日本の食を未来につなげる

日本の未来をつくる食の生産者たちを紹介
2月23日(水・祝)、D&DEPARTMENT三重店のある施設「VISON」農園エリアに生産者を招き『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』発刊記念企画を開催しました。前日は登壇者向けのVISONツアーを実施し、当日は事前収録したオンライントークも交えながら、全4回のトークセッションと、参加者と登壇者が直接意見交換する交流会のほか、会場併設のマーケットスペースでは、北海道のチーズから沖縄のバウムクーヘン、地元・三重県の愛農学園農業高等学校でその日収穫した野菜や加工品まで、タブロイドで紹介した生産品が一堂に揃う販売会を行いました。

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農林水産省が推進する国民運動「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」に賛同し企画した本プロジェクトは、地域社会とつながりながら、課題に向き合い挑戦を続ける若手生産者、食の担い手たちの活動を知ることで、身近なようで自分ごととして捉えにくい「食」とのつながり、これからの時代に相応しい「食」のあり方を考える機会をつくることを目的として実施しました。
 
『d design travel ニッポンフードシフト特別編集号』では、D&DEPARTMENTの拠点がある北海道、埼玉、東京、富山、三重、京都、鹿児島、沖縄の8つの地域から日本の食の未来をつくる活動を独自取材し、自分たちらしい農業・漁業・食品加工や流通のあり方を考え、模索し、実践する生産者・事業者の様子を紹介しています。

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こちらのレポートでは、本紙に登場する食の生産者たちが、地域で取り組むそれぞれの活動を紹介しながら、食と農のつながり、農業への思いや工夫、思い描く未来について語り合ったトークセッションの様子をご紹介します。

いのちを繋ぐ教育
日本で唯一の有機農業を実践している全寮制の私立農業高校、三重県にある「学校法人愛農学園農業高等学校」からは、卒業生の杉山哲郎さん、青野勇さん、教頭の泉川道子さんに登壇いただきました。

学園内で起こる「食」の循環がもたらす、食と農、「いのち」とのつながり、土や生き物に接する日々がもたらす豊かさ。それらは、食べることは「いのち」をつなぐことだと教えてくれたと杉山さん。自宅で種を撒く、土に触れる機会をつくるだけでも考えに変化が生まれると青野さん、泉川さん。まずは「食」との「つながり」に興味を持つこと、身近なところから実践すること。食とのつながりを自分ごととして捉えにくい社会において、これからの食の未来を豊かにする第一歩について、気づきをいただいた時間となりました。

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食と農を繋ぐ
登壇いただいたのは、農業と福祉の融合“農福連携”をきっかけに次世代の生き方を提案する埼玉県「Sutéki-é」代表の猪爪麻衣子さん、生産者と料理人をつなぐ販促モデルやフードイベントなどのプロデュースに携わる鹿児島県「食冠」代表の太田良冠さん。
 
海外での留学生活を機に、食の多様性、豊かさに対する価値観などが大きく変わったという共通点をもつお二人。農福連携事業を軸に新しい生き方の創出を目指し活動する猪爪さん、分断されてしまった食のまわりにある関係性の再構築を目指す太田さん。ともに、これからは、生産者、料理人、消費者、さらには、さまざまな社会的背景を持っている人々が、垣根を超えて支え合う関係性が重要だとおっしゃっていたのが印象的でした。「食」を考えることは、食べることだけではなく、それらを取り巻く人間関係や地域社会、生き方を変えていくことにも直結する、「食」という概念が広がるのを感じました。

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日本の食を守り伝える
全国の鰹節問屋の中でも貴重な鰹節の目利き職人として活動する東京都「タイコウ」の大塚麻衣子さん、自然栽培米農家でありながら、消費者との交流も積極的に行う富山県「ひえばた園」の稗苗良太さん・史絵さん、漁師の食べたい魚を提供したいという思いで、海の京都と言われる京都府宮津市で漁師として活動する「三英丸」三野佑也さんによる、事前収録のオンライントークを上映しました。
 
大学生時代、とあるきっかけでコンビニでお米を買って食べた時のこと、これまで食べていた実家から送られてくるお米の美味しさに驚愕したという稗苗さん。農に携わるご親族の仕事に対しても見方が変わったそうです。日本の食が途絶えることは、私たちの暮らし、文化、原風景にも大きな影響を与えるということ。生産者がどんなに良いものをつくっても、その価値がきちんと伝わっていなければ、また、それを届ける人、選ぶ人にその価値をきちんと判断できる目利き力がなければ、続いていかない現状があること。大塚さん、稗苗ご夫妻、三野さんのお話は、日本の食を守り伝えることは、生産者を守るだけではなく、現代を生きる私たち、そして次世代にとってもとても重要であることを伝えています。

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畜産業への新たな挑戦
養鶏家でありユーチューバーとしても活躍する沖縄県「徳森養鶏場」のノーマン裕太ウエインさんとノーマン渉太トーマスさん、ひと家族が暮らせるくらいの小さな酪農を目指す北海道「堤田牧場」の堤田ひじりさん・玲奈さんに登壇いただきました。数日前に現地入り予定だった堤田ご夫妻は、大雪の影響で飛行機の欠航が続くなか駆けつけてくださり、当日は急遽、空港からのオンライン登壇になりました。
 
事業継承によって養鶏場を継ぐことになったノーマンブラザーズによるYouTubeを活用した“エンターテイメント”としての魅力発信や、19歳の若さで新規就農に挑戦している堤田さんの取り組みからは、事業継承、新規就農、それぞれが抱える課題や現状を知ることができます。共通していたのは「正解がない」ということ。業界特有の世代間ギャップやまわりの意見などに向き合い模索しながら、自分たちの価値観、実現したい未来を信じ、日々、挑戦を続ける彼らにとって、消費者である私たちが彼らの活動に関心を寄せることは、とても大きな力になるのではないでしょうか。次世代の担い手を育て、日本の食の未来を明るくする。消費者もまた、重要な役割を担っているのです。

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トークセッションを終えて
当日のトークセッションには、食に関心を寄せる一般の方以外にも、地元生産者、食に関わる事業者の方々にご参加いただきました。生い立ちや業種、地域もさまざまな登壇者の思いに触れ、感じたことなど、みなさんからいただいたご意見をご紹介します。

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若い世代の強みは「エネルギー」。トークセッションを通して、それぞれがもつ原動力の源や同世代のエネルギーを見たり、聞いたりすることで、自分自身の原動力やエネルギーが広がっていくのを体感した。こうした機会をもつことも大切だと感じた。
 
日頃から世代間のギャップを感じつつも、若い世代をバックアップしてくれる大人の存在に助けられている。世代や経験値などのギャップを超えて「次の世代を生きる仲間」として、互いが歩み寄り、支え合っていくことが日本の食の未来を明るくすると感じた。
 
経済活動によって起こる環境破壊に対して、壊してしまった自然環境を回復させながら、環境も守り、エンタメ化していく完全循環型の施設づくりに取り組んでいる。本企画を通じて、未来の農業について意見交換できたことが、現在取り組んでいる活動やビジョンに重なる部分で、とても良い時間、経験になった。業界では中堅の立場なので、若い人たちの意見をしっかり聞いて、きちんと反映できる農場づくりをしていきたい。
 
自分がこれまで考え、実行してきたことが、間違っていないという確信を持つことができた。これからは、若い世代を引き上げていく役割を担っていきたい。
 
各登壇者の話に、「豊かに暮らすこと」「幸せとは何か」といった、本質的な部分が出てきていた。普段の生活の中で、できないことに直面する機会は多いが、VISONや本企画に関わる方々から、できないことに対してどう面白くできるか、どうプラスに変えていけるかに懸命に取り組んでいる印象を強く受け、自分も実践していきたいと感じた。
 
全国各地の課題として「伝える技術」の向上があると改めて感じた。生産に特化した現場では、伝えることが苦手な人が多く、どうしたらもっと「伝える技術」が向上できるのかを考えていたが、登壇者のみなさんの話を聞き、突破口になる糸口をつかむことができた。
 
農業の魅力を伝え続けて欲しい。農業を経験したことがない人にとって、現場に入らないとわからないことが多い。高齢化や若手・担い手不足などの課題は、伝え方、伝え続けることが大事。一緒に盛り上げていきたい。
 
村で青年会をやっていると、年配者の頭が硬いなどの話が出るが、日本の農業の現場では、そうした中でも、世代間のギャップを超えて営みを続けていかなければならない。本イベントのように、さまざまな垣根を超えた多様性のある場で、日本の食を考え、話し合っていくことが今後も大切になってくる。
 
日本の食を支えていきたい、いのちをいただくことへの感謝をもっと見つめ直すべきだと感じた。これから脱サラをして農園で働き、ゆくゆくは新規就農をしたいと考えている。食の本質を伝えられるような人間になりたい。
 
原料となるお米を自分達で栽培しながら、酒づくりを行なっており、日頃から、米の質はもちろん、今後どれくらい農業の仕組みが継続していけるのか、農業やお米の付加価値を高めることも含め考えている。本イベントは、これからの農業に関して新しい可能性やヴィジョンを感じる機会となった。
 
とても良い時間を過ごせた。「次の世代に繋いでいく」そういう時期がきているのを感じた。現役80代、若手が60代といわれる業界で、30代の担い手が新しく農業に挑戦する難しさを感じている現状があるが、登壇者の話を聞き、時代の変わり目が来ているのを感じる、気づきのある会だった。こういったことをもっといろんな人と共有したい。
 
今まで口にしていたもの、購入していたものは、価格でしか見ることができていなかったが、今後は、自分の体になっていくものに対して、どこから来ているのか、誰の手によって作られているのか、自分自身も勉強しながら、吟味し、選んでいきたい。
 
食べることは私たちの暮らしの根底にあることだと、改めて実感した。「伝える」ことを軸に事業をしているので、生産者のみなさんの思いをきちんと伝えていきたい。
 
「食料自給率」がある程度浸透した現代において、若い世代は、自分が食べているものが農業に繋がっていることすら知らない現状があり、農業を守ることが、国土を守ることにまで及んでいることを初めて意識する機会となった。今後も、各地の生産者の活動を広めることはもちろん、実際に活動されている方々が、励まし合い、頑張ろうと思える機会をつくっていきたい。

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普段何気なく口にしているものに、もう一歩踏み込んで興味を持つこと、食べ比べてみること、金額以外の価値に気づくこと。その土地に根づいた若手生産者の活動に興味を持ち、応援していくこと。私たちのこうした行動ひとつひとつが、日本の豊かな食の未来をつくり、「食」について考えることは、私たちの暮らし、人生を考えることにもつながっています。今回出会った各地の生産者、事業者のみなさんとまた再会できることを楽しみに、みなさんもぜひ、身近なところから「食」について考える時間を設けてみてくださいね。

 


 

<登壇者プロフィール>

北海道|堤田牧場
堤田ひじり : 2001年北海道興部町生まれ。10人兄弟の末っ子。高校卒業後、常呂郡のホクレン訓子府実証農場で1年間酪農を学ぶ。離農する酪農家の元で研研修生として働き、農場を引き継ぎ19歳で新規就農し、堤田牧場を設立。
堤田玲奈 : 2000年北海道北見市生まれ。北見商業高等学校卒業後、常呂郡訓子府町のホクレン訓子府実証農場で事務員員として2年半働いた後、夫と共に堤田牧場で働く。
Instagram|@tsutsumida_farm
 
埼玉県|Sutéki-é 猪爪麻衣子
1998年北海道根室市生まれ。中学時代、ウェイクフィールド英語数学教室にて留学経験のある先生との出会いをきっかけに、高校3年時、公益財団法人 AFS日本協会からの紹介を受け、ベルギーに1年間留学。獨協大学フランス語学科を卒業し、現在オリジナルブランド Sutéki-é 代表を務める。
www.sutekie.life
 
東京都|タイコウ 大塚麻衣子
1984年熊本生まれ。「d47食堂」で料理人として働きながら、出汁文化に興味を持つ。退社後は、バイオ分析会社で働き営業・経理の技術を磨きながら、タイコウに通いつめ営業のサポートをスタート。2018年タイコウ入社、2021年より取締役・目利き職人に。
www.taikoban.info
 
富山県|ひえばた園 稗苗良太
1986年富山県生まれ。2012年就農。富山県魚津市松倉地区で無施肥、無農薬、天日干しで米を生産する自然栽培米農家。農閑期は、米粉おやきを販売。農作業体験、しめ飾り教室、出張餅つきなど消費者との交流も積極的に行う。
www.hiebata.farm
 
三重県|学校法人 愛農学園農業高等学校
1963年に設立された日本で唯一の全寮制の私立農業高校。全国愛農会を母体とし、1972年から有機農業に取り組み、作物、野菜、果樹、酪農、養鶏、養豚の6部門で専門的な農業学習を実施しながら、いのちを大切にする農業教育を実践している。
ainogakuen.ed.jp
 
京都府|三英丸 三野佑也
1996 年京都府宮津市養老生まれ。京都府立海洋高等学校で水産(養殖)を学び、卒業後は刺し網漁の漁師の祖父、小定置網漁業をする父の影響を受け、漁価向上に貢献しようと京都府漁業協同組合に就職。2022年からは本格的に家業の漁師を継ぐ。
 
鹿児島県|食冠 太田良冠
1990年神奈川県生まれ。2016年より「地域おこし協力隊」として鹿児島県長島町に移住。料理人と生産者をつなぐイベント等の企画運営に携わる。2020年より個人で「食冠」として、慶應義塾大学、鹿児島相互信用金庫、株式会社 GHIBLI、大崎町役場などと連携して活動を行う。
www.ryokano.com
 
沖縄県|株式会社徳森養鶏場 ノーマンブラザーズ
ノーマン 裕太 ウエイン : 1989年アメリカ生まれ。大学時代からモデルとして活動し沖縄国際大学ミスターに選ばれる。卒業後プロダーツプレイヤーとしても活躍しながら翻訳および通訳業に従事。その後祖父の経営する徳森養鶏場に転職し、2017年より代表取締役。
ノーマン 渉太 トーマス : 1991年沖縄生まれ。アメリカ人である父の仕事の都合で、沖縄とアメリカ間を幾度となく引っ越し。2017年からモデル、コスプレイヤーとしても活動している。徳森養鶏場では営業と配達を担いながら広報エンタメ部門で活躍。
www.tokumoriniwatori.com