「IAAZAJホールディングス株式会社」見学レポート

“IAAZAJホールディングス株式会社は、1957年、ニットの染色加工から始まり、起毛やプリントなど、幅広く繊維製品の加工を手がけてきました。「第一編物株式会社」「株式会社エイゼット」「株式会社アートジョイ」「株式会社エスティーソーイング」「母袋産業株式会社」の5つのグループ会社となり、“IAAZAJ”という社名は、各会社の頭文字からとられたそうです。染色、繊維業の他にも、パーソナルカラー診断で使用するドレープやカラー教材を中心にテキスタイルや製品の販売も行なっているそうです。

今回は、3つの会社にお伺いし、2018年富山プロダクツの選定品でもある“アクティブインサレーション”の誕生秘話や、富山で“ものづくり”をする熱い思いをお聞きしてきました。

私が初めてアクティブインサレーションを見た時は「中がふわふわで暖かそう」「色が好き」という印象でしたが、その印象通り、素材がポリエステル100%で、とにかく軽くて、中は起毛で暖かい一着です。

最初に訪れたのは、富山県砺波市庄川町に工場を構える「第一編物株式会社」。山に囲まれ、近くには綺麗な水の流れる庄川がある自然豊かな場所でした。

そして、笑顔で出迎えてくれ、熱い思いを聞かせてくださった、辻さん(写真右)と奥野さん(写真左)。

第一編物株式会社は、主に「染色」「起毛」「印刷」をメインに行い、車両用のシートや資材、衣類の製品作りに力を注いでいます。

機械がたくさん入っている工場内へ入ると、独特な香りが漂ってきました。染色する際に使用する酸性やアルカリ性などの薬品の匂いだそうです。約21台の機械と大量の生地が置いてあり、とても迫力があって、ただただ圧倒されました。

まず、機械の中に生地を入れ染色をします。ポリエステル素材は綿よりも染まりにくい為、熱で生地を膨らませ、その中に染料を入れて染めるそうです。撥水加工するものとしないものなどによって機械を分けている事が機械数の多い理由ですね。

染まった布は、乾燥とシワを伸ばす機械にかけられます。まるで巨大なオーブントースターのようでした。

そして、いよいよメインの「起毛」。こちらも車両用のシートなどの厚い生地のものと機械が分けられています。アクティブインサレーションの生地は“軽さ”にこだわり抜いた為、とてもデリケートな生地なので、特殊な刃がついている機械で掻かれ、ダメージを与えます。奥野さん曰く「攻撃的な機械」。確かに間近で見ると怖かったです(笑)。でも、この機械によって、軽くて柔らかな生地でも、裂けることなく、暖かくてふわふわな起毛ができるんですね。

こちらは、アクティブインサレーションの起毛する前の生地。

そして、アクティブインサレーション起毛後の生地。

そして「印刷」の工程へ。印刷機の大きさにも驚きました。踏み台に登らないと中が見えないくらいで、インクの量も見たことのないサイズでした(笑)。

パソコンに向かいデザインや構成をされていた方は、笑顔の可愛らしいちょっぴり恥ずかしがりやな女性のお二人でした。

アクティブインサレーションの生地は特殊な為、印刷にもご苦労されたようです。ひっぱると幅が変わってしまったり、厚みの調整を間違えると生地がばらけてしまうので、とても神経を使ったと話してくださいました。しかし、やはり出来上がるとそんな苦労も一瞬で忘れ、達成感と満足感でいっぱいになるそうです。

この過程を経て、最終チェックに向かいます。出来上がった生地に傷や汚れがないかを確認する作業では、言葉を発することなく集中して行われるので現場にも緊張感が漂っていました。

そして、手作業での梱包作業。

一点一点丁寧に包んでおられ、皆さんの仕事に対する情熱と愛情をひしひしと感じることができました。どの工程でも生地と真剣に向き合い、同じ思いで仕事に取り組むからこそ、質の良い製品が生まれるのだと感動の連続でした。

そして、工場のドアには、気になる表が掲示されていました。

この表は全会社の様々な部屋に飾られているそうです。これは、第一編み物の会社ビジョンである「子どもたちを入社させたいと思える会社作り」を実現させるために、社員一人一人が考えたアイデアや意見・思いをまとめたもの。中には「この意見面白いですね…」とくすっと笑えるものもあり、会社全体の仲の良さが伝わってきました。

こうやって、自社の「夢」を社員全員で考え共有していくなかで、“世界に誇る自分たちの技術を発信していきたい”という声がうまれたことが、アクティブインサレーションのブランド名でもある「CanRuler」を立ち上げたきっかけとなったそうです。「CanRuler」には、Can→(自由に)できる/Ruler→(目盛りのない)ものさし、規格や基準は自分たちで決めるものだと考え、“自由な発想を活かした商品を創りだそう”という思いが込められているそうです。

もともと、自動車メーカーやアパレル会社の下請けとしてモノづくりをしていた「第一編物」。社員の声をうけて新たに始まった自社ブランドの立ち上げは、今から6・7年前に「TATEYAMA Wa’U」というプロジェクトから始まりました。Wa’Uとはハワイ語で「掻く」という意味があります。第一編物の強みでもある、生地を掻いて作る加工技術「起毛」の製品によって、富山の魅力も掻き出したい!という願いを持ち、富山の魅力である“山”のシーンに着目されました。

富山県と言えば「立山」。私の周りの方達の殆どが、一度は立山登山をした事があるというくらい、山の印象が強い県ですが、なんと意外な事に、まだエベレスト登頂を果たした方が県内にはいないそうです。そんな時に出会ったのが、富山県出身の登山家で、立山ガイドもつとめる佐伯和彦さん。「エベレストに登りたい」という佐伯さんの思いに、IAAZJAホールディングス株式会社の小田代表が「本気ならサポートします」と答え、「アクティブインサレーション」が開発されました。佐伯さんをはじめ、山登りのプロ(玄人)の意見を取り入れ、また実地着用評価を頂きながら試行錯誤を繰り返し、苦労して作り上げた過程をお聞きし、自分の住む富山で、こんなにも熱い思いを持ってものづくりをしている方たちがいるなんて!と、心打たれました。

そして次に訪れた所は、富山市八幡に工場を構える「株式会社エスティーソーイング」。

こちらは、第一編物でつくられた生地を、裁断・縫製する現場です。

某有名ブランドの縫製も手掛けており、社内は様々な洋服でいっぱいでした。ミシンに向かい作業されている方は全員女性の方。繊細さを必要とする現場では、女性の方が大活躍するそうです。

アクティブインサレーションはインナーとして肌に触れるもの。より気持ちよく着て頂く為に、縫製部分を工夫し、縫いしろが出ないように縫い方も特殊になっています。お客様の事を思い、着心地にこだわった一着です。

取材日は、アクティブインサレーションの裁断を見る事は出来なかったのですが、特別に体操服の裁断様子を快く見せてくださいました。何枚も生地を重ね、コンピューターにデータを取り込むとあっという間に裁断されていきます。こちらでも「アクティブインサレーションは生地が特殊だから、普段は30枚くらい重ねるけど、10枚が限界で大変でした」と苦労話を聞かせてくださいました。

現場をまとめている高木さんは「縫製の現場で、作り手として作る枚数は何千枚だけど、それを着るお客様にとっては“1枚”。だからこそ、自社製品としっかりと向き合い、丁寧なものづくりを心掛けています」とクールながらも熱い思いを聞かせてくださいました。

私も、D&DEPARTMENTに来店してくださる一人一人のお客様の事をそんな風に大切にしていきたいなと改めて感じることができました。

最後に訪れたのが、小矢部市小神にある「株式会社アートジョイ」。全ての工程を自社のグループ内で行なうことに誇りを持ち、企画、販売、印刷、縫製を全て行ない、サンプルを各会社に届けている会社です。

社内には、アクティブインサレーションをはじめ「CanRuler」の商品や様々な生地見本がたくさん飾られていました。また外には、TATEYAMA Wa’Uのキャンピングカーもあり、富山らしさを思いきり、発信しています。

こちらでは、“どんな企画でも任せてください”と自信を持って様々なことに挑戦しています。“山”のシーンはもちろん、“農業”のシーンでは福光市のJAさんが着用するオリジナル農業服を提案したり、“宿”のシーンでは、黒部市にある池上旅館の女将ウエアーを開発したり、また富山で活躍するバスケットチームグラウジーズや県内からオリンピックに出場した広野あさみ選手の横断幕を制作したりと、富山で活躍される方たちのサポートをし、お互いに富山を盛り上げようと日々仕事と向き合われています。D&DEPARTMENT TOYAMAでの富山らしさを発信するお手伝いも是非して頂きたいなと個人的に感じた1日となりました。もしかしたらいつの日か…(笑)。

今回はお伺いすることの出来なかった「株式会社エイゼット」「母袋産業株式会社」も今回ご紹介させて頂いた仕事内容と同様ですが、生地の種類や特製に応じて、それぞれの得意とする分野のものを担当して行なっているそうです。

富山県で企画・製造された、そして熱い思いの込もった”アクティブインサレーション”を是非、店頭で手にとって、驚きの軽さと触り心地のよい起毛の暖かさを体感してみてください。