新潟県 ボーダーカットソー「G.F.G.S」のラボ

2018年夏に開催した「47あつらえ展」の新潟県の出展者、「G.F.G.S.」の小柳雄一郎(おやなぎ・ゆういちろう)さんを訪ねて、新潟県加茂市に行ってきました。

G.F.G.S.の作るカットソーは、完全受注生産。注文があって初めて編み立てを行うので、生地や工程に無駄がなく、製品の価値にあった適正価格での販売にもつながっています。素材にはピュアオーガニックコットンを使用し、前身頃、後ろ身頃、右腕、左腕の4つの布を作り、一枚ずつ裁断士がパーツにする。首と裾を縫製し、続いて袖を縫製したら、洗い上げる。そうして一枚のカットソーが出来上がります。一着一着丁寧な手仕事から生まれるカットソーは、着心地が良いので長く愛用したくなる上、丈夫さがそれを叶えてくれます。

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加茂駅東口から一本道に2キロにも及ぶ商店街は、小柳さんが子どもの頃からほとんど同じ風景だそう。いくつかの商店街が連なる中で最も加茂駅に近い黄色いアーケードの「駅前商店街」。その一角にあるレンガの建物が地元のパン屋さん「千代田ベーカリー」、その2階にあるのがG.F.G.Sの事務所で、Lab1(ラボワン)と呼ばれているスペース。


千代田ベーカリーは加茂市に3店舗ある老舗店。小柳さん曰く「全部やらかいパンなのがね、いいんだよ。」

もともとは千代田ベーカリーの倉庫だったという2階のスペースをリノベーションしたLab1は、縫製所の役割もあって、奥の畳の座敷だったという場所は、畳をなくし、工業用ミシンが置かれていました。壁は壁紙を貼らずに、建材がそのままで、複数のアーティストが直接壁に絵を描いています。「このカッティングシートは貼るのに6時間かかったんだよ」というのは、ギターと共に書かれた文字。


こ、細かい!全ての文字がカッティングシートで施されています。かっこいい。

事務所の中は、真ん中に大きなテーブルがあって、壁には漫画家・江口寿史による「ひばりくん」のイラスト、35年前のアトムのフィギュア、奥にはアップライトピアノ。「弾くんですか?」「いやいや、僕は弾かないよ。福島くんは弾けるね」と言われた方は、仕上がったカットソーの発送業務を進行中。彼は2018年の初夏からG.F.G.S.に参加した現代音楽の作曲家で、G.F.G.S.からCDを出している福島諭さん(そう、G.F.G.S.は音楽レーベルとしてCDもリリースしています!)。


壁のもう一面はレコードで埋め尽くされています。改めて席に着くと、床材の端材を集めて作ったというテーブルは端材がゆえにボーダーのようになっています。

パン屋の倉庫だった2階部分を改修したのは、もともとは雑誌「G.F.G.S. magazine」の編集拠点のため。有機野菜の直売所で農家の紹介がされていたのをヒントに「作り手を伝える」「作り手が見えることが大事」と考えたことがこのマガジン創刊のきっかけ。つまり、どんなアイデンティティでものづくりをしているかが伝われば、と考えたのだそうです。

マガジンをめくると、びっくりしたのは文字が多い読み物であること・・・・・・。アパレルを手掛ける企業が作るマガジンなのでスタイルブックかと思いきや、対談や鼎談が収録されています。小柳さんが気になる人に話を聞くというスタイルで、第一号の話し相手は振付家の金森穣氏。自主制作のマガジンは、新潟県内では映画館など、県外では代官山蔦屋書店などの各所で販売され、「ぜひ次号の製作に関わりたい!」と20人以上の人が集まったという。第二号の表紙はルーカスBB氏。集まったデザイナーたちと作り上げた第二号はページ数も倍増、各ページを担当する複数のグラフィックデザイナーによって手がけられた印象の異なる対談記事は、一枚のCDアルバムを聴いているようでした。

 


ラボの給湯室にある冷蔵庫にはメンバーそれぞれのお気に入りや、G.F.G.S.を訪ねたゲストが貼っていったステッカーが貼られていました。左下にはd富山店で佐野さんが買ってきたというD&DEPARTMENTのステッカーが!!嬉しい~佐野さんありがとうございます!


2018年にリリースされたG.F.G.S.の新ビジュアル。彼らのベースである駅前商店街を背景に、レコードをより意識したデザイン。横断歩道もボーダーです。

「楽しく、楽しそうにやっていくことが大事」と言う小柳さん。G.F.G.S.の現メンバーは、代表の小柳さん、パートナーの恵美子さんが自宅兼アトリエで裁断と縫製を、先述の福島さんと、縫製を担当する佐野さん、Lab2で編み立ての機械を操る高槻さん。小柳さんは朝7時に出社し、各ラボを誰よりも早く回って、機械の電源を入れておくそう。寒さの厳しい季節は暖房も整え、始業の準備をします。機械はスイッチを入れてすぐには稼働できないことから、「こうすることで機械も始業時間にしっかり動くし、うちは残業も一切ない。スタッフにいい環境で働いてもらいたいんだよ」。

ブランドスタート当初は生地の編み立てを外注していたそうですが、1年ほどした時に小柳さんが決意し、編み立ての機械を2台導入、Lab1から車ですぐの、元製剤薬局だったという場所でLab2を始動。見学させていただいたLab2では、大胆な蛍光イエローのカッティングシートと、クイーンオブパンク・パティスミスが待ち構える、まるで工場ではないような雰囲気。


真ん中の扉を開くと、右側の扉に「G」がぴったり重なります。


この時は黒地に白ボーダーの生地を編んでいるところでした。

加えて、編み立ての機械にはROCK’N ROLL WITH YOUの文字(やはりこれもカッティング)。このフレーズが私の中でより印象的になったのは「ボーダーシャツっていうメディアを使って、他の人(G.F.G.S.)が、その人(注文者)を表現して、新しく生まれるものがあるのが面白いよね」と話してくれた時でした。


ユニフォームにもなっているビンテージのワークコートを着て、編み立ての機械を操り、縫製も行うかっこいい高槻さん。

ボーダーシャツも、マガジンも、自己表現ではなく、面白いことを発信していくためのツールなんだという小柳さん。Good Feel, Good Styleの略であるブランドネームは、アパレル業という固定概念の「ボーダー」を超えて、新しいメディアの形なのだと感じました。
これからのG.F.G.S.の、五線譜のようなボーダーにどんな音符が重なるのか、期待がますます高まります。

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2019年3月30日・31日に、d47 MUSEUMにてG.F.G.S.受注会を開催いたします。
詳細は随時D&DEPARTMENTのWEBページや各SNSにてお知らせいたします。