寺田本家 24代目 寺田優

d47 MUSEUMの第14回展覧会「NIPPONの47 2016 食の活動プロジェクト」展(2015.12.17-2016.2.21)の千葉県の出展者である酒蔵「寺田本家」を訪ねました。

お酒の仕込時期になると、蔵人による「蔵見学ツアー」を不定期で開催しています。私たちが参加した際には、24代目の寺田優(まさる)さんが、約2時間かけて一緒に蔵を回ってくれました。一番忙しい時期に、当主自らが説明してくれるその姿勢からは「伝えたい」という思いを強く感じます。

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蔵に到着して早速、予約しておいた「発酵ごはん弁当」をいただきます。2016年の春に蔵の近くにオープン予定のカフェ「発酵カフェうふふ」謹製!寺田さんの奥さんである、聡美さんの動物性不使用「発酵レシピ」で、酒粕や味噌とともに、地元野菜や豆腐などを堪能。

少し苦手だなぁと思っていた粕汁も、程よい酒粕の分量と味噌との組み合わせで「美味しい!」と驚きました。なかなか自分では使うのが難しいと思っていた麹や酒粕も「こんな風に使えば美味しくできるんだ!」と見学前から新しい発見が。

お弁当を食べ終えると、その場で蔵の歴史や酒づくりのお話しが始まります。寺田本家はなぜか代々女系の蔵元。その為、当主になる方は、元々酒づくりとは無縁というお婿さんも多いそう。歴史を守りながらも、常に新しい「人」や「考え」が入ってくることで、今の寺田本家が出来上がってきたのかもしれません。優さんも元々はカメラマン。

そしてついに、蔵の中へ。
まずはお米の「浸漬(しんせき)」の様子を見学。精米と洗米後に、そのお米を水に漬ける作業があります。浸漬の時間は、お酒の種類によって秒単位で決められています。

タイマーを片手に、「5秒まえ~、4、3、2、1、ゼロっ」というかけ声とともに、一斉に水から揚げて作業する様子は、思わず「おおぉ~」と声が出るかっこよさ。

この日の仕込は600Kg以上。みぞれが降る寒い日で、見ているだけで震えてきそうな作業ですが、「汗かいてきますよ」とのこと。寺田本家では、夏に太陽のエネルギーをいっぱい取り込んだ無農薬米をつかっています。

お米を蒸す2m程ある甑(こしき)の使い方の説明も。蒸し終わったお米はスコップで掘り出し、その熱々なお米を手で広げて冷ましていきます。

かつて、お米を蒸すためのお湯を薪で炊いていた頃に使われていた炉。

今は使われていませんが、当時は、夜中に火をつけるところから始める大変な作業。仕込の時期は本当に休みなしだったそうです。敷地内で目立っていた煙突は、ここに繋がっています。

続いて麹をつくる「麹室(こうじむろ)」へ。蒸した米に「麹菌」をつける部屋。先程まで寒くて凍えていた体が、入って間もなくポカポカしてくる暖かさ。

室内の気温は35℃くらいで、優さんも半袖で説明です。「麹室」は入れない蔵も多いですが、「うちはどんな菌でも歓迎です。納豆菌も大丈夫。菌の環境がバランスが取れていれば、他の菌が入ってきても、必要な菌だけ残るんです。」というお話しは驚き。生産性を高める方法よりも、自然の力を引き出すことを大切にしているからこそ、調和のとれた菌の環境があると納得しました。

これは「雪化粧」という「香取80」になるお米。今の温度は34℃くらいですが、38℃くらいになったところで混ぜ、そこから何度も手を加えて麹を育てていきます。この温度管理によって味も変わってくるそう。部屋自体は暖かいですが、それ以外に特に温めているわけではいのに、菌のパワーで1時間に1℃も上がっていきます。

これは置いて2日目のお米。白い部分が麹菌で、食べてみると少し硬めでした。これが明日になると、一気に甘みがでてくるそうです。

続いて、酒母(しゅぼ)づくりの部屋へ。ここでは、麹に蒸米と水を加えて酵母をつくります。寺田本家は2000年から全てが「生もと造り」。一般的な速造りの「速醸もと」には人工的な「乳酸」が添加されますが、寺田本家の「生もと」は蔵内に生息する菌や、蔵付き酵母によって、1ヶ月以上の時間をかけて出来上がります。全てが自然のスピードでつくられています。

19日目のものを実際に舐めさせてもらうと、酸っぱい!しっかりとお酒の味がして、香りもとてもよく、力強い味。

「もと摺(す)り」の作業をデモンストレーションしてくれました。「酒造り唄」を歌いながら作業します。かつて丹波杜氏が伝えたとされる歌で、様々な種類があるそうです。寺田本家で歌われているものも15番まであり、全部で20分以上あるそう。何番まで歌うかによって、作業の時間が分かるタイマー代わり。作業によって歌われる「酒造り唄」も異なり、見えない場所でも唄が始まると、「お、作業がはじまったな!」と分かる、コミュニケーションとしての役割も。昔からの知恵はすごいです。


最後は、梯子を上って「もろみ造り」を行うタンクを見学。このタンク1つで約2000本分。タンクの上までパンパンに入れないのは、発酵すると泡が吹きこぼれてしまうから。こんなに隙間をあけていないといけないくらい、発酵のパワーはすごい。


木桶仕込用の桶も発見!横にしても人が入れてしまいそうな大きさ。今では、仕込用の桶職人は1軒が残るのみ。今回の展覧会の香川県の出展者である「ヤマロク醤油」では、その桶の技術を残そうと、桶職人に弟子入りをし、自ら桶づくりの技術を身につける「桶職人復活プロジェクト」を立ち上げています。優さんも、この日の前日まで、小豆島で桶を組み立てていたそう。そして、そこでつくられた桶が、なんと渋谷ヒカリエの「d47食堂」へ2月4日-3月6日まで展示中です。その様子はこちらから。


優さんは、蔵の菌や酵母のことを「場の力」と呼んでいました。これまでの年月によってつくられてきた「場の力」があるからこそ、生まれる味。菌も人も、それぞれが必要なところで力を発揮する「共同作業」で寺田本家のお酒は生まれています。

そんな寺田本家の「五人娘 純米」「五人娘 純米吟醸」「木桶仕込」「醍醐のしずく」を会期中はd47 MUSEUMにて取扱中です。


蔵見学からの帰り道、毎週金曜日の夕方に開催されている「夕市」へ寄り道しました。神崎の農家さんと出会ったことがきっかけで移住して来たという「おむすび茶屋 さつき」の、その場で握ってくれる温かいおむすびを片手に急ぎ足で神崎駅へ。

この「夕市」も地元の野菜や手づくりの総菜が買える面白い場所ですが、もっと神崎を堪能するなら、今展覧会でも寺田本家の「食の活動」として紹介している「お蔵フェスタ」が一番のおすすめ!今年2016年の開催は3月13日!発酵の街として栄えてきた神崎(こうざき)の歴史や発酵の面白さをつたえようと始まり、毎年4万人もの人が集まるお祭りです。私たちもまた神崎へ出掛けようと思っています。*2015年に開催された内容はこちらからご覧ください


NIPPONの47 2016 食の活動プロジェクト
会場:d47 MUSEUM(渋谷ヒカリエ8階)
会期:2015年12月17日(木)-2016年2月2日(日)
時間:11:00-20:00(19:30最終入場)
入場無料
主催:D&DEPARTMENT PROJECT