美術木箱うらた 見学レポート

現在、D&DEPARTMENT GALLERYで開催している「富山プロダクツ2020展」。「富山プロダクツ」とは、富山県内で企画、製造される性能、品質およびデザイン性に優れた工業製品を選定し、国内外に向けて広く発信してく取り組みです。今年度は、15社・23点が新たに富山プロダクツとして選定されました。今回は、今年度の選定品の一つ「KIRIFT RICE STOCKER」を作る「美術木箱うらた」を訪ねました。

 

工芸の町・高岡市にある「美術木箱うらた」は、ご家族4人で制作から販売まで全てを行っている小さな工房です。当日は奥様がご案内してくださいました。

「美術木箱うらた」は、器などの商品を収める桐箱を専門に作るメーカーさんです。私たち一般の消費者にとっては、なかなか馴染みの少ない桐箱屋さんですが、実は、量産用の箱を作るところと、個人向けの箱を作るところの2種類があるそうです。「美術木箱うらた」は、特に陶芸家やガラス作家など、個人作家さんの作品を収める桐箱作りが専門。1点からオーダーができ、作品に合わせて、大きさやデザインを一つひとつ変えて作るのが得意なんだそうです。

桐箱は、作品を支える脇役ですが、中身のものと釣り合っていないと、作品の価値を下げてしまいます。特に、浦田さんが対応するお客様の多くは、個人の作家さん。人間国宝の方の作品を収める箱を作ることも!作品に合う箱となると、脇役と言えども、高い品質が求められるそうです。

これまで、様々な箱作りを手かげてきた「美術木箱うらた」ですが、オリジナル商品にチャレンジするのはこれが初めて。「RICE STOCKER」を作るきっかけは何だったのでしょうか?

 

■使い手目線で発想する

「私がつくって欲しいものをリクエストしたのが始まりです」と明るく話す浦田さん。90年代ごろは、お茶碗や骨董品集めがブームで、作品を収める箱の需要も多かったそうですが、今は時代が変わり、箱の需要も減る一方。ならば、箱だけで売れるものを作りたい、と思っ他のが始まりでした。

「自分は主婦なので、自分が使いたいもの・欲しいものをいつも考えています。使い勝手が良くて、どんなインテリアにも合うもの、ずっと使えるものが好き。今までに見たこともない新しいものを作るのは難しいだろうから、既にあるものをアップグレードして、よりよくできたらいいなあと考えたら、いちばんしっくり来たのが米櫃だったんです。」と話す浦田さん。米櫃なら、箱屋の技術を十分生かせるし、意外と自分が欲しいと思う米櫃がない。だったら自分で作ろう!ということで「RICE STOCKER」を作ることが決まりました。

シンプルで明快、筋の通ったコンセプトですが、浦田さんご自身はデザインの勉強は特にしたことがなく、ものづくりの経験はゼロ。ですが、逆にものづくりのことを知らないからこそ自由に考えられるんです、と浦田さんはとても前向き。新しいアイデアが生まれる秘訣ですね!

ちなみに、新商品開発に取り組むまでは、工房の近くにデザインセンターがあることも知らなかったそうで、商品開発を進める中で、「富山プロダクツ」のことを知り、選定品に選ばれることを一つの目標にしていたそう。

 

■桐箱作りで培われた技術

使い手目線で考えられた「RICE STOCKER」は、シンプルなデザインの中に使いやすさがしっかり組み込まれています。

例えば、蓋の特徴的なカーブの切れ込みは、指を引っ掛けやすく、蓋を開けやすいように工夫されています。

シンプルでシャープなデザインですが、柔らかな印象もあるのは、側面をほんのわずかにカーブさせているから。

このカーブ、なんと手作業でつけているそう。大きなサンダーに箱を当てて、あとは手の感覚だけでカーブを作ります。

そして一番重要な蓋の機密性。しっかり閉まるはもちろんですが、この蓋、どの向きでもぴったり閉まるんです!

蓋の木目に注目。90度ずらして閉めても、ぴったりはまります。

 

当たり前のことのようですが、これを実現するのはとても大変。蓋と本体を合わせて削る作業を蓋をずらしながら繰り返し、どの向きでもぴったり閉まるよう調整して行きます。

 

 

普通なら蓋と本体の正面を決めてしまった方が作りやすいはず。ですが、使う側からすると、いちいちどこが正面かを気にするのはストレスフルです。毎日使うものなら、何も気にせず、気持ちよく使えるのがベスト。この「RICE STOCKER」を使う方は、何も気にせず毎日蓋を開け閉めできるんです。これが実現できるのも、これまでに様々な桐箱を手がけてきた高い技術があるから。本当に良い技術とデザインは、気づかれないところに宿るのだなと思うと、とても感動したポイントでした。

 

■いろんな使い方ができる桐箱
「RICE STOCKER」という名前がついていますが、浦田さんはお米を入れる以外にもいろんな使い方をしているそう。オススメの使い方は、食品の保管。桐は、余計な水分を吸収しカビを抑える役割があるので、食べかけのお菓子を入れておいてもしけらず美味しさが長持ちします。またパンの保管もオススメで、冷凍すると落ちてしまう風味も、桐箱なら長持ちするそうです。

またカメラが趣味という浦田さんならではの使い方は、レンズの保管箱。レンズは保存状態が悪いとカビが生えてしまうため、専用の保管箱が必要なんだそうですが、レンズの保管箱は普通とても高価なもの。浦田さんは桐箱の中にレンズを保管しているそうですが、湿気の多い北陸でも、10年レンズにカビが生えたことはないそうです。

この「RICE STOCKER」に使われている桐は、湿気に吸収力が高い国産の桐を使っていることもあり、大切なものをしまっておくのにぴったりですね。

「桐は優秀な素材なので、いろんな使い方をして欲しい」と浦田さん。「RICE STOCKER」に続き、パスタケースなど新たな商品も発表されています。これからのものづくりも、とても楽しみですね!