福島定食ができるまで(2)ふるさと工房おざわふぁ~む

郡山市から南下し、次に向かったのは古殿町。ここには「ふるさと工房おざわふぁーむ」さんを訪ねて来た。平家の赤い屋根を目標に探していると、それらしき建物が畦道を抜けた先に見えてきた。

「いらっしゃい!もう鍋を暖めてますからもう少し待っててくださいね~」と、まるで顔馴染みのように出迎えてくださったのは小澤さんご夫婦。部屋の中には囲炉裏があり、思わず吸い寄せられるように側で暖をとり始めてしまった。囲炉裏の火は暖かく、外の冷たい空気で縮こまっていた体が少しずつほぐれていく。

今回「おざわふぁーむ」さんを訪ねてきたのは「凍み餅」という保存食を学ぶため。まずは見てくださいと、白い包み紙を開けると、中には四角いスポンジような形をしたものが。触ってみると表面は硬く、まるで軽石のようだ。

中に点のような模様が見られるが、これが凍み餅に欠かせない「雄山火口(オヤマボクチ)」。

凍み餅に使うのは、「雄山火口」の名前の由来にもなっている葉っぱの部分だ。葉の裏には繊維質の茸毛(じょうもう)という綿毛がついており、昔は火起こしの際に火口として使われていたそうだ。落ち葉などの乾いた葉は握れば粉々に砕けるが、この葉っぱは繊維質な分、こねると丸まってしまう。この特性を生かして、そばのつなぎにも使われている。
この地域では「ごんぼっぱ」という名称で親しまれており、ここでは自家採種した種でごんぼっぱを栽培をしている。

凍み餅は天明、天保の飢饉の際には既に食べられており、当時、良質なお米は藩に献上し、余ったお米はごんぼっぱでかさ増しして人々の食をつないできた。

「子供の頃はおやつによく食べていましたよ、パンの代わりが凍み餅だったんです。」
古殿町は福島の中通り地域に属するが、浜通り寄りのためほとんどこの地域では雪が降らない。寒風でじわりじわりと水分を抜き、40日間も乾燥させてようやく凍み餅が完成となるのだが、仕込みの段階から手間をかけて作られている。

春になり、ごんぼっぱの葉を収穫すると葉の裏にある葉脈を取り、十分に灰汁を抜いて乾燥させる。季節は巡り、寒い冬になると、もち米、うるち米粉と、戻して水気をしっかり切ったごんぼっぱを入れて餅を作る。一晩置いた後、餅を一枚づつ包み、紐で編み込み、冷たい水に十分に浸して軒先に吊るせば、あとは自然の力で凍っていく。出来上がった凍み餅は10年は虫が出ることもなく食べられるので、長期的な保存食としてこの土地に根付いてきた。
小澤さんご夫婦にとって、ふたりの冬仕事が凍み餅作りなのだ。

ここで凍み餅を実食させていただくことに。凍み餅は中に水分を含んでいるため、揚げるよりも水に戻して油を引いたフライパンで焼いたり、レンジを使うと良い。この時はシンプルにみたらしでいただいた。

噛むとカリッとした香ばしさがあるのに、中は柔らかくとろとろに。今までにない餅の食感に、取材チーム全員がおかわり希望。手慣れた手つきで最高の焦げ具合になるまでしっかりと焼き揚げる様子を見ながら、私たちはすっかり童心にかえって出来上がるのを待っていた。

次から次へと美味しい料理を出していただけるので、お腹の具合はもう一杯に。「せっかくなので裏山を見て行きますか。」ということで、おざわふぁーむさんの敷地内にある山に登らせていただいた。
山に登る途中、羊小屋を見せていただくと中から元気な鳴き声が聞こえてくる。この地域にはラム肉を食べる文化があり、ここで育った羊も食肉として提供されることもあるそうだ。

登り切った先には、山と山の間を覆うように田んぼが開かれている。「ここは私たちが作っている田んぼなんですが、向こうに見えるのは地域の後継者がいない水田を委託されて耕作している田んぼです。」次の世代の担い手がいないため、田んぼをやむを得ず手放す人がこの地域でも増えている。田んぼに囲まれた場所にポツンと小学校が立っている。広い芝生で伸び伸びと走り回る子供たちは、この町の景色を見ながらどのように育っていくのだろうか。

米作りに、動物の飼育……と上げきれないほど、おざわふぁーむさんの仕事は多い。「毎日やることがたくさんあって忙しいんです、でも楽しくて仕方ない。」そう語る小澤啓子さんの笑顔に、私たちもつられて笑顔になる。

百姓は自然に抗えない。それでも、自然と共に生きる中で喜びを見出し、農を楽しむ人々がいる。失われつつある文化に、ぽっと一つの燈を掲げて、まわりを照らしはじめているのが「おざわふぁーむ」なのだ。

 
ふるさと工房おざわふぁ~む
福島県石川郡古殿町田口石畑135 MAP
ふるさと工房おざわふぁ~むFacebook


「福島定食」ができるまで
D&DEPARTMENT PROJECTが、47都道府県それぞれにある、その土地に長く続く「個性」「らしさ」を、デザイン的観点から選びだして紹介するデザイントラベルガイド『d design travel』。30県目の節目となる、今回の目的地は「福島県」。d47食堂では、『d design travel』の発行毎にテーマとなる県の定食を提供しています。今回の旅は、「福島定食」を完成させるため、福島県でたくさんの場所や人を訪ねました。現地を訪ねたd47食堂スタッフによるレポートをお届けします。(全10回予定)


 

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