67:  d design travel

d design travelというデザイン目線で47の日本を紹介する本を年2冊のペースで発行しています。僕も初代編集長として、「北海道」「鹿児島」「大阪」「長野」「静岡」「栃木」「山梨」「東京」「山口」「沖縄」の10都道府県を担当し、次の編集長へとバトンを渡し、現在は29カ所目の「愛媛」号を三代目の神藤秀人が編集長として2ヶ月その土地に住み、取材をしています。(応援ください!!)

能楽の本として知られる世阿弥の「風姿花伝(ふうしかでん)」の中に、猿楽の基礎である「物まね」について書かれた章があります。「物まね」と言っても、コロッケやサンドイッチマンの安倍首相のそれではありません。天皇や大臣などを演じる時などとして、普段接することのない身分の方を演ずるときは、よく観察し、言葉遣いなどを調べるなどの努力をし、農民や庶民を演ずる(まねをする)ときは、なるべくリアルにするのではなく、「風情」を感じられるような真似をした方が良い、ということが書かれている。
僕らはこの本の取材でd design travelのテーマである「その土地らしさ」を拾い出します。そのとき、この風姿花伝にある思想が参考になります。つまり、あまりリアルな面を取り上げるのではなく、リアルなその土地の個性とも言えるものたちの「風情」(僕らは文化的な上澄みと見とる)を紹介するようにする。あまり高尚なものを取り上げても、広くみんなに伝わらない。長くその土地に馴染んでいるものにある超リアルな面の上澄みのようなところをスっとすくうように紹介する。文化的な語りでそれが「その土地の人には普通かもしれないけれど、外から見たらとてもあなたたちらしい素晴らしい文化です」とする。すると、そう言われたその土地の人たちは、「あれが、私たちの土地の原点か」と意識し、何か新しいことをしようとする時の、一つの指針にしてくれるように変わる。そのきっかけをこの本を作り出すことで作っている意識で取り組んでいます。
問題はこの本の需要が見えにくいところです。制作費がかかる割に売れない。笑 商売と考えると47都道府県を網羅することや、取材先の選定などがウケねらいで歪んでくる。そこを凛として選定基準を貫く程、どこか教科書的になってくる。
コンビニで本を売るような、何十万冊を作り、何万冊かを大量廃棄して、何万冊を販売するようなばらまくような商売もしたくないとしたら、こういう本が欲しいという人に直接届けられないと続かない。「ちゃんとしたその都道府県のガイド」を作ろうとする難しさといつも付き合っているわけです。
誰かが、土地の特別の中からではなく、普段の中から「らしさ」のかけらを見つけ出さなければ、日本中がヒットしている観光地の、お土産の真似をしだす。(もう、なっていますが・・・・)その土地の普通の中の極めて文化的な個性をそれとして拾い上げる。ぜひ、発刊の継続にご支援ください。そして、47の日本が、47種類の個性の続けられる文化的な島国であり続けられますように。

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