奥久慈鮎の塩焼きができるまで

茨城県北西部に位置し、栃木県と福島県にきゅっと挟まれたような地形をした大子町。山々が連なり、その頂がはっきりと見えるほど秋晴れの空。車窓から見える、白く細長い漆の木を眺めるたびに、私たちは大子町へと思いを馳せ向かいました。

この日、大子町に来るのは2回目。以前、久慈川の天然鮎について話をお聞きした「菊池つり具店」さんを訪ねました。こちらでは、鮎釣りに使う囮鮎を販売されており、釣り人が釣って余った鮎を買い取り、その鮎を一般に販売するという鮎の販売サイクルができています。

お店に着くと、外で腰掛けながら作業をする菊池さん。その大きな手には針と糸を持って、小さな網の目を器用に修復している途中でした。「また来たのかよー」と言葉とは裏腹に優しい声のする菊池さんに鮎について伺いました。ちょうどのこの日は鮎釣りの途中だったそう。折角なら鮎を獲るところを見ていきなさいと漁場を案内してくださいました。

お伺いした漁場には釣り仲間の方がいらっしゃり、ちょうど投網で漁の真っ最中。静かに見守りながら川へ近づくと、久慈川は川底がはっきりと見えるほど透明で、鮎の動く様子も分かるほどでした。
鮎の投網は三人がかり。二人は鮎の動きを見ながらどの辺りにいるかを知らせ、もう一人がタイミングよく網を投げます。その様子を見学させていただきましたが、鮎はかなりすばしっこく、いたと思うとすぐ見失ってしまうほど。普段から鮎釣りを楽しまれる皆さんでもそのタイミングの見極めは難しい様でした。

鮎は一般的に河口付近で生まれ、海に出て稚魚となり、約80キロにも及ぶ自分の故郷(久慈川)へと帰ってきます。そして秋になると産卵のため一斉に海へと下り、産卵後に一生を終えます。
この自然の循環は、環境の変化や汚染により年々厳しくなり、鮎の産地では稚魚を育て放流する場所もあるそう。
全国的に鮎の漁獲量が減る一方、久慈川では今も変わらずその命の循環が続いています。鮎の産卵時期になると禁漁の期間を設けたり、鮎たちの産卵場を整えるなど、再び稚魚たちが成長して戻ってこれるような取り組みが行われています。

ちょうど伺った時期は禁漁期間が明けた頃。この時期の鮎は秋に川を下ることから「落ち鮎」と呼ばれ、メスの子持ち鮎は卵に栄養がいき渡り、オスは身が締まり旨味が強くなります。生簀の中を覗くと、すっと綺麗な姿をした鮎が身を寄せてじっとしていました。
最初少し怖そうな雰囲気を纏っていた方々でしたが、釣りをしている姿はいたずら好きの子供のよう。昔からきっと、この久慈川で鮎釣りを楽しんでいたのだろうと情景が浮かぶほど、皆さんの釣りをしている顔つきは柔らかくなっていました。

今回私たちを案内してくださった「大子町特産品流通公社」の中野さんも、この釣り仲間の一人。帰りの車内で久慈川の鮎のこと、釣り仲間の方々のことを教えてくださいました。
「ここの人たちは『わすらする』、いたずら、遊び心があるっていう意味なんだけどね、そういうあそび心を持ち続けている人が多いんだよ。」

大子町に来て感じた自由さ、風通しのよさは、自然と共に育ち、大人になっても好きなことをとことん楽しみながら生きる人々がいるからこそ根付いた空気。この景色がこの先も変わらず続いていくことを願いながら、鮎の塩焼きをがぶっと頬張る。次の命をつなごうと懸命に、生まれた久慈川へ戻ってきた鮎。まるごとおいしくいただきましょう。

〈提供期間〉
会期 2021年12月25日(土)~
場所 d47食堂(渋谷ヒカリエ8F)
価格 1,400円(税込)
※数量限定のため、なくなり次第終了となります。

〈店舗情報〉
d47食堂 Facebook / Instagram

住所  東京都渋谷区渋谷2-21-1 ヒカリエ 8F
電話 03-6427-2303
営業時間 月火木|11:30-20:00 金土祝前日|11:30-21:00 日|9:00-11:00/11:30-20:00
※水曜定休
※日曜日はd47食堂モーニング開催のため、朝の時間帯も営業しています。(第5週目を除く)