「100のそろり」能作工場見学レポート

現在D&DEPARTMENT GALLELYで開催中の「100のそろり展」。「100のそろり」は、高岡を代表する鋳物メーカー・株式会社能作が2016年に創業100周年の記念として制作したものです。能作が作るシンプルな花器「そろり」に、高岡の工芸を担う100名の職人たちが、その技術を以て装飾を施しました。

こちらがその「そろり」です。

「そろり」とは昔から高岡銅器に伝わる花器で、「そろり」というと大体同じ形なんだそうです。

今回はその「そろり」がどのように作られているか、能作の工場に伺い見てきました。

昨年の4月に新しくできた能作の本社兼工場。入ってすぐ目に入るのは「100のそろり」。ショップやカフェも併設されており、平日にも関わらず、たくさんの人で賑わっていました。

 

早速、工場見学に。工場を案内してくださったのは、能作の竹内さん。残念ながらこの日はそろりの制作日ではなかったので、同じ工程で作られる風鈴の制作過程を見させていただきました。能作では生型鋳造(なまがたちゅうぞう)と呼ばれる、鋳造用の砂に水分と粘土を混ぜ、押し固めて成型する方法で制作しています。

まずは、鋳型を作り鋳造(型に金属を流し込むこと)する鋳物場へ。入ると、独特な匂いがしました。金属の焼ける匂いなんだとか。

鋳型を作るには、上型と下型の2つの型が必要です。上型、下型は木型(原形)の上に枠を被せ、そこに鋳物砂(砂、粘土、水を混ぜ合わせたもの)を入れて押し固めて作ります。

こちらが木型。最終工程で製品を削って整えるので、それを考慮した形状になっています。

風鈴の上型を作るところを見させていただきました。始めに木型に型枠を被せます。ここに鋳物砂を入れていきます。

鋳物砂をふるいでふるって、

スコップで入れて、

足で踏み固めます。

ひっくり返して、木型を取ります。そうするとこのように木型の跡がつきます。上型の完成です。

この上型を、上型と同様に作った下型の上に被せます。下型には中子(なかご、写真:黄土色のもの)がセットしてあります。中子は、そろりや風鈴など中が空洞になっている製品を作るときに使用するものです。

この下型の上に、先程作った上型を被せて鋳型の完成。

そして上に開いている穴から金属を流し込んで、金属が固まったら砂を崩して型から製品を取り出します。これで鋳造の工程は終了です。

職人さんはなんてことのない作業のように、鋳型を作っていましたが、実は難しい工程なんだそう。砂を固めすぎても木型からきれいに取り外せないし、緩すぎると崩れてしまう。絶妙な加減が、まさに職人技です。
実際に触らせてもらいました。ぎゅっと握ると固まりますが、完全に固まっているわけではなく、つつくとすぐにぽろっと崩れます。

 

続いて、仕上げ場へ。鋳型から取り出したばかりの鋳物は、湯道(金属を流し入れる道)を切り落とした跡や砂の跡により、表面は滑らかではありません。少しずつ削って磨いていきます。

仕上げ途中の製品。かなり滑らかになっていますがまだ表面がくすんでいます。

ろくろで刃物を押し当て表面を削り上げます。どんどん光沢がでてきます。最後に表面の質感を調整し、製品の完成です。最終工程まですべて人の手で作られていることに驚きました。

写真のように並べたものを見ると一目瞭然ですね。写真一番右のそろりが鋳型から取り出したもの。製品よりひとまわりも大きいです。

 

最後に「100のそろり」について能作の竹内さんにうかがいました。

産地が一体となって高岡銅器を盛り上げたいという能作社長の想いから始まった「100のそろり」。その背景には、生活様式が和式から洋式へ変化し、高岡銅器の多くのシェアを占めていた仏具や梵鐘などの需要が減少していることへの危機感がありました。このままでは、高岡の職人も減少し、職人がいなくなってしまう。そうなれば、供養や除夜の鐘などといった日本の文化や風習もなくなってしまう。この文化や風習を未来に繋ぐために、能作だけではなく高岡銅器全体で力を合わせなければという、能作社長の強い思いがあったそうです。さらに、このプロジェクトでは、産地を支えながらも、普段表に出ることの少ない職人たちの技を可視化させ、多くの人に高岡の技術の多様さ、素晴らしさを知って頂きたい、という思いも込められています。

実際、「100のそろり」の作品をみると、着色師や彫金師、塗師など、様々な技術を持った職人がおり、同じ形といえど職人によってまったく違う作品になっています。私も初めて「100のそろり」を見たときは、これが同じ原型から作られたものだったとは信じられない!と思った程、仕上げや着色の技術の多様さに驚きました。

発案から完成まで、1年という時間をかけて取り組まれたこの「100のそろり」プロジェクト。これまで、高岡銅器は完全な分業制で職人同士の横の繋がりが薄かったそうですが、このプロジェクトをきっかけに職人同士の繋がりが生まれ、みんなで高岡銅器を盛り上げようという意識が生まれたのだとか。今後、高岡銅器のどのように変化していくのか楽しみです。

「100のそろり展」は7月8日(日)までD&DEPARTMENT TOYAMAで開催中です。ぜひ、見にいらしてください。