茨城県央定食を作る旅 ⑶ ひたちなか市・水戸市・東海村編

「田畑も原野も土肥え、海山の利ありて…海山川野の豊かな地である。」(常陸国風土記)

奈良時代に編纂された『常陸国風土記』で「常世国(とこよのくに)と呼ばれていた、茨城。海と山と川に囲まれて平地が多く、田畑の耕作もしやすかったため、どの地域で暮らしていても、食べ物に困ることは少なかったといいます。

今回d47食堂では、県都の水戸市を中心とする9市町村から成る「茨城県央地域」の豊かさを感じられるような定食を作るため、秋のはじめ頃に現地を訪れました。

 

ひたちなか市~海と太陽の恵み~

ひたちなか市の那珂湊にて水揚げの様子と競りの見学をさせていただくため、曇り空のもと港へ向かいました。台風の影響もあってか普段より少ない水揚げ量でしたが、大きなバケツに手際よく仕分けられていく数十種類の魚たち。

茨城の地魚はなんだか少し怖くて、ほんのちょっとだけ可愛い顔をしていました。

仕分けされた魚の重さをはかり、どんどんバケツを並べていきます。9時ごろになるとアルミ板を貼った羽子板型の台の周りに人が集まってきて競りが始まりました。

アルミ板の上に魚が数匹放り出され漁協の人が数字を読み上げると、周りにいた人が口々に二百!三百!と声を張り上げます。

買い手が決まった時の漁協のお兄さんの通る声に、見ている私たちもワクワクしました。


 

ここで競り落とされた魚のいくつかは入り江を挟んで向かい側の市場に並びます。

休日には買い物客で賑わう那珂湊おさかな市場では、先ほど見た魚たちに加えて近隣の港で獲れた魚も販売されています。

店の軒先では、様々な地魚を干物として販売していましたが、なかには「ふぐ」や「あんこう」もありました。

茨城県央地域では、サツマイモに続いて、海の生き物たちも干されています。畑で豊富に育つ作物の干物と海でたくさん獲れる魚の干物。それは、厳しい冬を超えるためでも、飢えをしのぐためでもなく、豊かさゆえの加工といえます。食の豊かな土地だと実感しました。

 

水戸市~日本を代表する発酵食、納豆~

水戸といえば、納豆ですね。茨城県は、大豆生産量が北海道に次いで全国2位。数ある納豆工場のなかでも、茨城県産大豆にこだわる「だるま食品」の工場を見学させてもらいました。

工場に入ると、煮大豆の香りがふわりと漂ってきます。リズムよくパック詰めされていく納豆の横で、わら納豆や経木納豆が積まれていきます。

奥のほうでは、大釜で煮た大豆に納豆菌をかけ、全体に馴染ませる作業が行われていました。納豆菌の馴染ませ方があっさりとしていて、これだけであの強烈な納豆という食べ物が出来上がるのかと拍子抜けしてしまいました。

「だるま食品」では、パック・経木・わら納豆など、保存容器の異なる様々な納豆を販売しており、それぞれ水分量や香りの違いがありました。

「わら納豆」はわらが大豆の水分を吸収するため、しっかりとした歯ごたえにわらの香りが楽しめます。「経木包み」もしっかりめの歯ごたえに松の香り。「パック容器」は大豆そのものの味と水分量の多い柔らかい豆が特徴です。

「だるま食品」では、ミニサイズのわら納豆も生産しており、是非とも定食に取り入れたいと思いました。

 

東海村~恵まれた土壌で育てる野菜~

「作物を育てやすい気候・土質であり、昔から豊かな地域。」

そう教えてくれたのは東海村で農業を行う「須崎農園」の須崎拓志さん。

「須崎農園」では、糠や籾殻を肥料とした有機栽培を行っていて、家庭用に調理しやすい野菜を育て、数種類を組み合わせてセット販売しています。

数十種類の野菜をその作物に合わせた土質を持つ畑で選び分けて育てているそうです。

案内して頂いた畑では葉野菜が数種類ズラッと並び、青々としていました。

畑に入るといくつかの野菜は虫に喰われていて、その傍からカエルが飛び出てきました。植物と生き物がともに育っている立派な畑だと感じました。

畑に入ると、その場でいくつかの野菜を食べさせていただきました。葉が柔らかく甘みのあるトンガリキャベツに、葉の先までフレッシュな香りのするセロリ。鮮やかな緑の小松菜はエグミがなく、カイランと呼ばれる品種の茎ブロッコリーは花まで美味しく食べることができました。

「作物にあった土質が選べるからこそ、その作物が一番輝ける姿で育てることができる。この土地は食物に恵まれた土地。」と語る須崎さん。

この土地で作物を育てることに自信を持つ、すてきな農家さんとの出会いでした。

 

私は、この2日間で茨城県央を巡り、この地の豊かさを実感しました。

江戸時代から、江戸への食の流通の要だったといわれる茨城は、今も消費量の多い東京の食を支えています。納豆、ほしいも、根菜やきのこ入りけんちん汁、土地で獲れる魚。今回は足を運べませんでしたが、大洗町の「吉田屋」さんから、茨城県産の梅を使って無添加でつくる梅干しも、使わせてもらいました。

シンプルな日本の普通の食事が、茨城に全て揃っていました。

食べ疲れず、食べ飽きない。私たちの当たり前にある一食。

私たち日本人の心の根本にある、食の原点を思い出させてくれるような定食がこの度出来上がりました。

 

「茨城県央定食」

※右下から時計回りに。

○ けんちん汁
県央地域の農家さんから届いた根菜と舞茸のけんちん汁。
○ 「吉田屋」の梅干し
茨城県産の梅「石川一号」を塩だけで漬けた無添加梅干し。
○ ほしいも3種食べ比べ
「紅はるか」の丸干しと平干し、「玉豊」の平干し。
○ カナガシラの丸干し(水揚げ状況に応じた地魚が届きます)
那珂湊で水揚げされた地魚。丸干しでふっくらと旨味が凝縮。
○ つと豆腐
豆腐を藁に詰めてから甘辛く煮る、茨城町に伝わる郷土食。
○ レッドポアローの甘酢漬
城里町の伝統野菜、赤ネギを甘酢漬けに。
○ 「だるま食品」のわら納豆
茨城産大豆を藁で包んで発酵させた、濃厚な味わいの納豆。

〈提供期間〉
会期 2019年11月13日(水) - 2019年12月10日(火)
場所 d47食堂(渋谷ヒカリエ8F)
価格 1,750円(税込)

 

茨城県央定食を作る旅

現地取材レポート
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑴ 城里町・笠間市・茨城町編
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑵ ひたちなか市・那珂市編
>> 茨城県央定食を作る旅 ⑶ ひたちなか市・水戸市・東海村編

 

茨城県央を味わう食の旅」2020年1月25日(土)日帰り

茨城県の中央部に位置し、県都水戸市を含む9市町村からなる茨城県央地域は、海と山と肥沃な大地のある、豊かな自然に恵まれた食の宝庫。旬の地魚やほしいも、わらつと納豆など、それぞれの土地で気候や土壌を活かした、特色豊かな食文化を味わうことができます。今回のスペシャルツアーでは漁場から納豆、ほしいも産地まで、その土地らしさを感じる食と風土、文化を楽しみながら、d47食堂の料理人が「茨城県央定食」を開発するために巡った旅を追体験。茨城県央地域に息づく食文化を学び、味わい、体験する、茨城県央の魅力を濃縮したフードツーリズムに、一緒に出かけてみませんか?

開催レポート
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 海の恵み編 〉
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 土の恵み編 〉
>> “その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 つくり手編 〉

主催:いばらき県央地域観光協議会
監修・ツアー催行:D&DEPARTMENT