「鹿児島の織りと染め」工房見学レポート

現在、鹿児島店で開催中のNIPPON VISION MARKET「鹿児島の織りと染め」にて、ご紹介中の藤絹織物の「工房 花いろ」を見学してきました。そこで鹿児島の伝統工芸である大島紬の歴史や紬(反物)ができるまでの工程を教えていただいたので、ご紹介していきます。

今回は「工房 花いろ」の上村さんに施設の案内をしていただきました。最初に訪れた場所は奄美大島に生息する植物が広がる奄美風庭園。

大きな木々が道沿いに並ぶ中、ひと際南国感を放つ蘇鉄の木。蘇鉄は奄美群島と沖縄群島でしか自生せず、奄美では蘇鉄の実を砕いて粥にしたり、味噌にして食べる習慣があり、奄美の食文化にも深く関りがあります。大島紬の伝統的な柄である「龍郷柄」は蘇鉄の木を真上から見た時のデザインで、中心の赤い模様は蘇鉄の赤い実を表現し、周りは蘇鉄の葉を表現しています。

庭園を先に進むと、泥染めの作業工程の展示と泥田があります。泥染めの流れはまずテーチ木(車輪梅)を細かなチップ状にしたものを大きな窯で一昼夜煎じます。次に煮込んで作った赤茶色の煎じ汁に糸を漬け込み、20数回煎じ汁を取替ながら染め上げると茶褐色に染まります。その染まった糸を乾燥させた後、鉄分を多く含んだ泥田で揉みこむと黒色に変化します。そして泥田で揉みこんだ糸を水洗いし、乾燥させます。

この一連の流れを4回ほど繰り返し、合計80回の糸を漬け込む作業と4回の泥田で揉みこむ作業を行うことでやっと泥染め独特の黒色に染まります。この気の遠くなるような工程を繰り返すことで染め上がった反物はまったく同じように染め上がることはなく、一つ一つが微妙に色合いに違いが生まれ、とても魅力的な仕上がりになります。

最後に案内して下さったのが、実際に大島紬を作っている製造工場。中に入ると工場内には10以上の織り機が並び、そこで職人達がそれぞれの作業を手作業で黙々と進める姿は圧巻。今回は特別に、普段はガラス越しでしか見学できない中での作業を案内していただくことに。

まず手前で行っていた作業が締機を使った柄締という作業。柄模様を作るために木綿糸で絹糸を縛る作業を柄締といい、この柄締の良し悪しが後の作業に大きく影響する為、熟練した技術を要する重要な仕事です。そして柄締をした糸に染料を着色していくスリ込みという作業。柄締の際、木綿糸で縛っていない絹糸の部分に染料の入ったスポイトで絹糸一本一本に染料をすり込んでいき、表と裏の両方から色を付けます。この作業を行っていた女性の方は簡単そうに染色していましたが、上村さんは「僕が染めると染料がぐしゃぐしゃっと広がり、染めるのが非常に難しい」とのこと。糸一本分の間隔でも色を誤って染色してしまうと、柄が崩れ、織りあがっても商品価値が下がってしまうという非常に繊細で正確さが求められる重要な作業です。作業台の上にいくつも並んだ染料の中から使用するものだけをさっと手に取り、慣れた手つきで糸に色を付けていく。この一連の作業を手元が狂うことなく流れるように行う女性の姿に、長い年月をかけて得た技術と職人の凄みを感じました。

そして様々な工程で加工された糸を手織り機で織り上げていく最終工程に移ります。この手織りまでに図案づくりを含め約半年の期間がかかります。径絣と緯絣を一本一本合わせながら丹念に織っていきますが、この作業には高度の技術と集中力・忍耐力が必要とのこと。反物が出来上がるまで簡単なもので約半年、難しい柄の場合1年~2年かかるものもあります。

一つのものを作り上げるために長い月日をかけ、いくつもの工程を分業で行い、そのすべてを人の手仕事で作り上げる大島紬。機械で量産される服では味わうことができない、たくさんの作り手の想いを感じることができる魅力あふれる鹿児島の伝統工芸です。
今回鹿児島店では藤絹織物の大島紬でつくられたストールやマスクカバーを販売しております。

最後に、今回私たちを案内してくださった上村さんの作品がこちら!

壁一面を覆うほど大きな作品は、一眼見た瞬間あまりの迫力に圧倒されました。

「工房 花いろ」では初心者の方でも染めや手織機を使った織りを体験できるコーナーもあります。奄美の歴史に触れてみたい方や、鹿児島の伝統を体感したい方にはおすすめの場所ですので是非一度足を運んでみてください。

【藤絹織物】
鹿児島市南栄町に奄美の原風景や文化を伝える「奄美の里」に工房を構える。大島紬の製造見学や体験も行っている。1973年には『都喜ヱ門』というブランドも展開。
HP| 奄美の里 藤絹織物

◎11月2日(火)までの間、鹿児島店にてNIPPON VISION MARKET「鹿児島の織りと染め」を開催しております。奄美の織りと染めを中心に、鹿児島の織元や鹿児島で活躍する服飾作家の作品を紹介します。鹿児島の伝統的な大島紬や、染めという自然が生み出す魅力を通して、"身にまとうもの"について考えるきっかけになると幸いです。