越後妻有にて棚田米を収穫

新潟県中越地方、冬になれば豪雪地帯となる十日町市にわたしたちの田んぼがあります。5月に田植えをした稲は立派に成長し、9月末に初めての稲刈りへ行ってきました。都内から約3時間、途中見かける収穫待ちの稲を眺めては期待を膨らませて、車を走らせます。

まずはD&DEPARTMENTが監修した「棚田のお米のまわり展」が開催されている、まつだい「農舞台」へ。まつだい棚田バンクが管理している田んぼを手入れしている、地元農家の竹中想さん、石口博雄さん、そしてFC越後妻有の皆さんと合流しました。

(写真:Osamu Nakamura)

まつだい棚田バンクとのつながり

まつだい棚田バンクとは、新潟県越後妻有地域(十日町市・津南町)を舞台として3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」のプロジェクトのひとつで、担い手が減少する棚田のオーナーとして「里親」を募ることで、保全活動を応援してもらう取り組みです。D&DEPARTMENTも、昨年よりこの制度を通して里親になりました。

長靴をお借りしてから、田んぼがある「峠」という集落へ向かいます。道中は車が通るのもやっとというほど細くうねった道。棚田に農機を入れることがいかに難しいか、身をもって感じました。

稲刈りの基礎をまなぶ

到着すると、田んぼには黄金色に輝く稲が一面に広がっています。「早く刈りたい!!」とはやる気持ちをおさえつつ、稲刈りの基本をひとつずつ教わります。まずは、収穫した稲を束ねるために必要な藁の結び方から。ビニール紐を使えば簡単ですが、かつてはどの農家さんも、藁を結んで縛っていたそうです。一見簡単そうに見えますが、これが難しい。石口さんからマンツーマンで、私も教えていただきました。

藁の束を腰に巻き、いざ稲刈りへ。田んぼの中にしゃがむと、稲の草っぽく香ばしい匂いや土っぽい匂いに包まれました。教えていただいたコツをおさえて、全員黙々と作業に取り掛かります。

ただ刈っているように見えますが、稲を掴むときは親指が上になるようにするのが、速く刈るための秘訣だそう。つい親指を下にして掴んでしまいますが、教わったやり方のほうが次の作業に移りやすく、効率がよいことに気づきます。経験が身体に染みついているからこその知恵を、たくさん教えていただきました。

かつての田人さんのように

夢中で作業をしていると、石口さんから「休憩しませんかー」という声がかかりました。長袖でも涼しい気温でしたが、体は汗でびっしょり。いただいた麦茶を一気に飲み干してしまうほどでした。

みんなで一息ついていると、 石口さんが「田人(とうど)さん」の話をしてくれました。「田人さん」とは、親戚のほか近所の小規模な農家さんなど、農作業が最盛期を迎えるときに手伝いに来てくれていた人々のことです。

休憩のときにぼたもちを振る舞ってもらい、それが楽しみで手伝いに行っていたという農家さんの声も聞きました。その仕組みは、まつだい棚田バンクの里親制度にも通じるところがあると思います。

2日目は朝から作業に取り掛かります。1日目でコツを掴めたおかげか、全員手馴れたもの。田んぼの半分以上残っていた稲を3時間ほどで刈り取りました。サポートしてくださったみなさんも、ここまで早く終わると思っていなかったそうで、お褒めの言葉をいただきました。

今回、稲刈りをしたのは1反分。収量でいうと約150kgです。お茶碗1杯のお米が約75g、稲穂でいうと6束ほど必要になります。1杯のためにこれほどの面積と作業時間がかかるかと思うと、取りこぼしてしまった稲1本がとてももったいない。全員で取りこぼしがないか最後まで確認しました。

この6束でお茶碗一杯分

生き物の暮らしを支える、棚田の役割

日本各地に棚田の保全活動をする市町村は多くありますが、まつだい棚田バンクは、全国の棚田保存会で最大規模となる里親数・耕作面積を誇ります。現在も、数は増加していますが、高齢化や後継者不足の問題で、棚田を手放す方も多くいます。松代の耕作放棄地のうち、現時点で保全の手が行き届いているのは、約2割程度です。

なぜ棚田を保全しなければならないのか、それには私たちの生活に関わる大きな理由があります。まずひとつに保水・調整機能です。雨が降った際、棚田が雨水を一時的に溜め込むことで、直接河川に水が流れ込まず、洪水も起きにくくなります。そしてもうひとつの機能として、土壌浸食の防止につながっていること。景色としても素晴らしい棚田ですが、自然のダムとなり、生き物や人々の暮らしを支えてくれる存在であることを、この機会に学びました。?

たった2日間だけでも筋肉痛になるほど体を動かしましたが、農家さんにとってはこれが日常。天候に左右される日があれば、イノシシなど野生の動物から稲を守らなければならなかったりと、日々自然と共存しながら棚田を守っています。誇りを持って稲を育て、美味しいお米を作ってくださっている姿と向き合えたことで、ご飯を食べられることが当たり前ではないと気づきました。

出資者と管理者という垣根を超えて、かつての田人さんのように、気兼ねなく仲間として支え合える関係になりたいと思いました。そうしたひとつひとつの積み重ねが、棚田やこの土地を守り続けていくのかもしれません。この先もまつだい棚田バンクの方々と協力していきたいと思います。

「棚田のお米のまわり展」開催中

この度、まつだい「農舞台」に期間限定で「d7まつだい棚田バンクミュージアム」を作りました。まつだい棚田バンクの活動にゆかりのある7つの集落を取材して見えてきた個性を7つの展示台を使って紹介する「棚田のお米のまわり展」を開催しています。

それぞれの集落の風土や歴史、棚田を介しながら自然と人間が共生している豊かさや、四季を楽しみ暮らす創意工夫の魅力を少しでも伝えられたらと思います。同施設では、ほかにも9月に棚田で収穫した新米を楽しめるランチや、7つの集落のお米をその場で精米して購入できるコーナーも。この機会にぜひ足を運び、新たな視点で地域を見渡してみてください。

<概要>
会期:~2019/12/22(日)※水曜休 開館時間:10:00~17:00
場所:d7まつだい棚田バンクミュージアム(新潟県十日町市松代3743-1 まつだい「農舞台」)
料金:一般500円、子ども300円 ※初回入館時福引き開催

>> 詳細

関連イベント

(1)d47食堂にて、越後妻有定食を提供(11/13 (水) ~)

渋谷ヒカリエにあるd47食堂でも、期間限定で越後妻有定食が帰ってきます。越後妻有で学んだ豪雪地帯の暮らしの知恵が詰まった定食です。棚田で収穫したお米と一緒に、豊かな自然で育った野菜を使ったお料理を楽しんでください。11月13日(水)より提供開始します。

(2)渋谷ヒカリエにて、おこめ博覧会を開催(11/16(土)、11/17(日))

まつだい棚田バンクのみなさんが、渋谷に集合!今年9月に棚田で収穫された新米をその場で精米して買えるコーナーや、お米にまつわるトークなどのイベントも開催予定。詳細はウェブサイトでお知らせいたします。こちらもお楽しみに。