「田舎寿司/高知」

7月27日(土)、dたべる研究所で高知の田舎寿司をまなぶ料理教室を行いました。

『d design travel 高知号』の取材を経て、渋谷のヒカリエにあるd47食堂で「高知定食」を提供していた期間(2019年3月7日~4月22日)、大好評を頂いたのが山菜を使った田舎寿司でした。

d47食堂で提供していた「高知定食」

田舎寿司は、元は新鮮な魚が手に入りにくい山間部でつくられていたもので、玉子、みょうが、しいたけ、こんにゃくの他に、リュウキュウといわれるハスイモの茎や、ハチクという種類のタケノコなど、山の食材を使います。

d47食堂から現地取材に行った料理長の岡竹義弘は、高知の食文化を継承するべく精力的に活動している松崎淳子先生のお宅に伺い、そのつくり方を直接教わってきました。

今回の講師を務める岡竹から、現地で体験した食文化や出会った生産者さんから学んだことをお話させて頂きました。高知では、魚をまるごと使った姿寿司や金時豆の押寿司などを頂いて、寿司の多様性に驚かされたといいます。

高知で頂いた金時豆の押し寿司

柑橘が豊富にとれる土地柄か、酸っぱいもの好きな県民性か、柑橘の種類も多くあります。高知では、果実をたべるのではなく、絞りかけて使う柑橘を「酢みかん」と呼び、さまざまな料理に酸を効かせます。酢飯にも、醸造酢だけでなく、柑橘の果汁も使います。

今回の料理教室について、現地でお世話になった農家さんにお伝えしたところ、旬の柑橘をたくさん送ってくださったので、その場で皮を削ぎ、参加者のみなさまに香りの違いを感じてもらいました。

左は夏文旦、手前の小さな柑橘は露地栽培の仏手柑(ぶしゅかん)、奥にある葉付きの柑橘は直七です。仏手柑はまだ果汁が少ないので皮を、果汁をたっぷりかける料理には直七を使っていきます。

田舎寿司の特徴であり味の決め手となるのは、すし酢です。キッチンへ移動し調理を始めると、参加者のみなさんから次々に質問が飛びました。

『ゆず酢って、ゆずとお酢を混ぜたもの?』

高知では、ゆず果汁を「ゆず酢」または「ゆの酢」と呼びます。dたべる研究所で使っているのは、無塩のゆず果汁ですが、現地では、塩と共に一升瓶に入れて、土のなかに埋めておき、年中使えるようにしておくそうです。

『こんなにお砂糖が多くていいの?』

高知で教わったすし酢は今回つくったものよりも甘めで、こんなに砂糖を入れていいの?と戸惑ったそうです。甘さは地域や家庭によって違いますが、砂糖が貴重だった頃は、それがおもてなしでもありました。

合わせたばかりのすし酢と、

ひと晩以上寝かせたすし酢

高知のすし酢のもうひとつの特徴は、炒りごまと刻み生姜を入れること。生姜が豊富な土地なので、生姜を使う料理も多いのですが、おろすのでもなく、千切りでもなく、刻むのが一般的だそうです。高知の特色が詰まったレシピに、参加者のみなさんも興味津々でした。

「すし酢は味がなじむよう、ひと晩寝かせるのがおすすめです」と、おいしくするちょっとしたコツもお伝えしながら、調理を進めていきます。

玉子焼きをつくる途中、鉄製の道具をお持ちの方から『煙が立つほど熱していいんだ!』との声がありました。レシピだけでなく、道具の使い方も学び取ってくださったのが、ありがたいです。

こんにゃくは薄くスライスしてあるので、切り込みを入れるのに苦戦されている様子。ほかにも、みょうがやしいたけなど、ご家庭でもつくれるように手に入りやすい食材を使ったレシピをご紹介させて頂きました。

仕込みがひと段落したところで、手にゆず酢をつけてにぎっていきます。まるみが特徴なので、それほど几帳面に形をつくらなくても大丈夫。高知で頂いた田舎寿司はもっと大きかったそうですが、いろんな種類をたべられるよう、今回はひと口サイズを目安としました。

高知には、刺身、寿司、揚げ物、煮物、酢の物、羊羹などを大皿に盛り合わせた、皿鉢(さわち)料理があります。ちいさな子供から酒のあてが欲しい大人まで、どんなひとも楽しめるよう、さまざまな料理をてんこ盛りにしてあるのが特徴です。

お酒を飲みたい女性陣が途中で席を立たなくていいよう、種類も量も多めに寄せてあるという話も聞きました。そんな高知らしい皿鉢料理をイメージして、大皿に盛り付けます。

そのほかにも、岡竹料理長がスペシャルよるごはんを用意してくれていました。

カツオのたたき

高知から届いた仏手柑をたっぷり絞って

薬味とサバのほぐし身をのせた、

茄子のたたき

高知では、たたくのはカツオだけではありません。県内の料理店では、ウツボ、サバ、グレ、クジラ、土佐ジロー、赤牛、しいたけ、ワラビなどの山菜まで、何でも「〇〇のたたき」料理にします。そもそも「たたく」とは、油で揚げたり、火で炙ったりして、塩やタレをたたくようにして馴染ませる調理法を指すそうです。

仏手柑の皮とちりめんを合えた、

リュウキュウの酢の物

リュウキュウ

メニューにはありませんでしたが、農家さんが送ってくださったリュウキュウで押し寿司も用意してくれました。

高知では、宴会のことを「おきゃく」と呼びます。冠婚葬祭や催事、節句など、何でも理由をつけて宴会を開き、酒を酌み交わすのが好きで、親族や友人などたくさんのお客を招くので、いつしか宴会のことを「おきゃく」と呼ぶようになったそうです。

参加者の方から「高知で手料理を振舞ってもらった気持ちになれました」との声があり、現地で体感した「おきゃく」文化をこうした形でお伝えできたのかなと、嬉しくなりました。

夏文旦

『d design travel 高知号』で取り上げたものや、田舎寿司にまつわる書籍や資料の展示もさせて頂きました。

・「ゆずしぼり 90ml(無塩)」(馬路村農業協同組合/高知)

・「摘み草ブレンドティー」(tretre/高知)

・『伝え継ぐ 日本の家庭料理3 すし』(企画編集 日本調理科学会/出版 農山漁村文化協会)

高知のみなさんから学んだことや、田舎寿司をつくる楽しさを分かち合えたらと思い、この料理教室を開催いたしましたが、参加者のみなさんが自由に面白がってくださり、この場で完結しない交流が生まれたようです。

土地、生産者、料理、道具など、食にまつわることをつなぐ場所となれるよう、dたべる研究所は、今後もさまざまな料理教室を行っていきます。ぜひ、お楽しみに。