スタッフの商品日記 086 低座イス

日本ならではの床座の暮らしと発想から生まれた「低座イス」
D&DEPARTMENT京都店のd食堂開業時から、多くの人に愛され続けているのが天童木工の低座イス。ただの椅子やソファという枠にはおさまらないような、彫刻のような美しさがあります。畳にも優しいソリのような脚部を持ち、柿の実のような広い背もたれと座面は背中やお尻に沿うよう3次元的に曲げられ、横を向いて背もたれに寄りかかっても、体育座りやあぐらを組んでも不思議と体勢が落ち着き、程よい硬さのあるクッションが身体を支えてくれます。

低めの座面は立ち上がりすく、子供やお年寄りまで世代を問わず使いやすい構造。日本人ならではの生活様式や習慣から必然的に生まれたかたちでありながら、今の生活空間にもしっくりと馴染む、まさにジャパニーズロングライフデザインな椅子です。

つづく産業
将棋の駒で有名な山形県の天童市に本社を構える家具メーカー、天童木工は、単板と呼ばれる薄くスライスした木の板を重ね合わせて様々な形状につくり出す「成形合板」という技術を日本で最初に取り入れました。無垢材では表現しきれない自由な造形を生み出すことができ、多くのデザイナーとともに数々の名作椅子を生み出してきました。デザインだけではなく、成形合板の製品は軽く丈夫で、型を使いパーツを作り出すため量産も可能。

↑成形合板の製造工程
均一のクオリティのものを何脚も作り出すことができるため、コントラクト(公共施設や企業などの商業施設)の家具としても採用されています。1964年の東京オリンピックが開催された時には、丹下健三の設計による「国立屋内総合競技場 第二体育館」に客席椅子を2000脚、「国立屋内総合競技場 第一体育館」の貴賓室などの家具の納入などを行いました。それらのこともあり、天童木工は同年に第10回毎日産業デザイン賞*を受賞。“量産家具におけるデザインの確率”として高い評価を受けています。現在も、ホテルや美術館などの様々な場所で天童木工の家具が使われています。
*グラフィックやインテリア、クラフト、ファッション、建築など、あらゆるデザイン活動で、年間を通じて優れた作品を制作、発表し、デザイン界に大きく寄与した個人、グループ、団体を顕彰する賞のこと。1976年に毎日デザイン賞と名称を変更された。

つづく技術
この成形合板の技術を駆使し、天童木工では「できないものはない!」という気構えから、これまでに家具以外のプロダクトも多く作られてきました。楽器やお寺の祭壇一式、国際大会で使われている卓球台の脚、車の内装パネルなど、幅広く手がけています。作るものの大きさは違えど、美しく作り仕上げる天童木工のものづくりは、決してよそゆきではなく、家具づくりと同じ思いが通じているのです。


> 詳しいページはこちら「世界の天童木工」

つづく仲間
今年で創業82年を迎える天童木工の家具は多くの職人の手によって生み出されています。自然によって育まれた木は不均質で扱いにくいため、職人には木材の性質を読み、その木に合わせて加工する技能が求められます。天童木工には国家資格を持つ技能士が多数在籍し、彼らの繊細な家具づくりが国内外のデザイナーのアイデアに形を与え、「成形といえば天童木工」という評価を築き上げてきました。この高い技術力を伝承させていくため、工場内では“師弟制度”を設けています。ベテラン、中堅、新人の3人1組で仕事をし、先輩は後輩に技術を伝え、後輩は先輩に質問をしながら技術を学んでいく。マニュアルなどの教科書に載っていないことだからこそ、実際に見て学び、その次の世代に繋いでいるのです。

低座イスの誕生
リデザインを繰り返しながら現在の低座イスができあがりました。原型は1949年に坂倉準三が設計した竹かごを背と座に使い、ソリ状の脚を持った「竹籠座低座椅子」。舞踏家の和室での立ち居を助けるために、坂倉が興した「三保建築工芸」で製作されました。

独特な丸みのあるフォルムが特徴的で、この曲線はいくつものカーブ定規を組み合わせて生まれたとても柔らかい線。座り心地が良いと言われる所以も納得できます。日本では西洋の椅子やテーブルが普及した後も、畳や床の上に座る習慣が根付いています。まさに低座イスは生活が多様化する現代において、床座と椅子座をゆるやかに繋いでくれる椅子だと考えます。

低座イスの製造工程
①接着、機械加工
表面材(ナラ柾目)と中材(ブナ)をプレス機にいれ圧着させます。積層した板をNC工作機械と呼ばれる切削の機械で削り取り、パーツを作り出します。最終的に丸みを持たせたい部分や断面は職人の手で研磨を行います。

②塗装・研磨作業
パーツを全て組み合わせたあと、スプレーを使い木目を活かすような塗装を行います。塗装が終わって完全に乾いた後に再度研磨し、表面の凹凸を無くしていきます。(同じ作業を数回繰り返す)
何度も繰り返すことにより、塗装の膜ができて汚れにも強く丈夫な仕上がりになるのです。

③張り込み作業
クッションを接着剤で板座につけ、製品の形に裁断し縫製した布地をシワがでないよう、タッカーを使いながら張り込んでいきます。その上から専門の金具を使ってハンマーで叩き、針をさらに奥へ差し込んでいきます。

④検査
完成した本体にエアーをかけて埃などを取り除き、手触りと座った時に安全かどうかを確認してから出荷されます。

お気に入りのポイント
リラックスして使いたいダイニングとは分けて、PC作業や本を読むスペースに置いています。あぐらをかいたり体育座りをしたりと、自由な座り方ができる座面の広さと、腰掛けた時の程よい高さ感がとても気に入っています。貼地は、マットな肌触りと、いくつかの色の糸の組み合わせでブラウンが表現されている織り方を気に入り、貼地Cのアトラス・ブラウンにしました。座っていない時も、つい眺めてしまう造形の美しさがあり、置き場所や照明で様々な表情を魅せてくれる椅子です。

(下野文歌/d京都店ショップ)

低座イスの商品ページはこちら