食の語り部2016レポート 6 美味しい豆腐づくりから見える、安全な食

第14回 良い食品博覧会にてd47食堂内で開催された「食の語り部」講座のレポートです。
第6回目は香川県でお豆腐をつくる久保食品の久保隆則さんに、「美味しい豆腐づくりから見える、安全な食」をテーマにお話しいただきました。

久保さんが国産大豆でのお豆腐づくりをはじめたのは35年前。きっかけは、淡路島モンキーセンターで約8割の確率で生まれてくる奇形猿の主な原因が、飼料として与えていたアメリカ産大豆にあると知ったからでした。

当時 厳しい規制もなく使用されていた農薬や、船で輸出する際に大量に使われる防カビ剤・防虫剤。残留性の高いそれらの薬品が生物に及ぼす影響を目の当たりにした久保さんは、苦戦しながらも徐々に国産大豆に切り替えていったと言います。
後日 私も奇形猿について調べ、生まれつき四肢のない小猿の写真を見て衝撃を受けました。

【久保さんのお豆腐はどのようにつくられるのですか?】

5~6年かけて国産大豆100%のお豆腐を完成させた久保さん。100種類以上あり産地も様々な国産大豆の中でも、長野県浜農場で栽培されているナカセンナリ大豆と10年程前に出会い、その素材に惚れ込んだそうです。高糖度・高タンパクなナカセンナリは、豆乳にしても甘みがあり飲みやすいとのこと。

「原料に惚れ込む。原料が答えてくれる。」と強く繰り返されるその言葉のとおり、久保さんのお豆腐づくりは素材の味を最大限に引き出すことを一番に考えられています。

凝固剤として使用するにがりも、土佐のあまみ屋の完全天日干し天然にがり。60種類以上のミネラルを含み、そのまま舐めても美味しいそうです。大豆とにがり、これらの素材の味をけして損なわないよう、久保さんのお豆腐は消泡剤(※)の代わりに昔ながらの米糠を使用しています。
(※大豆をすり潰した生呉(なまご)を煮たときに発生する泡を瞬時に消し、作業をしやすくするもの)

米糠に含まれる油の作用で、分子を細かくし泡を抑えるそうですが、米糠は栄養価が高いところも利点です。大豆との相性もとても良いため、大豆の味が素直に引き出されるとのこと。「納豆とごはん」の例になるほどと大きく頷いてしまいました。
消泡剤に比べて作業に時間はかかっても、先人の知恵を受け継ぎ素材そのものの価値に重きを置いています。

お話の途中で、実際に久保さんのお豆腐と某コンビニ店の豆腐の食べ比べを行いました。

左が久保さんのお豆腐。右は某コンビニ店の充填豆腐。

味の良し悪しに敏感とは言えない私でも、どちらが久保さんのお豆腐かすぐに分かりました。スプーンで一匙掬う感触からすでに違っていて、久保さんのお豆腐は口に入れて舌で潰すと、解けるように広がりました。濃厚な味わいながらも、後味はさっぱり。醤油がなくても、一丁食べれると思ったお豆腐は初めてです。

【実際にお豆腐をつくってみましょう!】

簡単なお豆腐づくりの体験も、参加者のみなさんと行いました。事前に食堂スタッフが用意していた、冷やした豆乳100gにスプーン2/3 (1.7g) のにがりを加えて混ぜるという簡単な作り方。そのままの豆乳を飲んでみたり、にがりを舐めてみたりと、みなさん思い思いに素材を味わい吟味しながら楽しんでいる様子でした。

完成したお豆腐の表面はぼこぼこで、一見茶碗蒸のようです。掬ってみるととろりと柔らかく、ほんのりとですが塩の味がしました。とてもシンプルではありますが、完成したお豆腐を食べたみなさんの笑顔が、本当に美味しいと物語っていました。

【良い「豆腐」が残っていくために、私たちができることはなんですか?】

私たちがスーパーで目にする豆腐は、残念ながらそのほとんどが機械で作られ消泡剤も使用されたものです。中には一日に100万丁の豆腐を生産している工場もあります。

「同じ100万丁でも、1000軒の豆腐屋が一日に1000丁作るほうが、僕はいいと思いますねえ。」

穏やかに、しかし強い眼差しで久保さんはおっしゃいました。30年前は3万軒あった久保さんのようなお豆腐やさんは、今では1万軒を切ってしまったそうです。

久保さんのお豆腐は、一丁一丁手作業でパック詰めされています。柔らかすぎて機械で詰めることが不可能なのも理由のひとつですが、お豆腐の仕上がりを人の手で確認することが重要だからです。
大量生産の弊害を危惧する久保さんは、毎日毎日素材と向き合いながら、目の届く範囲の量でつくることが大切だと教えてくださいました。それこそが、食品産業が戦後の効率化の名のもとに失ってしまったものだと。


参加者から質問を受け、自ら側へ行って受け答えする久保さん。

国産大豆に切り替えてお豆腐づくりをはじめた当初、商品の価格が上がっても、久保さんの想いを応援してお豆腐を買い続けてくれた理解ある消費者の方々に助けられたと言います。

そして25年前に良い食品の会に加入して同じ志を持つ生産者の方々と出会ったことで、昔ながらのお豆腐づくりに立ち返って伝統の技術を研究し、「本当に美味しいお豆腐づくり」に挑戦してきました。

私たち消費者に向けて、「疑問を持って欲しい。」と久保さんは言います。「この○○という表示はいったいなんだろう?」と疑問を持ち、溢れかえる食料品の中から安全なものを選ぶ目を養う。正直、難しいことだと感じました。

けれど少しずつでも、生産者と消費者が同じ目線で、自分や家族にとっての「安全な食」について考えていくことが必要なのだと思いました。

そうすることが、「良いお豆腐」や「安全な食」を守ることに繋がっていきます。