北陸唯一の種麹店「石黒種麹店」

色んな方に話を聞けば聞くほど、富山の人達は本当に働き者。積雪量が多いため、裏作ができず米作りの単一農業。長い農閑期が続く冬場に素麺を作り、合間にチューリップの種付けをして。その昔の越中富山の薬売りも、冬季間の貴重な収入源となっていたと言われています。

 

「日々、一生懸命働けば極楽浄土にいくことができる」

浄土真宗の教えにもあるように、真面目に毎日コツコツが根付く富山県です。全国、持ち家率が毎年1位なのもなんだか納得です。

長い農閑期ということは、雪が多く、寒暖差も激しい。日本でもっとも高い湿度、風土的には発酵食品作りに適している。保存食も興味深い。取材に入る前に、郷土料理を色々と調べた中で「かぶら寿司」という寒い時期に作る料理がありました。

左下にあるのが「かぶら寿司」。(出典:『別冊うかたま 年取りと正月の料理』日本調理科学会 企画・編集、農山漁村文化協会(農文協)出版)

酢でしめた鯖をカブで挟み麹に漬け込む。かつては加賀藩の一部だったことから隣接する石川県でも作られていますが、富山では鰤を使います。富山を代表とする冬ご馳走。その味の決め手となるのが麹です。その麹の元を北陸で、唯一販売している石黒種麹店。お店のある南砺市福光は、かぶら寿司の人口比における消費量が日本一だと言われています。

趣のある建物の奥から、迎えてくれたのは店主の石黒八郎さん。麹屋としては8代目、種麹屋としては4代目にあたり、江戸時代から商いを始め、明治28年に種麹屋を創業されています。

「見た目がキレイと思ったものは、はい。不思議と酵素が多いんです。はい。」ご主人の八郎さんのその特徴的な節回しとお話に、私達の麹への興味が、どんどん膨らんでいくのです。

菌がお米の中に浸透していくことを、「はぜる」と言いやがて綿毛のような麹の花が咲きます。中深くまで菌糸が伸び、いい米麹ができるのです。反対に麹が少ない状態を「はぜおち」と言います。

麹の菌糸は、水分のある場所に伸びていくので室の湿度を上げ、米に吸わせる水の量を調整、麹菌の発酵熱を利用した温度32度、湿度100%に近い麹室の中で、種麹を混ぜた米を麹蓋に入れ、直積みでは無く、8段の木棚に並べて発酵させていきます。上下を入れ替えたり、微妙な調整を昼夜問わず4日間かけて行うそうです。

石黒種麹店さんの麹は、米の中にも外にも菌糸の回った総はぜ麹。その麹は、100種類以上の酵素を生み出し、米や大豆の旨味を引きだします。

最後に、出していただいた甘酒。私は正直、甘酒は苦手なのですが、ひと口飲んでみると、すぅーっと身体に吸収されていく。

「これが麹本来の甘さ旨味なんですよ」と八郎さんは言います。原材料には、新大正もち米、富山県産コシヒカリ、そして隠し味に低音蒸発の能登の塩を。砂糖や甘味料を一切使っていないのに、優しい甘さ、本当に美味しい。

酵素が持つ触媒能力は通常、1000~2000ユニットと言われているのに対して、石黒さんの麹はなんと5000ユニットと3倍。酵素の量と旨みや甘味の量はほぼ比例する。科学的にも証明されています。私には、少しでは無くとても難しい単位や数値、酵素の名前などが次から次へとどんどん八郎さんのお話に出てきます。

本当に徹底した追求と研究、何より麹愛。これに尽きるのだと思います。人の都合で作るのではなく、麹のもととなる私達の菌を最大限に活かせるように作り続けています。決して麹を甘やかさないこと。とお話を締め括ってくださいました。

長い歴史の中で、富山の気候と風土の中でつくり続けられ、日々の食生活に欠かせない麹。母親がキチンと食べなさいと言いながら毎日作り続けてきたもの。季節になると必ず行っていた、漬けることや保存すること、熟成させること。これまで受け継がれてきたその全てに意味があり、私たちの健康の源となっていることを、そして、自然を尊重しその恵みを最大限に引き出し分け合うことを、改めて感じる時間となりました。