、いよいよ南予の宇和島へ。愛媛で親しまれる麦味噌を求めて向かったのは、宇和島で昭和33年から続く「井伊商店」。

店内に入る前から、麦味噌の甘くて独特な香りがすっと鼻に入ってきます。出迎えてくれた三代目の井伊友博さんの案内のもと店内に入ると、大きな味噌樽がお出迎え。聞けば、友博さんの祖父が近所の酒蔵から転がしてきて、譲ってもらった木桶もあるそうです。

「昔から、味噌汁には麦味噌。毎日飲んでいますよ。」

関東だと米味噌が多いですが、愛媛では麦味噌が主流。古くから「はだか麦」の栽培が盛んで、現在も生産量は日本一です。そもそも「はだか麦」とは、大麦の一種で、脱穀する際に外皮がするりと取れることから、その名がつけられたそうです。

実際に触らせていただくと、つるっととして手の平でころころと転がってしまいます。

「味噌の定義からは外れますが、麦麹をふんだんに使った味がこの地域では昔から『麦味噌』として好まれているんです。」

日本の食品表示の規定では、大豆に穀物の麹を加えて発酵させたものを「味噌」とするそうですが、井伊商店の麦味噌の原料ははだか麦と塩のみ。この地域では、麦麹と塩のみで作られた味が長年親しまれているため、大豆を1%入れるのをやめ、昔からの造り方に戻されたそうです。

伺ったこの日は、すでに冬場の仕込みを終えて寝かせている段階でしたが、特別に、麦麹を仕込む際に使う「麹室(こうじむろ)」に入らせていただきました。麦麹を仕込むときは、室内を約32℃に保ち、一昼夜麦麹を寝かせるそうです。

麹室には、蒸した麦を冷ます際に使う「藁筵(わらむしろ)」や、麦麹を寝かせる「もろぶた」が置かれていました。

麦味噌は他の味噌と比べて熟成期間が短めです。井伊商店では、夏を越す味噌は約3ヶ月、冬を越す味噌は約6ヶ月と、季節によって違います。ご近所さんが蔵に直接買いに来るので、多く造りすぎることなく、地域の生活に合った分だけを仕込むそうです。

天然醸造のため、頼りにするのは今までの経験と勘。その時々の気温や状態に合わせて仕込みをされています。桶に味噌を入れるのも、洗うのも、すべてが手作業。手間ひまをかけて、この地域の食卓に欠かせない麦味噌は造られています。

私自身、普段米麹の味噌に食べ慣れているせいか、麦味噌に初めて出会った時は驚きましたが、気づけば麦味噌が好きになっていました。宇和島では、毎日のお味噌汁はもちろん、郷土料理のさつま汁、辛子と味噌を和えたみがらし味噌に使われていたり、唐揚げの下味や野菜炒め、豆乳鍋に入れることも。どんな料理に合わせてもおいしい万能調味料です。

麦味噌づくり一本で宇和島の食卓を支え続ける「井伊商店」。麦味噌の優しい甘さと懐かしい香りが、愛媛の記憶を呼び覚ます思い出の味になりました。

d47食堂では、愛媛定食の「味噌汁」と「みがらしこんにゃく」で、井伊商店の麦味噌を使わせて頂いています。店頭で販売もしていますので、ぜひご家庭でもお召し上がりください。

愛媛定食

※左下から、時計回りに

○日向飯めし
「無茶々園」の片山恵子さんに教えてもらった「日向飯」。ネギをニラにすると、また格別な美味しさ。

○こんにゃくのみがらし
「一柳こんにゃく」の「媛だるまこんにゃく」に、麦味噌とからしと酒と砂糖と米酢で和えた、みがらし。

○季節のみかん
明浜町の段々畑で収穫される「無茶々園」のみかん。農薬を抑えると、外見は悪くても、味は美味しい。

○じゃこ天
「宇和島練り物工房みよし」のじゃこ天。味違いで。朝取れの生魚を使うので、素材の美味しさを感じる。

○石鎚黒茶
酸化発酵と乳酸発酵を経て作られる、ほんのり酸味を持つ「さつき会」の独特な発酵茶。

○味噌汁
宇和島で無添加麦味噌をつくる「井伊商店」の麦味噌を使った味噌汁。「松山あげ」を浮かして。

期間 2020年3月4日(水) - 2020年6月2日(火)
場所 d47食堂
価格 1,750円(税込)