SyuRo「丸缶」工場見学レポート

2019年に開催したもののまわりギャラリー「SyuRo角缶のもののまわり」の取材で、東京都江戸川区の佐塚悦次郎さんを訪ねました。

角缶を製造しているのは、東京都台東区にあるSyuRo。代表の宇南山加子(うなやま・ますこ)さんは、職人の技術を生かした日用品をデザインし、数々のオリジナル商品を企画しています。D&DEPARTMENTでは、海苔缶をベースにした「角缶」と、茶筒をベースにした「丸缶」を定番商品として販売しています。もののまわりギャラリーでも、東京の職人と手がけているSyuRoのオリジナル商品としてご紹介しました。

どちらもブリキの素地を生かした凛とした佇まいで、一見同じ人が作っているのかなと思ってしまいますが、実は必要な技術や製造方法が異なり、それぞれの職人さんが手がけているもの。インテリアとしても素敵な収納道具が欲しいと、宇南山さんが製造をお願いして生まれたプロダクトです。

「丸缶」は、金属製品を製造する加藤製作所に発注、江戸川区手作りの茶缶職人・佐塚悦次郎さんが手がけています。宇南山さんが飲食店で見かけた茶缶の形がとても美しく、思わずどこで手に入れたものなのかを尋ね、加藤製作所にたどりついたのがきっかけだそうです。茶筒は本来和紙を貼ったり塗装をして使うものなので、素地の状態はいわば未完成品。素地のまま商品として売るなんて、そんなもの誰が買うんだと最初は渋々作り始めたものなのだとか。ですが、「見えないところだからといって手が抜けない」という「丸缶」のこの特性、とても佐塚さんらしいなということが取材を通して分かってきました。

佐塚さんは、家業を継いで5年ほど手作り缶職人として仕事をしたのち、その知恵と器用さを活かして、機械操作の責任者として製缶工場に10年間ほど勤務していました。佐塚さんがいなくなると機械をいじれる人がいない、とまで言われていたそう。バブル期に、進物用としての茶葉を入れるための茶缶の受注が爆発的に増えた時にも「一度手を抜いたらもう戻せないから」と常に品質を落とさずに作り続けてきました。爆発的に受注が増えると、何らかの作業を削ることで生産量を保つということになりがちですが、機械を改善することや作り方の工夫をすることに重点を置いて、決して品質は落とさずに機械缶の製造を引っ張ってきたという実績がありました。

29歳に機械缶の会社から独立し、現在は、自宅の一階を工場にして、ご夫婦で手作りの缶を作っています。工程を教えて下さる中で登場するのは、鍛冶屋さんに直接寸法を指定して作ってもらったという自分仕様の機械や道具ばかり。作る量を保つためにはと裁断機は電動のものだったり、常に効率を意識しながら手作業でしか出来ない表現をしていることを感じます。角缶とはまた異なる特徴のありそうな丸缶。製造工程をご紹介します。

 

【丸缶製造工程】

こちらは佐塚さんが、以前まとめていた製造工程。「胴」「キ」「蓋」の3パーツに、「天」と「底」を合わせていきます。「胴」と「キ」と「底」を組み合わせたものと、「蓋」と「天」を組み合わせたものに、別の職人さんが作っている中蓋をつけて完成となります。

 

 1.裁断する

ブリキ板を「胴」「キ」「蓋」の各大きさに合わせて裁断。佐塚さんは、いちはやくこの工程に電動裁断機を導入して、効率化を図りました。導入当時はまだ周りにいくつかの茶缶工場があり、手作り規模の工場で電動を入れるなんて!と驚かれたそう。質を落とさずに量を保つための設備投資が現在も生きています。また、仕入れるブリキ板の品質が毎回同じかというとそうではなく、その時々で硬さなどが微妙に異なります。なので、佐塚さんは材料の調達の時点で、いい材料が入ったら5トンくらいまとめて買って預けておいたりしているそう。それでも茶缶は、0.2mmの狂いで蓋の具合が悪くなるので、裁断のセッティングの確認は毎日必ず行っています。

 

 2.ロールで丸くし、部品でつなぎ合わせる

3本ロールという機械で平らなブリキ板を巻き、くるりと丸めてからハスというピンのような道具で固定。固定したい位置に、目印としてあらかじめ刃物で傷をつけるように線を引いているのですが、「老眼で目が悪くなってきたから改善した特殊な工程」だそう。見づらくなったから、より見やすく、手で触れても分かるような目印に変えたというわけです。ほかにも、身体が動かしづらいからと道具に小さな車輪をつけて可動式にしたり、作り続けていくためにあらゆる工夫をしていました。

 

 3.線半田でつける

重ねた部分に酸の薬をつけて、サッと手際よく線半田で接合し、円状にしていきます。こちらのこん炉も、ガスを通して火がつくように改造したもの。しっかり焼けてくっついたかどうかは、目視で確認します。

 

 4.胴にキを差し込む

「胴」と「キ」を重ね合わせる工程。丸缶を開けた時に現れる内側のパーツが「キ」なのですが、これはよく見ると台形に巻かれています。「胴」の下から入れると、突っかかって途中で止まるようになっています。この突っかかりをいかにキツくできるかということと、止まる部分がそれぞれ同じ位置になっているか(=同じ高さになるか)というのが、ここまでの工程の良し悪しを物語ることになります。佐塚さんの製作手順にも「これが手作りの本文、技術が必要、」と記してありました。

 

 5.半田コテでつけて、きれいにお湯で洗う

酸を塗り、「胴」と「キ」の重なった内側部分を半田付けします。こちらも、七輪にガスを通して、コテを熱するための自作の設備。コテを熱して、錫と鉛で出来ているハンダを採り、ひとつづつ、くるくると回しながらつけます。

塗った酸をしっかり落とすために、ひとつづつきれいにお湯で洗います。熱いお湯を使うのは、蒸発して水気が残らないようにするため。湯気が立っていて、ブリキ自体もかなり熱くなっていそう・・。ずっと佐塚さんの作業を見守っていた奥さま、驚きの手さばきで拭きあげていきます。

 

 6.天と底をつける

「天」と「底」をはめるのは、電動の機械。足で踏むと車輪と車輪が近づき、溝を作ることができるようになっています。普通は座って使用する道具なのですが、足踏みの仕様を追加するために特注で作った機械。今では、そういった特注で作ってくれる鍛冶屋さんが減ってきているというお話も聞きました。溝に巻き込むように、プレスしながら「天」「底」を合わせます。

 

 7.キの部分を手が切れないように丸める

「使い始めの茶筒は手が切れるから気をつけて」と昔はよく言われたそうで、カッターのように鋭い断面がフチになっているのが当たり前だったようです。佐塚さんは、加藤製作所の先代の社長さんから「手が切れないように何か考えてよ」と相談されて、フチを巻く技術を考えました。円になった状態のフチに、均一に力を入れながら巻く。これがなかなか難しかったそうですが、2段階に分けて、形が崩れてしまわないように工夫しました。このアイデアと特注の機械を作ったおかげで、手の甲に出来てしまう傷跡をなくすことに成功!手の甲の傷を気にせずにお茶を楽しめるようになりました。

 

 

あまりに手早い動きに、「ちょっと待って下さい、今何をしていたんですか?」と作業を止めてしまったことが何度もありましたが、その度にお話をして下さりなんとか工程を理解することが出来ました。

冒頭に、バブル期に進物用で茶筒がたくさん作られたというお話をしましたが、その時に初めて「使い捨てにされる、どんどん捨てられるから、そんなに上手く作らなくてもいい茶缶」が作られるようになったといいます。人間、手を落としたらもう戻せない。お客さんは1本しか買わないという信念で作らなきゃいけない。と取材の最後に語ってくれた佐塚さんの目が忘れられません。それは、私自身に言われているような気もしたからです。

今、「丸缶」が手もとにある方は、ぜひ内側の様子とか、「天」の丸みだったりとかを観察してみてください。本当に、キリッとしていてかっこいい!和紙のついた状態の茶缶を見かけて、美しい!と直感が働いた宇南山さんはとても素晴らしいなという気持ちになります。

 

茶缶、ではなく「丸缶」。スパイスを入れたり、コーヒー豆を入れたり、乾物を入れたり、針山を仕込んで裁縫道具を入れてみたりと色んな使い方ができる収納道具です。そしてもちろん、使えば使うほど経年変化を楽しめて“いずれアンティークになる”プロダクト。ぜひ、日用品に取り入れてみてはいかがでしょうか。