63: 知らず知らずに

静岡に帰ると母がいて、暮らす棟は違うのですが、ほぼお隣さん。妻と一緒じゃないと分かると、途端に母と息子になり、やたらと世話を焼いてきます。昔、それが嫌で友人に相談した程で、でも、その友人の答えが僕にとって意外で今も心に残っている。「だって、親だもの」。

静岡での僕の最大の楽しみは木々の剪定。剪定にも基本があって、それしかやっていないのですが、なんだか床屋さんになった気分。好き放題伸びた枝をきれいに、そして、さっぱりと成長しやすくしていく。未来に向かって形を作るその作業でしたが、先日、母に「あれは木苺よ、楽しみにしていたのに」「あれは・・・だから、これからが楽しみだったのに・・・・」と、どうやら剪定中に真横で邪魔する謎の芽吹きや生い茂った低木をバッサリやったそれが、母の楽しみの一つだったようです。

僕が25歳くらいの頃、入りたてのデザイン会社で、好き放題、あれは嫌い、これは嫌いと言っている様子に、上司(原研哉さん)が、「ナガオカさぁ、お前が大嫌いなものを、大好きだと思っている人もいるんだから、言葉に気をつけなさい」と言われ、凹んだことがありました。

知らず知らずに自分本位でやっていることでも、見えないところで誰かがいる。母には悪いことをしたなぁと、今度からは気をつけようと思いました。