中村製作所 見学レポート

D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYで開催している「富山プロダクツ2021展」「富山プロダクツ」とは、富山県内で企画・製造された製品の中で、機能性やデザイン性に優れたものを選定し、国内外に向けて広く発信していく取り組みです。富山のロングライフデザインを伝える活動を続けるD&DEPARTMENT TOYAMAでは、「富山プロダクツ」の取り組みに共感し、「富山プロダクツ」の取り組みともっと知っていただこうと、毎年新たに「富山プロダクツ」に選定されたアイテムを紹介する展覧会を開催しています。

今回のレポートでは、2021年度に新たに「富山プロダクツ」として選定されたアイテムの1つ「ifuki」シリーズを作る中村製作所を訪れ、社長の藪中映子さんにお話しを伺いました。

「ifuki」のシリーズ」

社長の藪中映子さん

高岡にある中村製作所は、昭和20年創業の歴史ある鋳物メーカーです。創業当時は、家庭用のアルミ鍋を作ってましたが、時代の変化に合わせて、高度経済成長期には、干支ものを作るように。工場を訪ねると、まず目に入ってきたのは、棚いっぱいに飾られた龍の置物!!大小さまざまな龍の置物が所狭しと飾られていました。

この龍は、全て金属で作られていますが、躍動感ある龍のポーズや、細かい鱗、繊細なヒゲの表現など、まるで金属ではないような生き生きとした作りになっています。思わず「すごい・・・!」と見入っていると、藪中さんが「これは“ロストワックス”という技法で作られているんですよ」と説明してくださいました。

鋳物の製造現場は何度か拝見したことがありますが、「ロストワックス」というのは初めて聞きました。普通の鋳物の作り方と何が違うんですか?と聞くと、ちょっと苦笑する藪中さん。「分かりにくいと思うのですが・・・」とパネルを取り出して、一連の行程を丁寧に教えてくれましたが・・・確かにややこしい!!(汗)藪中さんの苦笑の意味がよくわかりました・・・。

「実際に見た方が分かりますよ!」ということで、藪中さんに工場を見せていただきました。まず、見せていただいたのは、基礎となる「ゴム型」を作る現場。鋳物は、通常「砂型」と言って、名前の通り砂で固めた型に金属を流し込み、金属が冷えて固まったら、砂型を壊して中の金属を取り出しますが、「ロストワックス」の場合は、砂型の代わりに蝋で型を作るのが特徴です。蝋で型を作るのに、なんでゴム型!?と最初から混乱する私・・・。

工場の職人さんが混乱する私を見かねてか、実物を持ってきて丁寧に説明してくれました。まず、木などの素材から、作りたい形(=原型)を掘り出します。原型ができたら、シリコンゴムに原型の形を写しとり、ゴム型を作ります。こちらは、「ifuki」のシリーズのひとつ、ダンベルの「MANTLE」の原型からゴム型を作っている様子。黒っぽいのが原型で、赤っぽいのがシリコンゴムです。

こちらは龍のゴム型。

ゴム型だけ見ると龍の全体像があまりイメージできないのですが、よく見ると細かい鱗が見えますね。触らせてもらいましたが、ちょうど、お菓子で使うゴム型の複雑版のような感じでした。

ゴム型ができたら、そこに溶かした蝋を流し込みます。蝋が冷えて固まったら、ゴム型をとると・・・

龍の蝋人形が出来上がり!なんだかチョコレート菓子のようです。

こんな感じで、まずはゴム型に蝋を流し込んで、ひたすら蝋人形を作っていきます。

これ、なんの型か分かりますか?

実はd富山店でも販売している大寺幸八郎商店の干支シリーズ「猿親子」なんです。確かに親子がセットになってます!中村製作所さんが作っていらしたんですね!

蝋からゴム型を剥がす時、柔らかいゴムがすぐに裂けてしまったりしないのかな?と思いましたが、実はゴムは強度がしっかりあって、柔らかいからこそ複雑な形をしていても剥がしやすいんだそう。

出来上がった蝋人形(?)は、この段階で一度職人さんの目でチェックされ、形を整えます。細かい傷やカケがあれば、この段階で修正します。この工程、蝋だから削ったり足すこともできるんだ!と個人的に大納得したポイントでした。確かに砂型ではこんな風な細かい修正はできません。「なんだったら、イニシャルを入れるなど、ある程度のカスタマイズもできちゃうんですよ!」と藪中さん。そんなこともできるなんて!ロストワックス、すごいです。

あれ、でも鋳物といえば、型に金属を流し込んで形を作るのに、ゴム型に蝋を流し込んで形を作ってしまっていますが、この先どうするんでしょう??「こちらへどうぞ」と隣の部屋に案内していただくと、、、

謎の物体が天井にぶら下がってます!よくみると、「ifuki」の「CAGE」です。

「これを見てください」と藪中さんが見せてくれたのは、液体と砂の入った大きな寸胴。

中を覗くと液体と・・・

砂が入ってました。

「先ほどの蝋でできた型をこの液体と砂に順番につけて、蝋の周りにコーティングしていくんです」と藪中さん。天井から吊り下がっていたものは、蝋にコーティングがされた状態のものだったんですね。

「コーティングが終わったら、”脱蝋機”という機械に入れて、100度の蒸気をあてます。すると蝋が溶けて、コーティングだけが残るんです。」なるほど!これが鋳型になるのですね!

奥に見えるのが脱漏機

龍の鋳型。なんとなく形がわかりますね。

中を覗くと蝋が溶けてなくなって、ちゃんと空洞になってます!

あとは、砂型鋳造と同じで、出来上がった鋳型に金属を流し込むだけ・・・・と思ったら、鋳型はそのまま何やら大きな釜の中へ。

「ロストワックスの場合は、金属を流し込む前に、型を焼きます。こうすることで、型の強度が増しますし、型が温まることで金属を流し込む時にも、金属の熱を保ちながら隅々まで流し込むことができるんです」。金属はすぐに冷めて固まってしまうので、龍のひげのように細い部分に金属を流し込むのは大変だろうな、と思っていたので、この工程の話を聞きさらに納得でした。

型を焼き、金属にを流し込んで、金属が固まったら、最後に型をばらすとようやく製品が出来上がり。

あとは細かく研磨をかけて完成です。仕上がりまでの工程の多さにとても驚きました。手間はかかりますが、その分、砂型鋳造ではできない細かい細工ができるのがロストワックスの最大の魅力。入り口で見た龍の置物は、まさにロストワックスの見どころが凝縮した作品だったのですね!

このロストワックスの魅力をもっとたくさんの人に知ってほしい、とずっと思っていたという藪中さん。ですが、複雑な工程は説明してもなかなか伝わりにくく、どんなものが作れるのか、イメージを持ってもらいにくいのが悩みだったと言います。いつか、自社ブランドを立ち上げて、ロストワックスの魅力を伝えたい。そんな時に出会ったのがデザイナーの阿部憲嗣さんでした。

阿部さんとは、富山県で開催されるデザインコンペ「デザインウェーブ」に参加したことがきっかけで出会ったそうです。「デザインウェーブ」は、商品化を前提として、デザイナーと県内企業がコラボしてアイデアを形にするデザインコンペです。2018年に阿部さんが提案したアイデアを実現するには、中村製作所の技術がピッタリ、ということで「富山県総合デザインセンター」の窪さんからお声がかかり、参加されたそう。その時に開発したダンベル「ARMADILLO」は見事「とやまデザイン賞」を受賞!そして、この取り組みを通じて、阿部さんのデザインと人柄に惚れ込んだ藪中さんは、デザインウェーブが終了した後も、一緒に商品開発していきたい、と直接阿部さんにオファーされたそうです。

そして、3年の時間をかけてようやくリリースされたのが、今回の「ifuki」のシリーズ。日々の生活で使ってもらえる道具、かつ、ロストワックスだからこそできる表現を盛り込んだアイテムです。それぞれのアイテムには、藪中さんが伝えたいロストワックスの魅力が1つずつ盛り込まれています。

例えば、こちらのお香たて「KATAKURI」。特に見ていただきたいのは、金属なのに花びらのような薄さ。

こちらのお香たて「CAGE」のシリーズは、格子状のデザインが見どころ。一見シンプルなデザインですが、鋳物の工程を知っていると、一体どんな型を作るのか、型をどうやって抜けばいいいのか、全く分かりません。砂型鋳造ではできない複雑な形も作れるのがロストワックスの特徴です。

箸置き「CLAMS」の見どころは、ふたつを重ね合わせた時の、このピタッとくる精度の高さ!高い精度で型が抜けるロストワックスでは、仕上げの研磨が最低限で済むため、隙間が少なくピタッとハマるのです。

こちらの花器「POLAR」は、実は2つの蝋型を接着剤させて鋳型を作っています。蝋型だからこそ、こうした自由度の高いデザインもできます。

最後に紹介するこちらの花器「WALTZ」は、ロストワックスの技術に、「吹き分け鋳造」という技術を組み合わせたもの。吹き分け鋳造とは、2種類の違った金属を同時に流し込む技法のこと。花器の表面に現れる模様は、金属が流れて混じり合ってできた自然の模様なのです。側面をねじったようなデザインで表面を広くみせ、勢いのある力強い模様を生かす工夫がされています。

1つひとつのアイテムに、ロストワックスの特徴がしっかり表されていて、とても分かりやすい!例えロストワックスの詳しい技法を知らなくても、「ifuki」のシリーズを見れば、ロストワックスの技術の高さ、表現の自由度の高さが直感的に分かります。同時に、今回、ロストワックスの技法を詳しく教えていただいたおかげで、「ifuki」のシリーズを見ていると、一体どんな型を作っているんだろう?と考えたくなり、まるで謎解きしているように引き込まれました。やっぱりそのものが作られる背景を知ると、さらにものを見る楽しさが膨らみます。これは実物を見ていただくのが一番わかるので、ぜひ皆様も店頭で見てみてください。