“その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 海の恵み編 〉

私たちD&DEPARTMENTは、長くつづいていることやものの価値を見出し、新しい見方でその価値を伝え、未来につなげる活動を行なっています。今回は、いばらき県央地域観光協議会からご依頼いただき、定食開発や生産者を訪ねるツアーを開催し、「食」をテーマに茨城県央の魅力を発信するとともに、茨城県央らしさについて考えました。

d47食堂の料理人が「茨城県央定食」を開発するために巡った旅を追体験する、1日限りの日帰りスペシャルツアーを経て、私たちが体感した茨城県央らしさを、旅の記録とともにご紹介します。

茨城県の中央部に位置し、県都水戸市を含む9市町村からなる茨城県央地域は、海と山と肥沃な大地のある、豊かな自然に恵まれた食の宝庫です。今回、d47食堂が手がけた 「茨城県央定食」では、名産品のわらつと納豆、那珂湊の漁港でとれた地魚の干物、沿岸部と平野部で味わいの異なるほしいも、養分の高い土壌を活かして作られる根菜類など、それぞれの気候や風土を感じる食材をぎゅっとひとつにまとめ、定食を作りました。

私たちが定食開発に向けて茨城県央を訪ねたのは2019年10月。取材の一週間前に直撃した台風19号の爪痕が残る中、その土地の風土を感じる食材、郷土料理、食文化を調査しました。「昔から川の氾濫はよく起きていて、山の養分をたっぷり含んだ川の水が地力ある土壌を育てた」と語る生産者の言葉に、自然の厳しさを受け入れて暮らす茨城県央の人々のたくましさを目の当たりにしました。今回のツアーでは、この定食開発の旅を通して、d47食堂の料理人が出会った生産者を訪ねながら、茨城県央の豊かさにある背景を学び、その土地の食文化を旬とともに味わいました。

▽ 現地取材レポート
茨城県央定食をつくる旅(1) 城里町・笠間市・茨城町編
茨城県央定食をつくる旅(2) ひたちなか市・那珂市編
茨城県央定食をつくる旅(3) ひたちなか市・水戸市・東海村編

恵みを活かす、漁業の町の知恵
集合場所の渋谷駅周辺を出発し、約2時間半。最初の目的地、ひたちなか市の平磯海岸沿いにある干物屋「大喜や」へ。茨城県の南北約190kmに伸びる海岸線のちょうど真ん中あたりに位置する店の眼前には、約8000万年前の白亜紀に形成された地層からなる岩礁が広がり、昔のままの風景を伝えています。この日は快晴。素晴らしい景色が広がっていました。

「大喜や」の眼前に広がる海は、県内を流れる一級河川の久慈川、那珂川から流れ込む真水と、北からの寒流で流れ込む海水とが交わる栄養豊富な海域になります。岩礁の続く海岸線では、ひじき、わかめなどの海藻類のほか、近頃では環境の変化で伊勢海老の収穫量も増えているとのこと。地元では底引き漁が主流で、ヒラメ、イワシ、メヒカリをよく食べる風習があり、冬の時期になると身の締まったアンコウが他の魚と一緒に水揚げされるようになります。

「昔からこの土地では、海からの冷たい風を当てることによって魚の美味しさを引き出し食していた」と代表の大内さん。漁業の町の歴史や干物文化が根付いた背景を伺いつつ、旬を迎えたタコやマトウダイなどの干物料理をいただきました。

干場には海産物と並んで、ほしいもがずらり! ひたちなか市は、ミネラルを含んだ潮風と、冬季の長い晴天に恵まれることから、日本一のほしいも産地でもあります。干物に使う道具をそのまま活用できるため、漁業の歴史が長いこの地域では、漁がない時によくほしいもを作っているそうです。もちろん、さつまいもも自家製です。

地魚だけでなく、比較的漁獲量が安定している海外や県外の魚を加工することも多いという大内さんのこだわりは、美味しさを引き出す「天日干し」。獲れるときにまとまって獲れる自然の恵みを、あますことなく美味しくいただくために生まれた海の町の知恵は、遠くの土地の漁業をも支える食文化として、この土地で引き継がれています。

朝から賑わいを見せる直売所では、地元の方が「これ美味しいよ!」とおすすめの一品を教えてくれます。お天気が良ければ天日干しの様子も見学できるので、午前中の立ち寄りをおすすめします。心置きなくお買い物したい方は、保冷バックをお忘れなく。
>> 大喜や|茨城県ひたちなか市平磯町3551-7

「大喜や」から海岸線を車で約10分ほど行くと、関東を代表する観光市場として県内外から毎年100万人が訪れるという「那珂湊おさかな市場」があります。

活気ある市場の雰囲気を味わいつつ昼食場所へ向かう道中、茨城県央定食の仕入れでお世話になった「カクダイ水産」で、定食のメインに据えたカナガシラの干物を見せていただきました。

カナガシラの丸干しは、d47食堂の料理人が市場で実食し、その美味しさに感動しメニューに採用されました。迫力満点の見た目とは裏腹に、ふっくらとしてとても美味しく、地元でもよく食べられる地魚です。

目と鼻の先にある魚市場では、月曜から土曜まで威勢のいい競りの様子を見学することができ、私たちが日頃食卓で目にする海産物が、どのように取引され、流通しているのか、実際に旬を味わいながら学ぶことができます。
>> 那珂湊おさかな市場|茨城県ひたちなか市湊本町19-8 ※競りは水揚げの状況などにより中止の場合もあります。

昼食は、鮮魚のプロ「カクダイ水産」から推薦いただいた、美味しい地魚が味わえる店「地魚寿し 鮨の浜よし」へ。仲買人の資格を持つ代表の小川さんは、競りに参加し直接地魚を仕入れることができるため、どの魚もとびきり新鮮。この日は海鮮丼をいただき、ヤリイカ、スズキ、カナガシラ、タチウオ、サルエビなど、旬の地魚を堪能しました。

漁獲量の影響などもあり、近隣に9軒あった寿司屋は5年前に3軒になり、今では唯一の寿司屋になってしまったそう。普段私たちが食している海産物について、天然物と養殖の違いなど、料理人の視点から教えていただきました。地魚を使った焼き魚や煮魚料理の他、城里町から届く野菜も美味しく、寿司屋といえど気軽に利用できます。その土地の旬の天然物を提供することにこだわり、漁業や食の現状を伝えながら、本当に美味しいものは何かを気づかせてくれるお店です。
>> 地魚寿し 鮨の浜よし|茨城県ひたちなか市海門町1-6-16

旅の始まりは、漁業の町の海の恵みを通して、茨城県央の魅力を紐解きました。気候や周辺環境の影響で、変わりつつある地場産業に寄り添いながら、美味しさにこだわり、その土地の食文化を支え、伝える人々。大内さん、小川さんのお話から、豊かさと大切にしなければならない原点を学びました。〈 土の恵み編 〉へつづく。