92:  町の活性化

東京の本社、本店の移転にあたり、どうせふるさと愛知県知多郡阿久比町に小さな新しい「d」を作ろうとしているのだから、「知多に本社を移転しては」というアイディアも上がり、隣町の「半田市」に可能性はないかとチーム愛知のメンバーに相談したところ、「ミツカン」の本社横、運河沿いの建物と、半田市のカブトビール跡の赤レンガ倉庫を見てみませんか?ということで行ってきました。結論から申し上げますと、どちらもかなり難しい。ミツカンさんは、ミツカンさんの長い歴史の中に、d&dに貸すということの説明をつけ、なおかつ、耐震などの工事をしなくてはならない。もちろん僕らにそんな予算はないので、ミツカンさんが「それなら負担してもいい」という物語、提案がなければ今のところ、そのままにしておいたほうがお金はかからないし、不安も起きない。そして赤レンガ倉庫も、同じようなことで、つまり「何もしない」のが今のところベストという選択になっていて、それを動かすということは、いろんなことをクリアしなくてはなりません。そして、こうしたケースは、おそらく全国的にあると思うのです。

赤レンガ倉庫を全国にもあるその代表例として考えてみましょう。町の歴史を語れる大切な建造物である「赤レンガ倉庫」は、半田市により耐震補強を完了。市民団体などと一緒に保存、そして、運営をしています。5階建てのうち、使えるのは1階のみ。全体に耐震工事はしたものの、使える状態にするには、また莫大な追加予算がかかります。しかし、いずれ使わないと、その耐震工事は税金の無駄とも言われてしまう。使う、とは、安定して町の、そして、建物の物語を伝え、未来に開かれ、しかも、現代に生活する人たちの「現代感覚に沿った使い方」が求められます。委託でカフェを入れても、先ほど書いた「現代感覚に沿った使い方」としてのカフェじゃないと人々は寄り付きもしません。だからと言ってどこにでもある人気のチェーン店を誘致しても、それは「その町のため」には長い目で見てらならない。町の人たちが自分たちの「町を代表する場所」だと、認識して、誰かが来たら、連れていき、日曜日には催しに集まるような、今に合った使い方が求められます。赤レンガの1階は、UCCと書いた委託のカフェと、倉庫の記録を展示品で見せる(入場料200円)の資料館がありますが、どちらもお世辞にも「誰かを連れていきたい」「日曜日はそこでお茶をしたい」とは思えませんでした。税金的に、また、市民のバランス的にその調和がとれていても「今」という需要をクリアしなければ、人は結果、来ません。おそらくこうした場所の多くは、市民の長老たちによる世代の層の壁があり、若くて可能性のある市民に開かれていないことが多いのではと想像します。「今」を表現するには「過去」の成功や失敗例などに固執していては何もできません。「今」に活躍する若い世代に大いに企画を立てさせ、自由に活用させ、それをじっと見守る。その繰り返しが、新しく若々しい流れ、鼓動となって、新たな移住者や町の若返りにつながるのではないかと思うのです。町の活性化とは、「今を活動する若い世代に伸び伸びと活動してもらえる環境を作る」こと。元気そうな成功を外から持ってくることでも、昔の成功にいつまでもこだわることでもないと思いました。