「金井工芸」の泥染めプロダクトを訪ねて

4月半ば、d design travel編集部に同行して、鹿児島県奄美大島「金井工芸」の取材をしてきました。奄美大島は鹿児島から約360km離れており、その300km南には沖縄があります。この日は鹿児島からフェリーで移動。約11時間の船旅でした。気候は「亜熱帯海洋性」。ヒカゲヘゴや蘇鉄、パイナップルに似たアダンなど、見慣れない植物が目に飛び込みます。

この日は連日の大雨から一転、晴天でした。金井工芸の庭では今しがた染めたばかりの布が気持ちよさそうにひるがえっていました。

(染められた布を庭で広げる金井さん)

フランスのゴブラン織、ペルシャ絨毯に並び、奄美大島に1300年間伝わる「大島紬」は世界三大織物のうちの一つ。糸の染めから織りまで30工程以上あり一反織るのに半年以上もかかります。その工程の複雑さやしなやかで上質な仕上がりから、着物の中でも最高級品とされてきました。「金井工芸」は泥染めの工程を担っています。

車輪梅と呼ばれるバラ科の木を山から採取しチップ状にカットしたものを煮出して1週間かけて茶褐色の染料を準備。ようやく染めがスタート。

(チップ状にした車輪梅を煮出す。車輪梅は山から伐採してくる)

(燃料は煮出した後の車輪梅を流用。燃えた後の灰は工芸の釉薬やあく巻きのあくに使ったり、お餅やさんが買いに来たり。全て使い切ります)

茶褐色に染まった糸が黒に変わるのは、泥田の中で揉みしだく過程で。泥田には150万年前の古代層が蓄積しているので鉄分が多く、それと科学反応して黒く染まっていきます。材料は全てその土地にあるもの。『d design travel』編集長の神藤も体験を。腰を曲げての長時間の作業。職人さんの体力、根気に圧倒されます。

(泥の質は細かく、手にとると指からこぼれ落ちる)

(100以上の工程を重ねて染め上がった大島紬の黒い系。写真右は若い職人さんが中心になって染め上げたもの。新旧入り混じって同居している様子が面白い)

「金井工芸」の金井志人さんは奄美大島で生まれ育ち、高校卒業後、東京で音響の仕事をしていましたが25歳の時に帰郷。お父様の元で泥染めを始めました。「品質が良くても現代に使いやすく、魅力的でなければ伝わっていかない」と、金井さんは大島紬の系だけでなく、服やスニーカーなどの製品に泥染めの技術を応用しました。

今では民宿の庭で伐採されたガジュマルの木を利用して作った「C.U.E.」の器、郷土料理「山羊汁」で使われた山羊の骨や珊瑚など、奄美の身近なものから「HiHiHi」や「MULTIVERSE」などの鹿児島発のファッションブランドの服や帽子までその仕事は多岐にわたる。身近なものもどんどん金井さんの色に染まり魅力的なプロダクトへと変わっていきます。

(金井工芸の作業場に併設するギャラリースペースでは、金井さんが染めたプロダクトが美しく並ぶ)

(金井さんによって染められた「C.U.E.」の器。奄美に自生するガジュマルや車輪梅で作られている)

(てぬぐいの幾何学模様は大島紬の伝統的な龍郷柄を元にデザインしたもの。藍、福木、茜など自然のもので染め上げる。珊瑚、「C.U.E.」の器と共にd47 MUSEUMで販売中)

大島紬で使う手法を他のもの利用することは大島紬の価値を落とすのではないかと言われたこともあったようですが、金井さんの活動によって泥染めの技術が現代に生きるものとなり、金井さんを頼って若い職人も多く奄美を訪れています。

金井工芸が染めた手ぬぐいや山羊のスカル、珊瑚などd47 MUSEUMで行われている「d design traverl KAGOSHIMA EXHIBITION」のミュージアムショップで販売中。奄美に行けない方はぜひ商品を手にとって奄美の色を感じて欲しいです。