スタッフ勉強会 in「すすむ屋茶店」レポート

鹿児島県は静岡県に次いで生産量、栽培面積ともに全国第2位のお茶の生産地です。鹿児島県には数多くの茶農家があり、北は伊佐市、南は徳之島まで茶畑が広く分布しています。またお茶を取扱う店舗は600店舗以上にものぼります。d design travel鹿児島号でもご紹介している「すすむ屋茶店」は鹿児島中央駅から徒歩8分の住宅街にある製茶店です。今回は店主の新原光太郎さんに、鹿児島のお茶にまつわる歴史、生産流通のことから、美味しい飲み方に至るまで、教えていただきました。

店内には約20種類ほどの茶葉がズラリ。コーヒーの"シングルオリジン"のように産地や品種、焙煎などによって様々な表情をみせるお茶の魅力を伝えるべく、単一品種での茶葉の販売にも力を入れています。老舗問屋の四代目である光太郎さんは、鹿児島に戻り茶業に従事するようになって鹿児島茶の素晴らしさを改めて知り「この魅力を伝えていきたい!」という思いから2012年にすすむ屋茶店を開業しました。“最高の日本茶体験を"をコンセプトに掲げ、茶葉の個性を育てる生産人、個性を見極める鑑定人、個性を最大限に引き出す焙煎人を吟味し、すすむ屋茶店独自のお茶を作っています。
「お茶」はツバキ科の常緑樹で、緑茶も紅茶も烏龍茶も同じお茶の樹の新芽を加工したもの。新芽の良いものはとても柔らかく人の肌に例えると、ぷるんとしているそうです。お茶の樹の枝は先端に芯があり、そこから下へと互い違いに葉がついています。芯とはまだ葉が開いていない芽の状態の葉で、芯とその下の2枚の葉の部分を一芯二葉(いっしんによう)と言い、これは最高の茶葉の部分です。一芯二葉や一芯四葉など刈り取る工程の調整でも、農家ごとの違いが出てきます。余分な茎などが入っていると、それだけで味が変わってしまうのだそう。朝一番に摘んで蒸気でまんべんなく蒸し、揉んで、乾燥させて、と1日かけてできあがるのは夜。茶葉の色を緑色に保ち、青臭さを取り除くための大事な工程です。この段階(荒茶)で、味・香り・水色などのほとんどが決まります。
鹿児島県では1日に200トンもの荒茶が茶市場に持ち込まれます。入札権を持つ、27社の鑑定人たちが五感をフルに使って荒茶を目利きし競り落としていきます。茶葉を栽培する茶園や、その茶葉を加工する荒茶製造工場、出荷から保管まで行う茶市場や、それらを選んで製茶、販売する製茶店など私たちが美味しいお茶を飲めるまでに沢山の人の手がかかっているんですね。
元々他県のお茶とのブレンド用として作られることも多かった鹿児島茶。実は鹿児島は生産量に対して消費量が高くありません。なぜなのでしょうか。生産的にもブレンド用としてどんどん生産して県外へ出荷した方がいい、ブランド化して有名にならなくてもいい、という考えがあったそうです。鹿児島は昔から「良いものは献上する文化」だったことも関係しているのでしょうか。現在ではペットボトルのお茶が主流で、残念ながらいいものを作っても評価されにくい時代になってきているそうです。そんな中で新原さんのような存在は貴重です。

また、茶葉を発酵させずフレッシュな味と香りを楽しむ緑茶は、日本特有のものです。野菜と同じように素材本来の味や甘さを楽しむ文化だからこそ、いいお茶を楽しむ習慣も大切にしていきたいものです。

新原さんが良いお茶を飲む習慣を日常のものにする為に最初に必要だと思ったのが"道具"でした。思い描く「シンプルで使いやすいもの」に出会えず、それなら作ってしまおう!ということに。すすむ屋茶店を代表する“すすむ急須”は常滑焼北龍窯三代目、梅原タツオさんが製作。また富山のFUTAGAMI、佐賀の今村製陶とも協業し納得いく茶器を開発しています。
鹿児島には今でも「茶いっぺどうぞ(お茶を一杯どうぞ)」と気軽にお茶を誘う習慣があります。すすむ屋茶店の中央のカウンターでは香りを確かめたり、試飲をしたり、お茶の淹れ方や楽しみ方を伺えます。


様々なお話を聞いた後に新原さんに淹れていただいたお茶は味わい深く、飲み終わるとスーっと消える爽やかな後味がとても印象的でした。

鹿児島店では4月4日(木)から5月1日(水)までの28日間、NIPPON VISION MARKET 「鹿児島の食ーお茶とハーブティー」を開催いたします。鹿児島県全域より8軒の茶農家や製茶店の自慢のお茶やハーブティーが揃います。新原さんに教えていただいた正しい淹れ方で毎週土曜日は試飲会も行います。生産者やそれらにまつわるものづくりを通して見えてくる鹿児島の特色について考えていきます。