長く続く「もの」や「こと」をわかりやすく学ぶ勉強会「d SCHOOL」。これまでにオーケストラや能、サンタクロースなど、知っているようでその本質は意外に知らない、様々なテーマで開催をしてきました。
そして今回のテーマは「タップダンス」です。世界を舞台に活躍するタップダンサー熊谷和徳さんを富山店にお招きし、タップダンスの歴史や背景に触れながら、”わかりやすく”タップダンスを学ぶd schoolを11月9日に開催しました。
d school わかりやすいタップダンス
熊谷和徳さんはNYと日本を拠点に活躍するタップダンサーで、15歳からタップダンスを始め、19歳で渡米。06年には米ダンスマガジン誌より『世界で観るべきダンサー25人』、'16年にはNYにてBessie Awardを受賞。また'19年版 ニューズウィーク誌が発表した『世界が尊敬する日本人100人』にも選出されるなど、世界各地に活躍の場を広げています。
タップダンスは誰もが一度はテレビや映画で見たことがあるかもしれませんが、実際に生で見る機会というのは、ほとんどないのではないでしょうか。
私たち富山店のメンバーもタップダンスを見たことが無い人ばかりで、実際にどのようなイベントになるのか、来ていただいた方に本当に満足していただけるのか、正直不安な気持ちの中、開催の準備を進めていました。
しかしそんな不安はd schoolが始まり、オープニングで挨拶もなく、いきなりステージに上がった熊谷さんのパフォーマンスによって払拭されてしまいました。
軽快なステップと、見とれるような脚さばき、そして何より高く響く靴音が心を揺さぶり、ほんの数分のパフォーマンスでしたが、終わった瞬間の会場のお客様の喝采を聞いたとき、この場にいて、この距離で見ることができて、本当によかったと感じました。
その後ナガオカと熊谷さんの2人によるトークが始まるのですが、情熱的なタップダンスと打って変わり、落ち着いた話し方が印象的。
しかしタップダンスの話になると、止まらなくなる場面もあり、その話しぶりから、本当にタップダンスが好きな方なんだなあと感じました。
トークの内容自体はナガオカからの質問形式で、熊谷さんの日常の過ごし方や、タップダンスを始めたきっかけなどに触れながら、熊谷さんとタップダンスについて深く掘り下げていきます。
そもそもタップダンスとは、黒人奴隷の歴史から始まり、対話や歌、楽器などの音楽表現を許されなかった奴隷が、足を鳴らすことで自らを表現したことが始まりとされています。
30年代当時、黒人がステージに立つときは、顔をさらに黒塗りにしなければならず、そういった差別の中で、「タップの神様」ビルボージャングルロビンソンはタップダンスで人気を博し、初めてステージ上で”黒塗り”という差別を受けずにダンスを踊ります。
その後サミーデイビスJr.やグレゴリーハインズといったスターによって、タップダンスはエンターテイメントとして、より進化を遂げていくのですが、そういった悲しい歴史の上にあるということは、このトークを聞かなければ知りえないことでした。
熊谷さんは渡米後、NYでグレゴリーハインズなどのタップダンスのスターと実際に出会い、一緒に練習をするなど交流を重ねる中で、今のタップダンスを作り上げた歴史を受け継ぎながら、新しい表現を作り上げていく責任感が生まれたと話していました。
もちろん歴史だけでなく、これまでのタップダンサーが作り出してきたステップやリズムといった”財産”の上に成り立っているということも重要。
そういったこれまでタップダンスが積み上げてきたものに対するリスペクトが、熊谷さんのタップダンスに深みを与えているのではないかと、トークを聞いて感じました。
後半は、実演形式でタップダンスのステップや技術を紹介。
年代順にこれまで積み重ねられてきたステップなどを実演しながら、その技術が生まれた経緯を説明していくのですが、これが非常にわかりやすかったです。
漠然と見ただけではわからないステップの技術一つ一つに意味があり、それぞれの世代が前の世代が生み出した技術を更に進化させ、タップの表現の幅が広がっていった事が熊谷さんの話と実演によって紐解かれていきます。
そして最後は、現在のタップダンス表現について。熊谷さんが作り上げていくタップダンスは、過去の技術の積み重ねを踏まえ、ステップやサウンドをミックスすることで新しい芸術表現を作り上げているとのこと。
そのダンスはこれまで生まれてきた様々な技術を使いこなしながら、難しいことはわからない私でも、感情そのものを揺さぶられる感覚があり、熊谷さんにしか表現できないであろう世界観がありました。
d schoolの途中で挙がった参加者からの質問に「タップダンスを見た事が無い人にタップダンスの楽しさをわかりやすく伝える言葉はありませんか?」という質問がありました。
これに対して熊谷さんは悩みながら、「楽しいだけがタップダンスだけじゃなくて、色々な感情があるのがタップダンス。」と答え、わかりやすい言葉で伝えるのは難しいと話されていました。
確かにこのBLOGを書いていても、言葉でタップダンスの素晴らしさを伝えるのは難しいと感じます。そして暗い歴史を乗り越えて積み上げられてきた、単なるエンターテイメントと一言で括れない、様々な感情を揺さぶるダンス。それが熊谷さんの表現するタップダンスでした。
d school終了後のアンコールでは、熊谷さんのタップダンスと会場全員の手拍子が一体となって盛り上がりました。
後日富山市民プラザで開催された”Tap Into The Light”の申し込みをd schoolと同時に行っていましたが、終了後にd schoolの参加者が何人も申し込みをされていたのが印象的でした。
私自身もTap Into The Lightを観劇させていただきましたが、アフリカンドラムやストリングスとのセッションや、他のタップダンサーとの共演など見所がたくさんあり、d schoolで見たダンスとはまた違ったタップの可能性を感じさせる公演でした。
全く知らない世界だったタップダンスとの距離がぐっと縮まった今回のd school。
今後の熊谷さんの富山公演など、継続的に応援していきたいと思います。