モメンタムファクトリー・ Orii

現在、D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYでは「100のそろり展」を開催しています。「100のそろり」とは、能作が作るシンプルな花器「そろり」に、高岡の工芸を担う100名の職人たちが、その技術を以て装飾を施した作品。2016年に100周年を迎えた株式会社能作が、100年後も高岡の伝統技術が続いていくよう願いを込めて取り組まれたプロジェクトです。

今回は、このプロジェクトに参加した職人さんの1人、モメンタムファクトリー・Orii代表の折井宏司さんにお話を伺ってきました。


白いパンツにおしゃれなジャケットで颯爽と現れた折井さん。胸にはモメンタムファクトリー・Oriiのブローチが二つ。以前折井さんを初めてテレビで拝見したときにも、職人のイメージと180度違うおしゃれな装いで驚きましたが、実際にお会いしても、テレビの時と変わらずおしゃれ!

20180624_orii_1代表の折井宏司さん

 

■折井さんだけが出せる色

モメンタムファクトリー・Oriiのある富山県高岡市は、全国有数の銅器の産地。ここで製造された銅器を「高岡銅器」と呼びます。「高岡銅器」の製作は、原形づくり、研磨、着色、彫金など、それぞれの技術に特化した職人が分業で行っており、その中でもモメンタムファクトリー・Oriiは、着色を幅広く手がけています。

一般的に銅器の着色は、銅の溶液、または日本酒、食酢、米糠などの素材を組み合わせ、金属を腐食させて色をつけていきます。高岡には古くから「鍋長色(なべちょういろ)」や「古銅色(こどうしょく)」といった伝統の色が伝えられてきました。

様々な色がある中で、今回、折井さんが手がけた「そろり」の色は、「斑紋孔雀色(はんもんくじゃくしょく)」という色が施されています。

20180624_orii_3

20180624_orii_4

この色は、伝統的な着色技法を応用して、折井さんが独自に開発したもの。これまで困難だった厚さ1mm以下の銅板への発色技法を確立し、インテリアなど様々な分野に商品を展開されています。

富山店でも扱っている「tone_tray」も、そのひとつ。

20180624_orii_5

薄い銅板に着色を施した円形のトレイ。アクセサリー入れやお茶受け皿、玄関で鍵入れに使用してもいいです。6色とバリエーションが豊富なので、使う場に合わせて選んでも楽しいです。

他にも、「斑紋茶褐色(はんもんちゃかっしょく)」、「斑紋ガス青銅色(はんもんがすせいどうしょく)」など、折井さんが新たに開発された着色は、全12色。着色方法だけでなく、名前もオリジナルで、すべてここでしか着色できません。

 

実際に、着色の様子を見せていただきました。(折井さん、そのままの服装で着色を開始。白いパンツが汚れないかな、と少し心配。)

まず、米糠に薬品を混ぜたものを銅板に塗布します。

20180624_orii_7

一気に熱を加えます。

20180624_orii_8

冷却し、拭き取ります。

20180624_9

20180624_orii_10

着色できました。右が着色前で、左が着色後です。仕上がりはどれも同じものはなく、斑紋の大きさや色合いはそれぞれ違います。

折井さんの作業スピードはとても早く、ここまでの着色は五分ほど。

着色は素手で触ってはいけないような薬物を使用するのでは?と最初は思っていましたが、今回使用したのは米糠がベース。身近な食品が使われていることに驚きました。食べ物でできているから食べられるよ、と折井さん。(お腹は壊すかもしれませんが…)

 

■着色師としての仕事

「100のそろり」の折井さんの作品は、全面を折井さんオリジナルの着色技術で覆ったシンプルなもの。この作品を制作した背景を伺うと、「自分は着色師だから、自分の仕事をした」というシンプルな答え。

「100のそろり」に参加した作り手には、“作家”と“職人”という2つの種類がある、と折井さんは話します。“作家”は「そろり」という土台に自分の個性を表す加工を施すが、自分はあくまで“職人”。自分が手がけた「そろり」は、“作品”ではなく、着色師として土台を生かすことを考えた、とのこと。

高岡は昔から分業が盛んで、たくさんの職人がそれぞれの得意分野でものづくりに関わってきました。折井さんもその役割を果たす意味で、今回の「そろり」に、モメンタムファクトリー・Oriiだからこそ出来るオリジナルの色をのせた、と話して下さいました。

 

■これからの伝統工芸

新しい色の開発、そしてインテリアという新しい分野にも積極的に進出されている折井さん。なぜ、新しい分野にチャレンジされるのか、その思いを伺いました。

「昔は、高級な干支の置物や花瓶などに着色することが多かった。昔はよく売れたけど、今どき、高価な伝統工芸品の置物などは若い方は誰も買わないし、自分も欲しくない。もっと若い人が、何より自分が欲しいと思うものを作りたい。そしてそれを作る職人の在り方もかっこよくしたい」と話す折井さん。

若い世代に「伝統工芸?興味ないなあ」と思わせるのではなく、かっこいい、やってみたい、なんでもいいから興味を持って欲しい。

そんなとき、自分の仕事を、まず身近な息子にも自慢できるようにしようと、もともと興味を持っていたインテリアと伝統工芸を掛け合わせたそう。

伝統的な着色方法は立体に施すことが多い中、あえて平面の薄い銅板に着色する技術を考案したのは、インテリアに応用するため。

そして試行錯誤の上、誕生したモメンタムファクトリー・Oriiのインテリア第一号が、事務所に設置してある大きなテーブル。全ての原点がこのテーブルに詰まっています。

20180624_orii_11

現在、モメンタムファクトリー・Oriiの職人の平均年齢は33歳。折井さんの新しい挑戦に惹かれて、若い世代がモメンタムファクトリー・Oriiに集まってきていました。

20180624_orii_12そろいのTシャツを来て働く姿、かっこいいです。

 

そんな、若い世代を魅了する折井さんの挑戦。次ぎはどんなことに挑戦するのか伺うと、その答えは、なんとファッション!着色の技術を使い、洋服への新しい装飾を手がけることを考えているそう。

「新しいことを続けると普通になっていくように、ありえなかったものをありえるものにしたい。」と折井さん。

インテリアへの進出も、最初は手探りでした。しかし今ではたくさんの人が注目し、私もすっかり折井さんの仕事のファンの1人です。

ファッションへの進出は、私には想像もつきませんが、折井さんならいつか”普通のこと”にできそう!と聞いている私もワクワク。ついついどんなものが欲しいかなと考えてしまいました。(仏像は買えないけど、オシャレにはお金をかけたくなるものです。)

世代を問わず周りの人を巻き込んで、ワクワクしたものづくりをしていく折井さんの魅力に触れた取材でした。