職人による、椅子の張り替え

D&DEPARTMENTでは、新品の商品と中古の商品の両方を販売しており、東京店には中古の椅子がよく入荷してきます。

新品の家具を販売する一方で、入荷してくる使い込まれた椅子を見ると違いは歴然としています。明らかに傷みがでているのは、たいてい硬いフレーム部分よりも、柔らかい張り地やクッション部分です。あまりにもくたびれている場合には、張り替えに出します。

ここ2年の間、そんな東京店の中古の椅子をたくさん張り替えていただいている職人さんがいます。東京のあきる野に工房を構える、fujitake worksの藤武秀幸さんです。

いつも、細かい仕上げのイメージの相談をして、わくわくしながら納品を待って、実際に完成したものを見せてもらっては、やっぱりお願いしてよかった!と、喜んでいます。

一例をあげると…

(張替え前)飛騨産業の名作「アイガーチェア」は、ご覧のように座面がペラペラになっていました。

(張替え後)しっかりクッションを入れて、ふっくらやさしい座り心地になりました。

(張替え前)こちらは今ではなかなか見かけない木製の診察台。家に置くには無骨なビニルレザーでした。

(張替え後)高いところで床座りするようなイメージにしたかったので、気持ちの良いファブリックにして、あえてクッションは最低限に、直線的なラインを残してもらいました。また、古い生地をはがしてみたら座板が割れていたので、交換もしてもらいました。もともと木工を学んでいる藤武さんは、ちょっとした構造の修理もしてくださいます。

普段あまり目にする事のない、張り替えとは一体どういう作業なのか、藤武さんの工房にお邪魔して、実際に見せてもらいました。

左から2番目が藤武さん。

きれいな作業場に所狭しと修理待ちの椅子や生地が並んでいました。

張り替えで使う道具は、おおまかにハサミとタッカーとミシン。生地をカットし、縫製があればミシンを使い、仕上がった生地をタッカー(強力なホチキスのようなもの)で椅子の土台に打ち付けていきます。

 

多くの椅子張りは縫製が入っているので、ミシン使いも仕上がりの綺麗さに大きく影響してきます。椅子張りというと、このタッカーで生地を留めているシーンを想像しますが、実は、それまでのカットや縫製、クッション材選びから入れ込みまでの工程などの様々な下準備があります。張り替えの場合には、古い生地をはがすところからなので、元の椅子や生地を傷めないように、気を配りながら芯をとっていく作業もあります。

時には、古い生地をはがしてみたらフレームとなる構造の部分が壊れていることがあり、まずその修理からしなくてはいけないこともあります。椅子の中身は時代によっても、メーカーによっても千差万別なので、張り替えには多くの経験と知識が必要になります。藤武さんは様々な現場で経験を積み、いす張り1級技能士の資格を取得されていますので、あらゆるタイプの張り替えをすることができます。
ちょうどこの時は、東京店で販売していた柳宗理デザインのコトブキのサイドチェアの張り替えをお願いしていました。

学校で使われていたということもあり、生地の色あせ、汚れ、傷み、そしてクッション材の硬化が見られました。白いシェルから、シートとなる部分のパッドパーツは外れますので、ここを張り替えてもらいます。

生地はこんなかんじにカットされていました。これだけだと想像しにくいですが、2枚を縫い合わせて、センターラインに縫製が入ります。そして横に置いてある硬いチップウレタンと、あたりを柔らかくするウレタンのクッション材を合わせて、台座となるパッドに張ります。

完成です。とても綺麗で、納品の時にはどきどきしてしまいました。写真ではお伝えできませんが、張り替えたものに座ってみると、古いものはクッションがかなり硬く劣化していた座り心地だったことを実感しました。こちらの張り替え前、後の違いは店頭で展示していますので、その違いを比べてみてください。

見た目も座り心地も断然に良くなると、この椅子はこんな魅力があったんだと再発見することもあります。私自身は張りの椅子を持っていないのですが、たまに実家に帰ってみると、小さい時から何も考えずに座っていた布張りの椅子はかなりクッションがへたって、生地も傷んでいることに気づきます。身近な愛用の家具ほど、変化に気づきにくいものです。

椅子がくたびれてきたから買い替えようかな、と思う前に、一度張り替えてみることも選択肢に入れてみてください。新しいお気に入りを探すのもわくわくしますが、気に入っている椅子やソファが張り替えで蘇るのもまた、違う楽しみと安心感があります。

東京店では、季節に一回くらいのペースで、張り替えの相談会を開催しています。予約優先制ですが、予約の入っていない時間は当日のお持ち込みや相談もお受けします。空き状況は電話でお問い合わせください。(東京店03-5752-0120/水曜定休)

皆様のお越しをお待ちしております!