漆と漆器①

現在東京店で開催中の「浄法寺の漆と器」のコーナーにある二つの漆器のサンプル。この二つの漆器の違いが一目見て分かるでしょうか?

裏返して断面を見てみると、右は木地(漆器の土台となる素地)が樹脂製、左は木製なのが分かります。一方は漆に似せた塗料のもの、片方は漆で仕上げられたもので、同じようでも中身も仕上げも全然違うのです。しかしどちらも同じ漆器類と呼ばれ、製品表示には木地や塗料の詳細が書いてあるものの、それを理解して買うには、初めて使いたい人には中々難しいと思います。

元々日本は木が豊富に採れることもあり、木製の木地に漆を塗ったものを漆器としていました。
NIPPON VISION MARKETで取り上げている滴生舎の漆器は、漆器の産地としては一度栄えながらも復興しました。そして古くから続く製法に近く、今も木地と漆のこだわりを持って制作している漆器と漆の産地なのです。
NVMのコーナーでは、そんな背景も合わせて知ってもらおうと漆や木地について、滴生舎の漆器とともに展示しています。

今回これから漆器を買おうとしている方のために、内容を二回に分け、まず漆器のつくりや素材についてご紹介します。そしてそれを踏まえて滴生舎の漆器の特徴をご紹介します。
これから漆器を使ってみたいという方や、滴生舎の漆器に興味のある方の参考になればと思います。

・土台となる木地

先ほどの上の写真のプラスチック製の木地は、薄く均一な厚みで作られています。電子レンジにかけられるなど素材の利点はあるものの、薄すぎると熱が伝わりやすいという不便な点もあります。
一方、木で作られた木地は、口元は薄く仕上げながらも底に向けて厚みが増し、持っても熱くなりにくいかたちに仕上げてあります。これは「木地師」と呼ばれる職人さんが図面を形に起こし、ねじれや割れを防ぐため最低でも3ヶ月以上乾燥させた木材を、一点一点職人の手で加工し作られています。
お椀の多い岩手の漆器は、挽物と呼ばれるろくろや旋盤を使う製法で作られています。
昔から続く木を使った木地には、つくり手と職人による使いやすさの工夫が込められています。

木を大まかに削った荒挽き後の状態。ここからろくろなどで引く直前まで乾燥させます。

型を当てながら正確な形に合わせていきます。

・国産漆の流通や採取方法

塗料として使われる「漆」は、日本では縄文時代から接着剤や塗料として使われていたという歴史があります。漆はウルシ科の木から出る樹液のことを言いますが、日本では「ウルシ科ウルシ属ウルシの木」から採れるものだけを「漆」としています。ウルシの木自体は中国や朝鮮半島にも生息し、またアジアの各地のウルシ科の木から採取したベトナム漆やタイ漆などもあります。
漆は発酵すると水分やゴム質、そして液体から膜へと硬化する成分のウルシオールなどに分かれ、産地によりその成分が異なり塗った時の仕上がりにも差が出ます。品質は使用する際の漆の主成分となる、ウルシオールを多く含んでいるほど良いとされ、日本産の漆にはその成分が多いことで上質な漆とされています。

滴生舎が使う浄法寺漆は落ち着いたツヤがありサラサラしているそうです。

国産の漆が一番上質とされているものの、日本で漆器に使用される漆の97%は、海外から輸入したものを使っています。そのたった3%の国産漆の日本一の生産地が、滴生舎がある岩手県二戸浄法寺です。
漆の採取は「漆掻き」と呼ばれる職人が6~11月の漆の採取期間に山に入り行われます。1日100本ほどの木を周りながら、木に傷をつける専用の道具を使い、そこから滲み出る漆を集めるのです。それで一年に採れる漆の量は漆の木一本から200g程度、そして一度採取した木は、切り倒してまた漆が採れるようになるまで10数年かかります。
その漆一本の木から採れた200gの漆で作れるのは、お椀5個分ほどなのです。

木に辺と呼ばれる傷をカンナでつけるところです。

木の傷から滲み出る乳白色の液体が漆液です。

このように、土台の木地や漆のことを調べていくと、しっかりした一つの漆器を作るためには、貴重な漆と木地、そしてそのために沢山の職人の手と時間がかけられています。安く買い換えられるプラスチックの漆器も良いですが、自宅で日々使う器を選ぶなら、確かな技術や素材を用いた漆器を使うことで、食事を楽しみ、大事に使い続けることで愛着のある器に育てられます。
次回では、漆を塗る「塗師」と浄法寺だけの塗りの特徴などをあわせて、滴生舎の器を詳しくご紹介します。