もののまわりトーク-下町のものづくりの産業を知る-を開催しました

2019年7/25~8/25開催のもののまわりギャラリー「SyuRo角缶のもののまわり」の特別企画として、8月9日(金)にトークイベントを開催しました!

蔵前・SyuRoのオリジナル商品である「角缶」は、D&DEPARTMENTでも定番商品として販売中。2008年に手作り缶職人の中村敏樹(なかむら・としき)さんと出会い、インテリアとしても愛着の持てる収納道具を作りたいとデザインした商品です。
ゲストは、SyuRo代表の宇南山加子(うなやま・ますこ)さんと、中村さんの技術を継いで現在工場で角缶を制作するSyuRo缶職人の石川浩之(いしかわ・ひろゆき)さん。

今回の”もののまわりギャラリー”を企画する中で、何度か工場に伺って取材をさせて頂きました。このトークイベントのねらいは、「産業=そのものが置かれている状況を知る」こと。それを踏まえて、どうしても展示だけでは表現しきれず、直接伝えたい!と思ったことを中心にトークイベントの内容を練り…裏のキーワードは「継いだ」なのではないかな、と考えました。それを軸に内容を構成していきました。

まずは、宇南山さんに「SyuRoのはなし」をして頂きました。台東区育ちで、お父様がアクセサリー職人だった、という生い立ちから、いつか技術を継ごうと思っていたけれど、継ぐ前にお亡くなりになられ悔しい思いをしたこと。その思いをきっかけに、技術を継ぐ・繋いでいくモノづくりをしたい、とSyuRoを立ち上げたお話をして頂きました。SyuRoのWEBページに最初に出てくるこちらの道具も、お父様が使用していたものだそう。

メインとなったのは、「SyuRoが技術をつないだはなし」。2008年から缶職人である中村敏樹さんと作り続けてきた角缶ですが、角缶の人気が高まるのとは裏腹に、ご高齢の中村さんの体調が心配になることが増えてきました。その頃から、跡継ぎについて考えてみませんか?と何度もアタックしていたのですが、「こんな技術継ぐようなもんじゃないから!」と継ぐことに関しては全く考えていないと拒否され続けていたそうです。中村さんが本格的に体調を崩し、意識を失ってからのこと…宇南山さんが、中村さんに宛てに送っていた「大切な技術を継ぎたい」という思いを綴ったラブレターを、ご家族が発見してから話が急展開します。

実はこの日、先代の中村さんのご家族もトークイベントにご参加頂きました。宇南山さん、石川さんにそのことをお伝えしたのは直前の打ち合わせの時。こんな貴重な機会はないので、お話を振ってみよう!と急遽、ご子息の中村さんにマイクをお渡しする流れとなりました。宇南山さんからのお手紙をもらったとき、「あの親父がそんな技術を持っていたのか!」と驚き、感動したというお話を聞かせて頂きました。

確かに、自分の父が働いている姿を見る機会はなく、更に周りからどんな評価を受けているかなんて気にしたこともありませんでした。仕事に打ち込んでいれば打ち込んでいるほど、「家にあんまりいない謎のお父さん」になってしまうのも分かります…。ふと、自分の父の仕事のことももっと知りたいなと姿を思い浮かべてしまいました。

中村さんが工場に立てなくなり角缶の販売が中止になってから、ご家族の協力を得て、工場をそのまま引き継いで借りることなりました。求人メディアの日本仕事百貨で職人の募集をかけ、それに石川さんが応募し…採用!ついに、角缶の復活に向けて動き出すことに。その後、会ったことがない中村さんが残した工場から、角缶の作り方の紐解きの日々が続きます。残された寸法メモが全てその名の通りの「寸」単位だったことに気が付いたり、完成している缶を解体してみたり。2ヶ月に及び工場に立てこもり、やっと「作り方」を解明。そんな辛抱強く根気のある作業を「面白かった」と語る石川さんの目は輝いていました。面接をした時に「子供に誇れる仕事をしたい」と語っていたことが心に残っていたそうで、今回のトークには宇南山さんのはからいにより「お父さんの働いている姿を見せてあげたい」と石川さんの奥様・お子様2名もご招待していました。お父さんに「がんばれ!」とエールを送る2人がとっても愛らしかったです。スタッフも、笑顔が止まりません...奥で見守っているのが奥様です。

「東京 下町の産業」の話では、実際に住んで・働いていている台東区はどんな町ですか?とお話を伺ってみました。工場の多い下町では、「暮らしと仕事の境目がはっきりとしていない」「サラリーマンではないので、ボーナスのことを知らなかった(笑)」という話が印象的でした。なるほど、実家が工場というのはそういうことなんだなぁと実感。放課後のいつもの遊び場が工場で、遊ぶ感覚でお手伝いをしたり。小さな単位の「会社」がひしめき、行事は年がら年中町全体で盛り上がりという話を聞きながら、いわばカルチャーショックを受けたのでした。仕事場が暮らしの中にあるという話に、江戸らしさを感じます。「東京らしさ」と「江戸らしさ」のイメージの違いを改めて感じ、もっと東東京に潜っていきたいなと心に決めました。

そんなお話を聞いてからの角缶は、特別に見えます。そして「下町」に思いを馳せるだけでなく、実際にツアーの企画もしています!SyuRoのある台東区を中心に、d design travel東京号に掲載している東京らしいスポットにも立ち寄りながら、最後は宇南山さん・石川さんも交えた飲み会をイメージしております。年間を通して、角缶をもっと知れるイベントを開催していく予定です。「角缶」という一つのプロダクトを通して、産業やその背景に触れるきっかけになればいいなと思います。ものの向こう側にいる人々や風景を想像出来るということは、本当に楽しいことです。それこそが、買い物の醍醐味だと思っています。簡単に買い物が出来る今の世の中で、ぜひ当店で一緒に買い物を楽しみたい思いで日々走っています。みなさま、引き続き「SyuRo角缶のもののまわり」をお楽しみください。

 

(ピントが合ってなくて申し訳ありませんが、大切な1枚!)
物体としての「モノ」にとどまらず、そのモノがまとう空気感や、五感を大切にして表現し続けている宇南山さん。D&DEPARTMENTがこれから取り組んでいく「もののまわり」にも共感して頂き、このような素敵なイベントにご協力下さいました。「継ぐ」ことは、愛なしには実現できないし、逆をいうと愛があれば今までにない形で「継ぐ」ことが出来るんだなと勇気をもらえました。家族と、それの枠を超えていく愛を感じる時間、本当にありがとうございました。

 

D&DEPARTMENTディレクターナガオカも、noteで「もの・の・まわり・日記」を連載中!合わせてお楽しみください。

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