39    世界観

大橋トリオさんのライブに行ってきました。僕が大橋さんを知ったのは、どこからか漏れ聞こえてきたような出会いです。いつ、どこで知ったのか本当にはっきりしていません。ただ、そのある日うっすら耳に入ってきたメロディや歌詞が心に引っかかったのでした。その後、本人の帽子など衣装や表情ではっきり認識し始め、その上から「大橋トリオ」という名前がかぶさるようになって、きになるアーティストとなっていきました。それはまさに「世界観」です。
ファッションデザイナーの皆川明(ミナペルホネン)さんは、「立地の悪い場所には”世界観”を作りこんだ方がいい」と言っていました。もちろん、彼の場所はどこも世界観に溢れています。これぞWebでなんでも買える時代にあって、路面店(実際の現実空間)でしかできないことだと思います。

Webでなんでも買える時代に、いつ来るかわからないお客さんのために、高い家賃を払い、品物を並べただ買えるだけの店を作っていては、Webストアに負けます。そして、私たちはブランドや店に「世界観」を求めています。それは何も特徴のあるグラフィックや写真、空間デザインを作りこむだけではありません。来場するお客さんにかける一言。掃除の徹底の仕方、ラッピングの仕方、スタッフの仕草、空調の感じ・・・・。例えば、天気のいい日は窓を開ける店は、その印象が世界観の一部になっているでしょう。

大橋さんのステージはいつも象徴的な飾りがシンプルに天井から下がっていて、薄暗く、派手な装飾はなく、あくまで音楽に向き合えるように考えられています。ジョークを交え、だから印象としては「面白い」というキーワードも加えられます。自分のブランドの中に「面白い」という意識を持ち、それをステージ上でメンバーとやりあう。これも一つの世界観です。それは読書後の残る「読後感」と一緒で、コンサート終了後に私たちの心の中に印象として残る。曲の個性などが「世界観」によってまとまり、心の中に温存される。そして、曲を聴くたびにその「世界観」は心の中に再生される。ライブが近づくと、「また、あの世界観の中に行きたい」と思う。また、自分の日々、揺らぐ現実生活の中に、「大橋トリオ」を聴くことで、その世界観を自宅の、自分の一部とできる。それはファッションブランドであれば、その服を着ることでそのブランドの「世界観」をまとうことになる。勇気が出たり、緊張感を得たりできる。

ブランドのそうした世界観は、創業者かブランドディレクターによって旗揚げされますが、それを作り込んでいくのは「日常に関わるスタッフ」によるものが多いです。店をデザインを有名な空間デザイナーがデザインしたとして、ディレクターが大きな方向性を決めたとしても、それを「実務」の中でリアルな接客や対面の中でいかに細かく再現する意識があるか。つまり、ブランドは「世界観」が欠かせない。そして、それは、日々働いているスタッフの一人一人によって多くは作られていくわけです。

この話をすると、よく「スターバックス」のことを思い浮かべる方が多いと思います。僕は近しいスタバの方と話していて、「会社としてのスタバが、マニュアル的指導」をしてそうなったというより、それは全くゼロではありませんが、どこか初期の段階で、働く店頭スタッフがそれに気付き、どんどんスタッフ間で「意識」が高められて、働く誇りに気づいたのだと感じました。つまり、「自分の職場のブランド感は、働くあなた次第でなんとでもなる」ということだと思うのです。

いいブランドには必ず「世界観」があります。尊敬する上司にも、心に残る旅先にも、そして、素敵なアーティストにも。大橋トリオさんのそんな「世界観」がとても好きです。