69: アポロギアとバランス

感性のいい中国人の友人が、ここ何年か反応している傾向があり、その象徴のような店があります。そして、やっとそこに行く事が出来ました。ちょっとイヤらしくそのキーワードを書き出すと、「経年変化」「職人的修復と創造」「空間」「不便」「反東京」「見立て」「生活」「美」「暮らし方」「時間」・・・・・・。

マスメディアやトレンドからそれは生まれていない。なんとなくこれまでマスメディアによって作られた憧れを削いて削いで残ったもの。自分の選美眼を試して楽しむような、それでいて定着先は「暮らし」なのです。

ファッションやトレンドが家具や食器などの生活道具の傾向を作っていった結果、私たちは「日本製」の特に手仕事の気張らない感じに居心地を感じ、それに合わせて家具や自宅のリノベーション、もっと進むと都会を離れてそうしたものたちが似合う田舎の一軒家を借りて暮らす。そんな人たちがこぞって買いにくる店。そんな印象でした。もはや感度のいい人は、デザイナーが作ってピカピカしたものなど、関心が薄れて来たとも思いました。モダンも和モダンも通りこし、自然が作ったような、しかし、最終仕上げや、これまでの都市生活スタイルを一気に捨てず、受け継いでいったらどんな家具になるか・・・・・。そんなものが置いてありました。

人々は、新品から中古に、量産品から一点ものに移行中。その先頭集団にこの店は位置していて、彼がしていることは、「自然と時間」が作り上げたものを、丁寧に仕上げている。もう、1980年台の発想など、そこには無い。そして、古道具坂田さんによる大胆な疾走に、感性豊かな人たちは気づき、彼を追っている。そして、今、並んで走っているような感じ。

2020年秋。僕はD&DEPARTMENTとは違う店を東神田にオープンします。それはD&DEPARTMENTを次のステップに進めるためのタグボート。そのために何を選び、店に並べるのか・・・・・。大きな参考にやはりなりました。

マスメディアやトレンドは完全には無くならないとは思いますが、確実に言えるのば「新しい価値基準がすでにしっかりある」ということでしょう。だからこそ、20年間やって来た「ロングライフデザイン」を進化させる必要があるのです。

新しい場所はデザイン事務所ですが、真ん中に小さな実験的な店のようなものと、20年間ご好評を頂いている「d&ドライカレー」の小さな店でもあります。それら「商品」「伝え方」「音」「空間」「接客」・・・・・・これらをどうやって面ではなく点として表現するか。どれ一つ、主張することなく、無として感じてもらえるか。どれかが嫌味に聞こえない、見えないようにしながら、言いたいことを伝えられるか。ずっと考えています。