山口県 大嶺酒造の新蔵訪問

『d design travel YAMAGUCHI』でご紹介している酒屋「地酒のまえつる」の前鶴健蔵さんによる酒蔵ツアーに参加。「貴」で知られる永山本家酒造場と、リニューアルしたばかりの大嶺酒造の2蔵を訪問しました。いずれも個性の異なる蔵でしたが、「日本酒の可能性を広げる」という点において、若い世代が積極的に取り組んでいる共通点がありました。

「獺祭」などをきっかけに、「美味しい日本酒をつくる県」として知られるようになった山口県ですが、かつては灘(兵庫)など、県外の大手酒造メーカーの下請けとして名前の出ない酒造りをしていたり、自県の消費率が20%程しかない時代もありました。日本酒業界全体的な生産量の低下などもあり、山口の酒蔵がOEMから自社ブランドの確立を本格化させたのは、決して昔のことではありません。

このようなお話をしてくださった、永山本家酒造場5代目の永山貴博さんも自身の名前から名付けた「貴」の銘柄を立ち上げたのは2001年のこと。大手酒造メーカーから発注されていたということは、その腕を買われていた証拠で、確かな酒造りの技術はあったものの、自社製品をつくって県外に営業へ行こうとしても、「そんなことしても仕方ない」と上の世代から言われていたそう。

そんな中、永山さんらが集まる青年会の活動により、山口では造り酒屋が毎年増え続けています。若い世代が更に若い力を引き出すサイクルが始まっていました。今回のツアーで訪れた「大嶺酒造」も青年会の活動をきっかけに復活した酒蔵の一つです。

町の誇りをつくる日本酒
“地域の気候とアイデンティ”を酒で表現

2018年4月に自社の新蔵をオープンした大嶺酒造。d47 design travel storeでも、オープン当初から取り扱いをしてきた酒蔵です。潔良いデザインやPRの打ち出し方から、大手酒蔵だと思い込んでいましたが、目の前に現れた酒蔵は「酒蔵」というより「マイクロブルワリー」。

山口県のほぼ中心に位置する美祢市。四方を山に囲まれ、市内全域が日本ジオパークに認定されています。そんな自然豊かな場所に白く浮き立つ建物が大嶺酒造の新蔵!「ここまでやりますか~!」と驚きながらも、復活の経緯や酒造りの考えを聞くと、ここを目指した考えが少し分かったような気がしました。

ネオンで書かれている通り、大嶺酒造の始まりは1822年。1955年に廃業した蔵を秋山剛志さんが復活させ、2010年に酒造りを再開。当時は他の酒蔵を間借りしていましたが、2018年に自社蔵が完成しました。

入っていきなりコーヒースタンドがお出迎え。仕込み水を使って淹れたコーヒーが飲めます。車でないと来れない場所。ドライバーさんもこれなら飲める!豆は地元山口のカピンコーヒーさんによる焙煎。深煎りなカピンさんも、ここの水に合わせて、普段より少しだけ浅めにしているとか。

そして、とにかく様々なものに入れられた、マークはお酒をつくりだす「米」のかたち。

1粒=「大吟醸」、2粒=「吟醸」、3粒=「純米」と、パッケージのお米の数を見れば酒の種類が分かるようになっています。この「お米」に込められた想いこそ、蔵復活の想いそのものなのではないでしょうか。

蔵の真横に広がる田んぼ。農業が主産業のこの町でも、米をつくっても買い手のない状況では耕作放棄地も増えるばかり。

蔵を復活する際に考えたのは、地元の田んぼと共に復活すること。耕作放棄地を減らし、米づくりに携わる人を増やす。それは酒蔵として当たり前のことなのかもしれないけど、至る所に入れられたお米のマークが、この土地の米づくりと共に歩み続ける宣言のようにも見えました。

そして、もう一つ、大嶺酒造の酒造りの特徴である「水」。この日、案内してくれた大嶺酒造の宮崎さんは、酒蔵に行く前にまず見てほしい場所があると、酒蔵の近くにある「秋吉台 弁天の湧水」に連れてきてくれました。

き、きれい!
毎時間180リットルもの水が湧き出るという池は、青く澄みきる美しさ。なぜこのような色になるのかは、未だに解明されていないそう。私が見ている間にも、様々な地面から空気の粒がコポコポと音を立てて湧き上がり、となりの養殖場から運良く逃げてきた魚達が、すぐそこをスイスイと泳ぐ様子が見れました。(よーく見る小さな魚が、、、)

連れてきてくれた宮崎さんも「この地域を担う水源。この水に生かされていると感じます。」と話されていました。
この水、軟水でありながらカルシウムの数値がかなり高いそう。そのカルシウムが発酵の手助けをしてくれるため、低い温度でゆっくりと発酵を進めることができます。そんな水によって、原酒でも14度という大嶺酒造の特徴が生まれています。

そして、この後に酒蔵で試飲させてもらったのですが、大嶺酒造のお酒は、私個人的に水のことを考えずにはいられない味わいです。皆さんも酒蔵に行く前に立ち寄ることをオススメします。わざわざこの場所から案内してくれた宮崎さんには、本当に感謝!

米と水。酒造りには当たり前の要素だけど、どちらもこの場所でしかつくることのできないもの。それらを活かしてつくるお酒は、東京なんてビューンと飛び越えて、世界に照準を合わせた酒づくりから生まれています。自分の育てた米と地元の水から生まれたお酒が、世界の人に求められる。そんな地域に住んでいる。そう思えることって、町の誇りだと思います。真っ白な酒蔵、海外デザイナーによるパッケージ、これまでの酒蔵には無いPR方法、既成概念にとらわれない発信は、最終的に“町の誇りづくり”に繋がっているのだと思いました。

酒蔵では2種のお酒を試飲。どちらも度数は同じ14度。違いは精米歩合だけ。この14度は日本酒としては低く、度数の高さが一種の価値となる日本酒界では異端の存在。その度数から生まれる米の味わいと、淡麗さのバランスを取るのが難しいそう。まだ生まれたての蔵では、タンクやその環境の特徴を掴みながら酒造りを行うそうで、日々が研究。日本酒とワインの中間のような度数14度で勝負する蔵の姿勢が面白いです。

生産量としては800石ほど。一蔵目に見学した永山酒造は2~3000石なので、生産量がかなり限られていることがわかります。大嶺酒造で酒つくりに関わるのは3名。世界に発信する日本酒マイクロブルワリー!

d47 design travel storeでは大嶺酒造の「Ohmine Cup 100ml」と「Ohmine Junmai Daiginjo 720ml(1粒 大吟醸)」を取り扱っています。ワンカップは贈り物に選ばれる方が多数。普通のワンカップって一杯を一人で飲むには多いので、このサイズはちょうどいい。

一方で、大吟醸のボトルは1本5508円。販売スタッフによると海外の方は「やっと買えた!」と喜んで買われるけど、日本人の方には高価な印象を持たれることが多いとのこと。
お酒を売るプロである前鶴さんにそのことを相談すると、「一粒(大吟醸)だと精米歩合も38%なので、業界的には相応の価格だとは思います。そもそも業界的に「~%精米だと~円」という不思議な横並びがあるので、それ自体はどうなんだろうと疑問に思う事もあるよ」とのこと。もちろん、オリジナル瓶は一般的な酒瓶よりも費用はかかっていますが、そもそも食べるお米に比べてかなり酒米自体が高価で、大吟醸(50%以上)規格まで酒米を磨くのに技術と手間が必要。そして、磨るだけ米が小さくなるので、量が沢山いるという基本に加え、大嶺酒造の新たに挑戦する姿勢を考えると、決して高い価格ではなくなります。

前鶴さんも「文化や伝統として、想いも技術もゆるやかに続けていく為に、勇気をもって色々と変化へ切り込んでいくのは大切ですよね~」とお話しされていて、続いていくための変化や挑戦をやっぱり応援したいなと思いました。

「当たり前だけど、世の中に色んな酒蔵があって酒屋があるので、地酒のまえつるだけが全てじゃないし、一人でもお酒ファンが増えたら良いなぁと考えるのはみんな一緒だと思うので。」という言葉をいただき、私たちも自分たちなりのやり方で伝えていきたいなと思いました。また前鶴さんとの角打ちも企画したいですね。

そして、つい先日「Ohmine Junmai Daiginjo 720ml」2018年の新酒が届きました!(1粒 大吟醸)では初となる生酒(火入れをしていないお酒)での新酒!この時期だけの美味しさです。

地酒のまえつる酒店の女将絵梨さんも「山口のお酒は毎年変化があって、本当に楽しみ」と話されていました。私自身も今回のツアーをきっかけに、伝統ある地域の蔵がアグレッシブに新たなことに挑戦し続ける、山口の酒蔵に興味津々です。今年の大嶺酒造のお酒はどんな味なのか、毎年飲む楽しみを私も今年から始めてみようと思います。前鶴さん、来年は県内の別のエリアでの酒蔵へのツアーを企画されているとか?! 来年はそのツアーも合わせて皆様にご案内できたらいいなと思っています。