独自の路線を突き進む「ねりもの」

海側のスーパーに立ち寄ると、目の透き通った、朝どれの新鮮な魚が切り身よりも多く並んでいます。

通年獲れると言われているバイ貝の大きさに驚いたり、昆布締めにできない食材は無いのではと思わせるほど種類があったり。

そして、食品トレーにぺちょりとしたグレー。販売面積がとてつもなく広い。どれもこれもねずみ色。そう、魚の生すり身コーナーです。通年通してアジやグチなど様々な種類の白身の魚が、豊富に獲れる富山ならではのスーパー事情。

鍋物の具材だけでは無く、焼いたり、揚げたり。滑川の方では、お正月のお雑煮にも入れるそうです。揚げたすり身は、ととぼち揚げと呼ばれ、食卓や居酒屋さんでの人気メニュー。

富山湾と言う屈指の好漁場を持つ富山県。漁業が盛んな各地でそれぞれ独自な個性を持ち進化し続ける加工食材の一つ、かまぼこ。その存在力に気がついている人は、どれだけいるでしょうか?富山県は、県民一人当たりのかまぼこ消費量が全国でトップクラスなのです。

私事ですが、好物が練り物なので、各地方に行くと必ず買って食べる物のひとつです。

縁起物として婚礼などに用いる細工かまぼこは、かまぼこ王国と呼ばれる県にふさわしい職人技。鯛や海老、鶴、亀、梅など絞り出しを使って、ほぼフリーハンドで見事に仕上げられて行く。

富山県では、祝宴時に鯛の焼き物を引き出物として持ち帰ってもらい、それを近所にお裾分けして喜びを分かち合う風習が根付いていましたが、冷めたら美味しくない、分けにくいし何より日持ちがしない。そこで重宝されたのが細工かまぼこだと言われています。

でも、練り物といえば添加物。個人的には、添加物を使わないと作れない物だと思っていました。氷見市から高岡市へ移動した私たちは、化学調味料や合成保存料を使用せずに練り物製造する、「富山ねるものコーポレーション」を訪ねました。

地元産のタラやトビウオやニギスなどの魚に富山の旨い水。味付けには、昆布出汁と本みりんを使い魚の持つ本来の上品ですっきりとした味わいに仕上げています。着色が必要な場合は、パプリカの色素やイカ墨などを使い、添加物を使用していません、と迎えてくれたのは、代表の麻生さん。

すり身にした時に温度が上がると硬くなるため、比較的気温の低い午前中に製造を終えます。訪れた時間帯は、14時頃。工場内では、梱包作業が進められていました。

魚をすり潰したり、練ってペースト状にする臼など機械がたくさん並ぶ工場内ですが、最終的には職人さんの匙加減でほとんど決まり、作業工程はアナログ部分が多い。だからこそ、きちんと美味しい。

ん?さっきから何かが違う。あ!かまぼこ板が無い。昆布に巻かれてしっかりと固定されているから、板の必要性が全く無い。しかも、昆布の旨味成分であるグルタミン酸がかまぼこに染み込み、そのプリっとした弾力に乗ってジワジワと旨みと共にやってくるのです。

かまぼこには板がない、それが富山の常識。蕎麦屋の肴に板わさが無い、、、そんなことってあるんだなと、一瞬真剣に考えてしまいましたが。

そういえば、昨日お昼に食べた大門素麺の上に乗っていた渦巻きかまぼこ。ちょこんとひとつ浮かべるだけで、とたんに富山らしさが何倍にも膨らむ。北陸地方の練り物文化、やはり独自の路線を確実に進み続け、今後もその歩みは止まらない。