ヤマロク醤油の「木桶職人復活プロジェクト」

d47 MUSEUMの第14回展覧会「NIPPONの47 2016 食の活動プロジェクト」展(2015.12.17-2016.2.21)の香川県の出展者である「ヤマロク醤油」の5代目・山本康夫さんが中心となって取り組む「木桶職人復活プロジェクト」によってつくられた新桶がd47食堂にて、2016.2.4-3.6の期間に展示されています。

高さ2mを越える大きな仕込み桶。現在、こような桶をつくれる職人は、国内に1軒を残すのみ。そして、木桶でつくられる天然醸造の醤油や味噌は、全体の生産量の1%以下です。そもそも桶の寿命は100~150年と言われていて、需要のサイクルもゆっくりな上に、使う蔵が少ないという現状。このままでは、木桶の技術がなくなってしまうと考え、2011年に山本さんが始めたのが「木桶職人復活プロジェクト」です。


写真提供:ヤマロク醤油

現在、各地で残っている桶は、戦前につくられたものがほとんど。桶の寿命を考えると、この先50年程で大半の桶は使えなくなり、その時には桶をつくる技術も残っていないという状態になってしまいます。そこで山本さんは、自身が桶職人に弟子入りし、その技術を学び、小豆島で実際に桶をつくり、その桶で醤油を仕込むことまでしています。


d47食堂のスタッフも2015年に現地を訪れました。

その活動に共感し、毎年桶造りには各地の醤油、味噌、酒の蔵元たちが小豆島を訪れ、桶づくりに取り組んでいます。今年は4本の桶を完成させ、そのうち1本がd47食堂に2016年3月6日まで展示されています。その後は千葉県神崎(こうざき)の道の駅で展示。神崎は先日スタッフも訪れた「寺田本家」のある発酵の町!


東京から電車で2時間程の小旅行。

桶で仕込まれた醤油とそれ以外の醤油では、旨味を数値化すると、ほぼ変わらないそうです。でも味が異なるのは確か。その数値化できない、しっかりとした木桶ならではの強い旨味があることも確かです。食の安全に関心が高まり、生産環境を管理するために、木桶からプラスチックなどの桶に変えると、味も色もこれまでのようにはならず、人口的に旨味成分などを足して味を近づけるということが多くされている醤油業界。桶や蔵に住み着き、美味しさをつくっていた菌たちも、一度失われれば、簡単につくれるものではないことを、山本さんのお話しで初めて知りました。山本さんへのインタビュー内容は、今展覧会の公式書籍に掲載中です。

聞き手の相馬(d47食堂ディレクター)も思わず驚きの表情。

このままでは「本物の美味しさ」が失われるという危機感から生まれたプロジェクトですが、山本さんが桶づくりを話す様子は、本当に楽しそう。2011年に始まったプロジェクトも、はじめは道具や材料の調達から、箍(たが)を編む練習などで、出来上がったのは2013年。醤油の仕込みをしながらの作業は、本当に過酷なことだと思います。

写真提供:ヤマロク醤油

でも、目先の利益や、自分のことだけでなく、「食」のこの先を考え、猛烈に行動する山本さんに、多くの人が気づかされ、生産者も消費者もそれぞれの立場で、自分たちの「食」を見直すきっかけとなっています。もちろん、桶仕込みでなくても安全で美味しい醤油はあると思いますが、何を大切にするかは人それぞれ。でも少し立ち止まって考えることは重要なことなのでは。

200kgある桶の搬入。山本さんも駆けつけてくださいました。

現在、ヤマロク醤油の「鶴醤(つるびしお)」「菊醤(きくしお)」は、d47販売分は共に完売しており、「菊つゆ」「ぽん酢」が販売中です。ヤマロク醤油のつくり方は、仕込み始めてから完成まで“2年”。欲しいものは「すぐに買える」ことが当たり前となりつつあるなかで、「待って買う」ということも大切にしたいと思います。

小豆島からやってきた、出来立てほやほやの新桶を是非触りに来て下さい。



NIPPONの47 2016 食の活動プロジェクト
会場:d47 MUSEUM(渋谷ヒカリエ8階)
会期:2015年12月17日(木)-2016年2月2日(日)
時間:11:00-20:00(19:30最終入場)
入場無料
主催:D&DEPARTMENT PROJECT