『どっちつかずのものつくり』 安藤雅信(河出書房新社)

D&DEPARTMENT東京店の1階にある、小さな書店「LONG LIFE DESIGN BOOKS」で販売している本を紹介します。

本日の一冊は
『どっちつかずのものつくり』安藤雅信(河出書房新社)

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(以下 2019年3月5日配信のナガメルの紹介文を抜粋)

僕の中では前職場の上司、原研哉さんと安藤雅信さんはとてもよく似ています。まず、経済や歴史などをきっちり抑えているところです。なのでお話や原稿の中に、もちろん、この本の中にも「年号」や「参考文献」「歴史的出来事」「社会情勢」が順番に語られ、「だから、そうなっている」という論調でものすごく説得力と、分かりやすさがあります。原さんはデザイン、特にグラフィックデザイン(最近はトイレの便器など水回り器具のデザインもしていますが・・・)という専門分野を持ち、安藤さんは「陶芸」(本人は陶芸家とは名乗らず”陶作家”と名乗っています)というジャンルを徹底的に追及していて、縦に深く掘りながら、横への様々な異ジャンルと比較したり、組み合わせたりするセンスがあり、そこも原さんとそっくりです。この本では安藤さんが「歴史」についてとてもこだわっている、もっというと執着している、もっというと「どうしたら歴史に名を残せるか」という、多分、本人に聞くと「バカ言え、そんなこと、考えてないよ」とはぐらかしそう(笑)ですが、とにかく・・・論というのが大好きで、いろんな側面からいろんな知識で説明、紐付きを語れます。そして、その横軸には「音楽」「アート」(もともとは彫刻など立体陶器作品を制作する現代美術家でもあった)などがあり、縦横無尽な感覚で、「民藝運動」や「古道具坂田」さんなどの眼に憧れ、「生活工芸」というジャンルに行き着いたわけです。この縦横無尽な様子を、ご本人は「どっちつかず」と著書タイトルにしたように、そのスタイルを考え抜き、ついに、一冊の本にまとめてしまったという本で、坂田さんや、柳宗悦、工芸と工業、日根野作三、そして、自身の主宰するギャラリー(ぎゃるりももぐさ)への考えなど、楽しくわかりやすく、そして、ワクワクしながら読めます。9日に森岡書店でこの本についてのご本人とのトークショーがあります。深掘りも横展開も興味のない僕との対談。果たしてうまくいくのか、と、思うのですが、ご安心を。僕は「ゲスト」と表記されていますが、「ナガオカくんさ、当日は司会進行、頼んだよ」と言われています通り、ま、頼まれなくても質問役として抜擢されたことは、百も承知。とても楽しみです。

あ、なんだか肝心の「この本のロングライフデザインポイント」を書いてない気がしてきましたが、陶芸界、工芸界などから「ものづくり」に関しての環境の変化や将来について、あるジャンルから眺めた理屈から、ロングライフデザインを考えるには、面白い本だと思います。おすすめします。

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【 小さな本屋「LONG LIFE DESIGN BOOKS」書店員より 】

はじめて、この本を手にとったときに「どっちつかずとは、どういうことだろう?どんな風にどっちつかずなんだろう?」と思いました。
著者である安藤さんは、岐阜県多治見市で「ギャルリももぐさ」を運営しながら、ご自身もものづくりをされる陶作家。安藤さんによると、「どっちつかず」とは、優柔不断ではなく、心が開かれているというポジティブな意味として使用しており、とても良い言葉です。現代人は、日常生活でいろいろな要素から刺激を得、人間性を構築します。ダイナーで食べるアメリカンなハンバーガーも好きだけれど、静かな場所でいただく日本茶も好きだ。それは優柔不断なのではなく、「どっちつかず」。どっちも好きで、どっちにも興味がある!現代社会をポジティブにあらわす言葉のようにも感じました。

また、安藤さんは茶道にも精通しており、茶道から見るものづくりの視点も興味深いものがあります。特に茶の道具は、見られる・使われる・思考されるという後半生を意識してつくられるそうです。ものの生産背景や、作り手の想いを学ぶべく、d SCHOOLを開催したり、販売を行っているD&DEPARTMENTの活動は、ものの後半生に携わっているのだと、この本を読んで考えました。(後半生の反対語は、前半生。)

 

【 LONG LIFE DESIGN BOOKS 】

D&DEPARTMENT TOKYO 1Fにある蔵書約1700冊の小さな書店。ロングライフデザインを探求し、さまざまな活動をするなかで出会った本をセレクト。本との出会いがあるお店を目指して選書しています。営業時間11:30-19:00(水曜定休)
instagram @long_life_design_books
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